『装甲車型メカ鉄獣(12)/終章』

後はこの司令室に爆弾を仕掛けてコンピューターを破壊してしまえば良いだけだった。
それはそうと、健はどうなったのだろう?
そう思った処に彼の気配があった。
「健!無事だったか?」
「当たり前だ。お前こそ大丈夫か?」
「全くの無傷さ」
「それは良かった」
ジョーは健の声を聞きながら、ホッと力が抜けるのを感じた。
身体が大きく揺らいだ。
行けない、まだまだだ。
任務は終わってはいない。
ジョーは気を取り直して体勢を正し、踵から爆弾を取り出した。
「ジョー、それは私に任せて」
ジュンがジョーから爆弾を受け取った。
ジョーは更にペンシル型爆弾を取り出した。
健達が爆弾を仕掛け終わった処で、念入りにコンピューターに向けて、それを飛ばした。
「本当に眼が見えないのかいな?」
爆弾類を持っていない竜が見ていて思わず呟いた。
「みんな、脱出だ!」
健が叫んで、司令室を飛び出した。
竜が扉に体当たりして、ジョーが出易いようにした。
全員が部屋から脱出して、通路に伏せる。
ドカーン!と言う爆発音が連続して響いた。
ひと唸りして止まった爆発を確認して、そろそろと科学忍者隊は起き上がる。
「よし、ゴッドフェニックスへ戻ろう。
 ジョー、行けるか?」
「当たりめぇだ。おめぇらの足音を聴きながら走るから、心配は要らねぇ」
「手を引いてやる」
健がジョーの手を取った。
「構うな。1人で走れるんだ」
「意地を張るな。闘いはもう終わった」
健が穏やかな声を出した。
「さあ、氷山が崩れ落ちない内に早く此処から脱出するんだ!」
「ラジャー」
全員が走り始めた。
ジョーは仕方なく健の手に縋る事を妥協した。
本当はそんな自分が気に入らなかった。

三日月基地に戻るとすぐに南部博士が診察してくれた。
「心配は要らない。
 視力の喪失も眩暈も、一時的なものだ。
 点滴をしていれば、一両日中には治るだろう」
「良かった!」
健達は喜んだ。
ジョーも込み上げて来る喜びを堪え切れなかったが、必死にポーカーフェイスを装った。
南部は少しそれを気にした。
「ジョー。喜びは素直に表わして良いものなのだ。
 君のように全ての感情を自分の奥深くに押し隠してしまうのは良くないぞ」
「………………………………………」
ジョーは何と答えたら良いのか解らなかった。
確かに哀しみも苦しみも、全て人には見せないように自分の心の鎧の中に押し隠して来た。
そうしないと生きては来れなかった。
これからも迷わずそうする事だろう。
それは良くない事なのか?
だが、今更自分には違う生き方など出来そうにない。
本心を押し隠してこれまでも生きて来た。
そうするしかなかったからだ。
突然両親と引き離されて、1人大人の中で暮らした。
心に殻を作らないと暮らせなかった。
それは更に自分を苦しめる事でもあったが、更にその苦しみを押し隠して殻に篭ると言う悪循環だった。
自分でも解っている。
しかし、他の生き方など出来ようがない。
ジョーが考え込んでいると、健が言った。
「疲れているのなら、俺達は出て行くから少し休むといい」
「いや、そんなんじゃないんだが…。
 ちょっと考え事をしていただけだ」
「ジョー、まだ礼を言っていなかったな。
 装甲車型メカ鉄獣の奇襲から私を救ってくれて、助かったよ」
「ああ、そんな事は当たり前です。
 博士を守れなければ、護衛をしている意味などないのですから」
ジョーは事も無げに答えた。
彼にとっては、詳しい事は覚えていなかったとは言え、博士は恩人である。
そして、科学忍者隊の指揮者でもある。
養子として育てられ、車の運転が得意な自分が、なぜ護衛に就かないでいられるのか。
その方が彼にとっては不自然な事であった。
「早く治して、また運転しますよ。
 サーキットにも行きたいし」
「余り無理はしない方がいい。
 眩暈が収まって眼が見えるようになっても、2〜3日休んでおく方が身の為だ」
「そうでしょうか?」
「放射能を微量だが浴びているようだ。
 除染をしておいた。
 まだ放射能の影響は出ていないようだから、大丈夫だとは思うがね。
 私としては傍に置いて、様子を見たい」
博士は忙しい中、ジョーの事を本当に心配しているのだと言う事が解った。
ジョーは不覚にも涙を流しそうになって、慌てて眼にゴミが入った風を装って、指で止めた。
「大丈夫ですよ、博士。此処に付き添っていなくても。
 どうせこいつらが誰かしらいるでしょうし。
 博士はお忙しいんですから、俺の事など放っておいて下さい」
「ジョー」
「本当に大丈夫です。絶対にすぐに回復して見せますから。
 若いんですからね」
「解った。健、何か変化があったら小さな事でも知らせてくれたまえ」
「解りました」
博士は忙しそうに病室を出て行った。
「やっぱり忙しかったんだな…」
ジョーは呟いた。
「ジョー。博士の言った通りだぜ。
 俺達にもっと心を開いて欲しい。
 俺達はみんなそう思っている」
「心を閉ざしてなんかいねぇつもりだが?」
「だが、お前は何かに1人で苦しんでいる。
 長い付き合いの俺に解らないとでも思ったか?」
「復讐の事か?それならいつもの事だ。
 気にする事ぁ、ねぇよ」
「そうか?俺達の気にし過ぎなんだろうか?」
「そうさ。おめぇ達の気にし過ぎだ。
 俺は何も変わっちゃいねぇ。
 子供の時からな。
 復讐の事はおめぇ達には関係ねぇ。
 気にしねぇで欲しい。
 却って気にされる方が目障りだ」
「ジョー、そこまで言わなくてもいいわ。
 みんな心配しているのに……」
ジュンが思わず割り込んだ。
「済まねぇな。少し寝たい」
ジョーはシーツを被って、ゴロリとみんなが居ない方に寝返りを打った。
健はこれ以上は何も言うまいと思った。
みんなを制して、黙って病室から外に出た。
「今回は重症じゃない。みんなは帰ってくれ。俺が残る」
「でも、ジョーは……」
「あいつ、意地を張っているのさ。
 張らせておけばいい。
 辛くなったら、心が溢れ出す時もあるだろう。
 俺達はその時に力を貸せばいい。
 今はそっとしておいてやるのがいい」
「解ったわ…」
「博士の言うように、自分の全ての感情を心の奥深くに押し隠してしまう。
 でも、俺達に心を開いていないと思った事はそれ程ないだろう?
 アラン神父の事件の時のあいつは、俺達の前で涙を流した。
 あの時、感情を隠そうなどとはしなかった。
 ジョーは大丈夫だ。
 強い奴だと思うが、俺達の前で弱みを見せたくないだけなのかもしれん」
「そうねぇ」
ジュンも相槌を打った。
「とにかく、今回は眩暈も視力喪失も治ると言う博士のお墨付きだ。
 みんなで詰めている事はない」
「そうね。甚平。戻って店を開けるわよ」
「ええ〜っ?今から〜?」
不平そうな甚平の声は、病室のジョーにも聴こえた。
ジョーはふと笑った。
そして、この仲間達と出逢えた事に感謝しなくてはならない、と思った。




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