『ギャラクター本部発見す(1)』

その日、ジョーはサーキットを降りた時に、1人の男の視線を感じた。
国連軍選抜射撃部隊の隊長、レニック中佐だ。
彼は自分の部隊にジョーをスカウトしたがっている。
それもかなりしつこく付き纏っていたから、またそれか、とジョーは無視しようとした。
しかし、レニックの方は用有りげに彼に近づいて来た。
「国連軍には行きませんよ」
ジョーはG−2号機を整備しながら、背中でそう言った。
「今日の用事はそうではないんだよ」
レニックは後ろから缶コーヒーを放り投げた。
ジョーはそれを振り返る事なく、パシっと正確に受け止めた。
「じゃあ、何です?」
初めてレニックの方に振り返った。
「君達に間もなく指令が下る。
 ある男の情報によってな」
「ある男とは?」
「アレキサンダー・バディ。通称アレックス。
 私の同期の男で、国連軍の諜報部員をしておる。
 階級は私と同じ中佐だ」
「ISOの情報部員じゃなくて、国連軍の諜報部員からの情報ですって?」
「そうだ。その男はギャラクターの本部らしき場所の情報を偶然掴んだ」
「本当かっ?!」
ジョーはレニックに掴み掛からんばかりの勢いでそう叫んだ。
少しばかり声が大きくなった事を自覚した彼は、声を落とした。
「それでその男はどこにいる?
 あんたと同期って事は、50は過ぎているだろう?」
「南部博士と会見していると思うがね。
 年齢は行っているが、切れ者だ。
 ただ、変わり者だとの評判が高くてね。
 物事を根拠も証拠もなく、断定するんだが、それがいつでも当たっている」
「ふ〜ん」
「そして、1日中腰から下げたウィスキーを飲んでいるアルコール中毒患者だ」
「そんな人間を信用しろと?」
「切れ者だと言ったろう?彼の言う事は全て正しいんだ。
 今まではそれで通って来ている。
 ギャラクターの本部を見つけたとしたら、これは大手柄だ」
「そいつはそうだが……」
「近い内に南部君から呼び出しがある筈だ。
 覚悟しておきたまえ」
「その男を案内人にしたとして、足手纏いになって貰っちゃあ困るんだが……」
「大丈夫だ。彼にとっては酔っ払っている状態が正常なんだ。
 歳は51だが、身体も動く。
 科学忍者隊の足手纏いになるような事はするまいよ」
「それを何故わざわざ俺に?」
「君が一番彼に反発しそうだからな」
レニックは唇を曲げてニヤリと笑った。
その事を楽しんでいる様子だ。
「男の友情って奴か?」
「おかしな奴だが、信じてみる価値はある、と言っている」
「解ったよ。博士から呼び出しが来たら、逢えるんだろ?」
「恐らくはな。情報だけ渡して姿を晦ましている場合もあるかもしれないが」
「何故?」
「それは、国連軍の諜報部員だからだ。
 必要以上に顔は晒さないのが、彼らの掟だからな。
 我々とは違う」
「成る程……」
「彼が科学忍者隊とタッグを組むのを楽しみに見ている事にしよう。
 成り行きには非常に興味があるね」
「俺にはギャラクターの本部にしか興味はねぇ。
 本当に本部だったらいいんだがな…」
「それは行ってみなければ解るまい」
「仰る通りで」
ジョーは斬り付けるように言った。
レニックがスカウトに来たのではなくて、清々していた。
「アレックスはギャラクターのメカ鉄獣に妻子を殺されている。
 ギャラクターに対する恨みは大きい。君と同じだ」
「だから、国連軍の諜報部員なのに、ギャラクターに力を入れていると?」
「そう言う事だ。まあ、逢ってみれば最初は反発するかもしれんが、その内、君と同じ臭いを感じるようになるだろうよ」
「ほう」
「君の私に対する態度が軟化して来たようにね。
 私の場合は時間が掛かったが、アレックスは良い相棒になるだろう」
「アレキサンダー・バディか。
 良く覚えておこう」
「それがいい」
レニックは言い終えるとあっさりと姿を消した。
ジョーはその手に残った冷めた缶コーヒーをプシュっと音をさせて開け、苦い液体を喉に流し込んだ。
ブラックだった。
南部博士からの連絡がブレスレットに入ったのは、そんな時だった。
「こちらG−2号、どうぞ」
『レニック中佐が行ったかね?』
「今、帰りました」
『その事で科学忍者隊を招集する事になった。
 至急私の別荘へ集まってくれたまえ』
三日月基地ではないのは納得が出来る。
アレックスにその場所を知られる訳には行かないからである。
「アレックスはアル中だそうですが、大丈夫なんですかね?」
『変わり者だと言う評判だが、その実かなりの切れ者だと言う話だ』
「それは聞きましたが…」
『とにかく他の諸君も招集している。
 別荘に戻ってくれ』
「ラジャー」
来たな、と思った。
ついにギャラクターの本拠地に乗り込む事が出来るのだろうか?
アレックスはアル中だが、言っている事は全て正しい、とレニックは言っていた。
その情報の信憑性は高いと言う事だろう。
だとすれば、期待は高まる。
ジョーはG−2号機へと勇躍乗り込んだ。

「アレキサンダー・バディ中佐。
 国連軍の諜報部員をしておられる」
南部博士も相手が年上だけに、丁重に紹介した。
アレックスの年齢は51だとレニックから聞いたが、なかなか鍛え上げられた身体をしている。
40代前半ぐらいには見えた。
身長は180cmと言った処か。
髪はブロンドで短く刈り込んでいる。
小さなピアスをしていた。
ジョーは知らないが、それがアレックスの妻の形見らしい。
男が付けても差し支えないようなシンプルなデザインだった。
ワイルドなタイプだが、白人なので色は白かった。
半径1m以内に寄ると酒臭い。
アル中なので、その臭いは身体に染み付いてしまっている。
色白の顔を酒で赤く染めていた。
レニックが言う通り、酔っ払っている状態が普通だと見えて、酒場で見るような酔っ払いとは一線を画している。
シャキっとしているのだ。
ただ、腰からウィスキーが入った瓶を紐に付けてぶら下げていた。
常にチビチビと飲むのが癖らしい。
アルコールが切れた事はないのだろう。
健達が「大丈夫か?」と言う顔をしているのが良く解ったので、ジョーはレニックが言った事を掻い摘んでヒソヒソと説明した。
「成る程。国連軍の切れ者か…」
健がアレックスを見る。
確かにアレックスの眼はアル中の人間にありがちな眼ではなかった。
しっかりとした光を放っている。
これから彼が何を言い出すのか、科学忍者隊はそれに集中した。
「俺はギャラクターの本部か、それ相応の機能を持つと見られる基地を発見した」
そこまでの情報がなかった健達は一様にどよめいた。
ジョーは腕を組んで、アレックスの次の言葉を待った。




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