『ギャラクター本部発見す(3)』

「お前っ!」
しゃっくりをしながら、アレックスがジョーを指差した。
「生意気だが、気に入った。
 何よりもその眼がいい。
 ギャラクターに対してギラギラと輝くその眼。
 憎んでいるのか?ヒック!」
「ああ、憎んでいるとも!
 奴らを斃せるのなら、この身を八つ裂きにされても構わねぇぐれぇにな!」
「その瞳だ。俺と同じ臭いがする」
「解ってるぜ。あんた、いや、バディ中佐の事情は、レニック中佐が直々に俺に言いに来た」
「ほう。レニックも余計なお喋りを。ヒック!」
「自分で言っているようなものじゃねぇか。酔っ払いめ」
「ジョー」
健が止めた。
「構わないさ。酔っ払いの状態が俺には普通だと言ったろう。
 酒が切れたら、身体が震え出す。
 そんな事になったのも、ギャラクターのメカ鉄獣に妻子を殺されたからだ。ヒック!
 貴様ら、臆したりしたら容赦はしないぞ。
 俺は臆病を一番嫌う。
 ギャラクターに復讐する為には、手段を選ばない。ヒック。
 例え科学忍者隊だとて、容赦はしないぞ」
「だから、言ったろ。
 こいつらに限ってはそんな事ぁねぇって。
 あんたが俺達に銃を向ける事があったら、俺が先に撃つ。
 さっき言ったばかりだが、もう忘れやがったのか?」
ジョーは強気だった。
健が眼でやめろ、と言っている。
相手にするだけ無駄だと健は思っている。
しかし、ジョーはアレックスの瞳の中に真実(ほんとう)を見たのだ。
自分と同じ、復讐心に燃えたただの男だ。
頭が切れるらしい。
その頭脳とやらを大いに使ってやろうじゃねぇか、とジョーは健に囁いた。
「この基地への侵入口は井戸だけですか?」
健が訊いた。
「他にもあるだろうが、俺が見つけたのはそれだけさ」
アレックスはまた酒を飲んでいる。
もう空だ。
逆さにしてまだ飲む。
ぽたりとしか落ちて来ない。
卑しい浮浪者のように酒を求める。
ジョーは健達に向かって、肩を竦めて見せた。
そこに南部博士が高級なウィスキーの瓶を持って現われた。
未開封だ。
何時の間にかいなくなっていたのは、ウィスキーを調達する為か。
(博士もたまには飲むんだな…)
とジョーは意外に思った。
博士が酔った処など1度もお目に掛かった事はないからだ。
きっと寝酒にでも嗜むのだろう。
「バディ中佐。これを持って行きたまえ」
アレックスはそれを見て喜んだ。
「ちょっと瓶が大きいが、贅沢は言えないな。
 こんな高級品なんて久し振りだ。ヒック!」
健とジョーが顔を見合わせた。
いくら酒が切れると禁断症状が現われるからと言って、これで良いのだろうか?
2人は同じ懸念を抱えていた。
「あんた、そのしゃっくりを引っ込めねぇと、敵の基地には潜入出来ねぇぞ」
ジョーは呆れてそう言った。
「気にする事はない。任務となれば自然に止まる」
「どうだかね。さて、そろそろ行こうじゃねぇか」
「博士。バディ中佐はどうするのです?
 ゴッドフェニックスに乗せても良いのですか?」
健が訊いた。
リーダーとしては当然の質問だった。
「うむ。この事態では部外者を乗せるのも止むを得まい」
「解りました」
「G−5号機を酒臭くされるのは敵わんぞい」
竜が甚平に小声でぼやいた。
ジュンと甚平は笑うしかなかった。

アレックスは軍隊の人間だから、飛行物体に乗る事は慣れていた。
トップドームに上がる時に両脇からアレックスを支えた健とジョーはその酒臭さに閉口した。
「ジョー。レーダー上に正確な位置を映し出せ」
「おう。もう出しているさ。特にレーダー反応はねぇな」
「レーダー反応などある筈がない。
 奴らは妨害電波を出しているからな」
アレックスの言葉からしゃっくりが消えていた。
「金属反応もしない筈だ。
 あの地対空ミサイルは山肌から顔を出しているにも関わらず、金属探知機に無反応だった」
酒臭いのは相変わらずだが、しゃっくりが消えただけで、大分しっかりして来た印象がある。
やはり切れ者だと言う話は本当なのだろう。
「空から眼で確認するしかあの基地を探す方法はない。
 俺に任せておけ」
アレックスは酒を飲みながら、そう言った。
「お手並み拝見と行くか…」
ジョーは健に向かって囁いた。
アレックスは健の席に座っているので、健はレーダー席の傍に立っていた。
竜は隣から流れて来る臭気に、思わず噎せた。
まだ17。酒の臭いには慣れていない。
「お前達、まだ未成年か?」
「こう見えても全員そうだが?」
ジョーが答えた。
「ふふん。南部博士も未成年を集めて良くこんなチームを作ったものだ。
 普通なら大人の精鋭部隊を集めるだろうに」
「余計なお世話だ。あんたは敵の本部とやらを見つければいい。
 それまでは少し静かにしていろ。
 俺達だって戦略を練ったりしてぇんだ!」
ジョーが叫んだ。
それが効いてか効かずかアレックスは静かになった。
「今の内に作戦を練ろう」
健が言った。
「今回は竜にも参加して貰う。
 ギャラクターの本部なら全員で潜入するべきだ」
「ああ、そうだな」
「井戸から入ったら、すぐにメカ鉄獣の倉庫があったろう?
 まずはあれを全て爆破しよう。
 それが先決だ」
「問題はその後だな。その先については、バディ中佐のデータもねぇぞ」
「ああ、そこは臨機応変に動くしかあるまい。
 とにかく本当に本部なのなら、危険が付き纏う。
 そして、俺達にとっても最後の闘いとなる。
 覚悟は出来ているな?」
「当然さ」
「私もよ」
「あたぼうよ〜!」
ゴッドフェニックスを操縦している竜以外の全員が応えた。
「バディ中佐の事はどこまで信じて良いのか解らんが、いざとなったら我々だけで行動しよう」
「あいつの復讐心だけは本物だ」
ジョーが呟いた。
「あのピアスは多分奥さんの形見だぜ。
 あいつに似つかわしくねぇと思っていたが、それなら納得が行く。
 確かにただの酔っ払いだが、根拠もなく正しい事を言うと言うあの頭は利用出来る。
 レニック中佐の言った事は、嘘ではあるめぇよ」
ジョーはチラッとモニターを見ているアレックスの後ろ姿を見た。
「井戸があったぞ。だが、塞がれているな」
アレックスが言った。
「どう言う事だ?」
ジョーが叫び、科学忍者隊はゴッドフェニックスの前方に集まった。
「あれは干ばつだな。
 井戸が干上がったんだ。
 恐らくはギャラクターが人が殺到するのを避ける事を理由に作り出した干ばつだろう」
アレックスが言う事は当たっていた。
何かの拍子に基地が発見されては困るのだ。
「それだけ重要な拠点となっている事は間違いない。
 この山肌を回って拡大写真を撮ってみろ。
 どこかに隙間がある筈だ。
 俺が見つけてやる」
アレックスは自信有りげだった。
ジョーはこいつを本当に信じて良いものなのかと一瞬疑いの眼を向けたが、今の処、怪しい様子はなかった。




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