『ギャラクター本部発見す(4)』

アレックスはそれから拡大写真の分析に入った。
ウィスキーは相変わらずチビチビと飲んではいるが、しゃっくりは完全に止まっている。
眼が真剣になっている。
「出入口はこの写真で確認した限り、あの井戸しかないな」
アレックスは溜息を吐いた。
「夜半に潜り込むしかあるまい」
「本当にちゃんと写真を分析したんだろうな?」
ジョーが胸元を掴みかからんばかりに言った。
「ああ、1枚1枚細かく説明してやってもいいぞ。
 だが、今は仮眠と食事に時間を割いた方が利口だと言うものだ」
アレックスの言う事にも一理ある。
「全員ゴッドフェニックスから降りて、食事を摂ろう」
健が言った。
「アレ…バディ中佐はどうする?」
ジョーが訊いた。
「我々とは別行動して貰うしかないな。
 俺達はこの姿で食事には行けない」
「解った解った。正体を知られたくないと言うんだろう?
 俺も馬鹿じゃない。
 1時間後にこの下に戻って来る。
 それでいいだろう?」
アレックスが提案した。
ジョーはアレックスがゴッドフェニックスの中に残ると言い出さないかと疑っていたので、ホッとしていた。
一緒に出れば、アレックスにはゴッドフェニックスによじ登る事は出来ない。
いくら軍隊の人間だからとて、身体能力的に無理である。
アレックスは科学忍者隊と共に、トップドームから降り、1時間後にトップドームへと上がった。
約束通りだった。
「食事以外に、どこかに連絡を取ったりしなかったのか?バディ中佐」
ジョーが言った。
「残念だが、軍への連絡の装置は相方が持っていた」
「では、どうやってレニック中佐に連絡をした?」
「この携帯電話だ」
「何だ、連絡手段を持っているんじゃねぇか?」
「もう充電も切れた……」
アレックスがジョーに携帯電話を投げ渡したので、ジョーはそれを受け取って確認をした。
確かに充電が切れている。
「ふ〜ん。俺はまだあんたを信用している訳じゃねぇ。
 ギャラクターはいくらでも卑劣な手段を取って来やがるからな」
「俺をギャラクターだと思っているのか?」
「その恨みは真実だと思う。だが、俺達を出し抜いて何かやらかさねぇとは限らねぇ。
 それにギャラクターがあんたに変装している可能性もまだ拭い去れねぇ」
「なかなか鋭い考え方をする男だな。
 疑り深い。それはギャラクターにこれまで辛酸を舐めさせられて来たと言う事なのだろう。
 俺もそうだった。メカ鉄獣に巻き込まれて妻子を殺されたその時、俺は調査の為、北極圏にいた。
 知らせを受けてもすぐには帰れなかった。
 妻の両親には詰られた。
 でも、これが俺の仕事だった……。
 俺はこの手で妻子の仇を討つ。
 その気持ちには間違いがない。
 だが、君達を裏切って、自分だけ遁走すると言う気はない。
 何の得にもならない」
アレックスは耳のピアスに手を触れた。
「本当かな?」
ジョーは低い声で言った。
「いざとなったら、俺達を出し抜くつもりなんじゃねぇのか?」
「あんた達が余りにも頼りなかったら、俺はそうするかもしれんな」
「そうか。頼りないかどうか見てみればいいさ」
ジョーはアレックスの瞳に燃える復讐心に打たれた。
「健、バディ中佐は嘘は言ってねぇ。
 最後の言葉まで全て真実さ。
 正直過ぎるぐれぇだ。
 精々頼り甲斐がある行動を心掛けようぜ」
ジョーは健に向けて、と言うよりも科学忍者隊全員に言った。
それから各自仮眠を取る事になった。
ゴッドフェニックスの床に毛布を敷いた。
ジョーは自席で眼を閉じた。
しかし、これからギャラクターの本部に潜入するのかと思うと、興奮して眠る事が出来なかった。
人の気配を感じた。
酒臭いからアレックスだ。
「何か用か?」
ジョーは眼を閉じたまま微動だにせずに訊いた。
「お前だけ寝ていないようだったからな」
「あんたも眠れねぇのか?」
「妻子の仇を討てるチャンスだからな」
「俺も同じさ」
「その若さでギャラクターをそれ程恨んでいるとはどう言う事だ?」
アレックスは息を潜めて話し掛けて来た。
他の連中を起こすまいと言う配慮はあるようだった。
「俺の両親は10年前に俺の眼の前でギャラクターに殺された。
 俺自身も生死の境を彷徨った」
「だから、南部博士はお前を科学忍者隊にしたのだな」
「理由は解らねぇが、参加させて貰った事には感謝している。
 お陰で復讐するチャンスが出来たんだからな。
 俺は科学忍者隊にならずとも、1人ででも復讐に手を染めていた。
 だから南部博士は俺を拾ってくれたんだろうよ」
「成る程な…。凄惨な体験をしたな。
 俺は遺体しか見ていない。
 それでも惨たらしい物だった。
 殺されるその場を見ていたら、とても今平静ではいられまい」
「アルコールに走ったのもそのせいだろう?」
「その通りさ。お前のようなガキに見抜かれるようじゃ、情けないがな」
「まあ、そうガキ扱いすんな。これでも様々な経験をして来た。
 下手な大人よりもずっと酷い経験もな」
「そうだろうな…。科学忍者隊は最前線で闘って来たと聴いている。
 どうだ、これから本部を叩く気分は」
「本部だといいがな。いくらあんたが頭が切れるとは言っても、ギャラクターはその上を行くかもしれねぇ。
 俺はあんたを信じたくなって来ているが、第二基地であると言う可能性も10%はあるんだろ?」
「まあな…」
「ギャラクターの本部を叩けたら、俺の本懐が遂げられる。
 親父とお袋の仇を取って、俺は自分の夢に滑り出す事が出来る」
「お前の夢は何だ?」
「俺は普段はプライベートレーサーをしている。解るだろ?」
「成る程、将来のF1レーサーって訳か……」
ジョーはアレックスに喋り過ぎたかと、少し反省した。
「俺はあんたに気を許し過ぎたらしい。
 同じ目的を持っているせいかな?」
「それは俺も同じだ。
 こんなガキに本心を言ってしまうとは思いも寄らなかった。ヒック!」
「しゃっくりが出て来やがった」
ジョーがニヤリと笑った。
アレックスも照れ臭そうに笑った。
「俺はお前達の足を引っ張ったりする事はないが、いざとなったら置いて行け」
「え?復讐するんだろ?」
「どんな形でも復讐は遂げて見せる。
 だが、科学忍者隊の足を引っ張りたくはないって事さ。
 どうせお前達の間ではそう言う打ち合わせになっているんだろう?」
「それもお見通しか?」
ジョーはアレックスが切れ者だと言う事を改めて理解した。
否定しても無駄だった。
「あの井戸の蓋を外して、潜り込むのか?
 外でも警戒しているかもしれねぇぜ」
「そこは警備陣を倒して行くしかないだろう」
「あんた、武器はその銃だけか?」
「2丁ある。弾丸も持っている」
「だが、それはオートマティックじゃねぇな。
 リボルバーでは装填に時間が掛かる」
「まあ、そこは弱点と言えば弱点だ」
「成る程。俺が援護してやるから、出来るだけ俺から離れるな」
「何だって?」
「俺は射撃の名手だ。心配はするな」
ジョーは酒臭いのにはもう慣れたらしい。
何時の間にか鬱陶しいと言う気持ちが消えていた。
「後30分で予定の時間だぜ」
「ああ」
「俺はやってやる!復讐を誓った10年前の自分の為にな」
ジョーは低い声で決意を口にした。




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