『ギャラクター本部発見す(5)』

「ちょっと待て」
スクリーンに出しっ放しだった現地の地図をアレックスが見咎めた。
「これをプリントアウトした地図はあるか?」
ジョーに訊く。
「あるぜ。出してやる」
2人がこそこそと何かやり始めたのに気づき、健が起きて来た。
「済まねぇな。後30分あったのによ」
「いや、構わん。何をしている?」
「バディ中佐が何か思い付いたらしい」
ジョーは地図を床に広げた。
そこには例の井戸の場所に印が付いている。
アレックスは自分の荷物から、定規と分度器を取り出し、線を引いて行った。
それは段々と星型に仕上がって行くのが、ジョーにも健にも解った。
「これは何だ?」
「拡大写真では気付かなかったが、これがこの本部への入口だ」
アレックスは自信有りげに答えた。
「この星型の頂点に…、つまり入口は5箇所あるって事か?」
「また根拠はなしですか?」
ジョーに続いて健が訊いた。
「その通り。だが、これは100%間違いがない。
 何故かと言えば、私がギャラクターならそうするからだ」
「今ひとつ説明が良く解らねぇが……。健、どうする?
 1人ずつ分かれて乗り込むか?
 バディ中佐は俺が引き受けた」
「では、ジョーがあの井戸から潜り込むって事か?」
「危険は百も承知さ。そっちだって何があるか解らねぇ」
「バディ中佐。この他の4箇所も井戸ですか?」
「違うだろう。建物のエレベーターとか、カモフラージュしてあるに決まっている」
「成る程。それを探さなければならないとなると、俺達は潜入が少し遅れるかもしれない。
 ジョー、危険だぞ」
「解っているさ。望む処だ。
 親父とお袋の仇討ちが出来るのなら、俺は危険など厭わねぇ」
「ジョーの気持ちは良く解る。
 だが、怪我だけはするな」
「ああ。死ぬ覚悟はいつでも出来ているが、無駄死にだけはご勘弁だ。
 此処が本拠地かどうかまだ解らねぇ以上、簡単にやられたりはしねぇさ」
そう言う事で、彼らは5箇所の入口に分かれて潜入する事になった。

「バディ中佐。行くぜ」
「ああ、いつでも構わないぜ」
ウィスキーを一口飲んでおきながら、アレックスは平気な顔で言った。
「良くもまあ、酒を飲みながら任務が出来るもんだ」
ジョーは呆れたように言った。
「お前は酒を飲んだ事がないのか?」
「俺の国では18で大人と見なされるが、ユートランドでは二十歳にならないと飲酒が禁じられているのでね」
「それだけで飲酒をしない玉には見えんが」
「へへ。任務の事やレースの事を考えて、酒や煙草はやらないだけさ」
「成る程ね」
アレックスはもう一口飲んだ。
ジョーは臨戦体勢に入った。
「とうっ!」
井戸を警備している敵兵をいとも簡単に手刀で倒してしまった。
もう1人いる。
それは口を抑えて声が出せないようにしておいて、鳩尾にパンチを入れた。
「警備が2人だけとは随分手薄だな。
 バディ中佐、気をつけろ。
 まだ隠れている筈だ」
ジョーは油断のない眼を辺りに配った。
いたっ!
暗闇の中にマシンガンを構えた敵兵が、5人…6人。
「敵はマシンガンを持っている。あんたは出て来るな」
ジョーはアレックスにそう言い置くと、羽根手裏剣を唇に咥え、エアガンを腰から取り出した。
敵の渦へと飛び込んで行く。
羽根手裏剣が華麗に舞った。
マシンガンを取り落とす敵兵が続出した。
その敵兵に念の為、エアガンを撃ち込んだ。
「何だ。その銃では敵は死なないではないか?」
「一時気絶するだけさ」
「科学忍者隊は殺さないと言うのか?」
「南部博士の方針だ。でも、爆弾を使えば間接的に殺す事になるがね」
「成る程、直接手を下さないように、と言う親心か」
「だが、俺はこの手を汚している。
 この羽根手裏剣でな」
「恨みが深いからか」
「それもあるかもしれねぇ。
 日頃は手の甲などを狙っている。
 でも、どうしてもそうしなければならねぇ時もある」
「それはそうだ。生命の遣り取りをしているんだからな」
「俺は相棒を殺したあんたを気に入ってはいねぇ。
 だが、協力はしてやるよ。
 ギャラクターを壊滅させる為にな。
 さあ、行こうぜ」
ジョーは井戸に被せられた蓋を開けに掛かった。
釘が打たれている。
エアガンの銃把を利用して、板を外した。
穴から飛び込むのに、アレックスにはロープが必要な事が解った。
「俺は先に行くが、ロープは持っているのか?」
「心配するな。軍の諜報部員だぞ」
アレックスはリュックサックを下ろして、荷物を出した。
「成る程。縄梯子があるのか。
 じゃあ、先に行って待ってる」
ジョーは軽々と井戸へと飛び込んだ。
「こっちの騒ぎを聞きつけて、下に何が待っているか解らない。
 気をつけろよ」
アレックスがそう言うのが聴こえた。
ジョーは枯れた井戸の中に着地した。
左右が通路になっている。
アレックスが降りて来るのを待った。
「こっちだ!」
アレックスが指差したのは右側だった。
ジョーはアレックスを道案内に走り始めた。
通路はやがて、鉄の通路となった。
確かに此処はギャラクターの基地だ。
本部であって欲しい。
ジョーは願いを込めた。
この切れ者のアレックスが90%の確率で本部だと言っている。
「当たっているといいな」
つい口に出てしまった。
「当たっているさ。俺はそう思いたい」
アレックスはジョーの背中を軽く叩いた。
相変わらず酒臭いが、しゃっくりは見事に消えている。
任務中は『やる』男だとジョーには解った。
少し雪解けのような物を感じていた。
共に闘いに挑む、その前だからであろうか。
「さあ、前に進もう。敵兵が出て来たら俺に任せろ」
前に進むと早速敵兵がわらわらと現われた。
ジョーは「おいでなすったか」とばかりに華麗に回転した。
長い脚が敵兵を薙ぎ払って行く。
アレックスは銃を手にした。
まずはこの入口からはメカ鉄獣10体が近くにある事が解っている。
ジョーはそれを爆破するつもりでいた。
こいつらを倒すのに、時間は取りたくなかった。
羽根手裏剣を雨霰と降らせる。
それが確実に敵兵の手の甲や腕に当たっている事に、アレックスは感嘆の声を上げた。
射撃も正確だが、このガキはなかなかやる。
アレックスはジョーに対して、信頼感を持ち始めていた。




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