『ギャラクター本部発見す(6)』

ジョーはアレックスの事を気に掛けながら闘っていた。
しかし、アレックスは自分の銃でそれなりにやっているようだ。
ギャラクターの隊員服のプロテクターがない部分を狙って撃っている辺り、さすがに切れ者だ。
ジョーは感心しながら、敵兵を拳で打ちのめした。
動きが速くて、アレックスにはジョーの動向が見えない。
さすがの軍人でも、見切れない程のスピードを、彼は出していた。
科学忍者隊の身体能力に素直に驚くアレックスであった。
「危ねぇっ!」
アレックスの後方から彼を狙っていた隊員を、ジョーは羽根手裏剣で倒した。
「俺の事ばかり気にしていると、自分の生命が無くなるぜ」
「解った。すまん…」
アレックスが素直に謝ったので、ジョーは「おや?」と思った。
割と尊大な態度のように思っていたのだが、大分変わって来ている。
ジョーと行動を共にする事で、アレックスは変わった。
それは同じ目的を持つ人間と行動しているからなのか。
ジョーにも、いや、アレックス自身にも解らなかった。
しかし、ジョーを信頼し始めているのは確かな事だった。
(このガキは、身体にも精神にも確固とした芯が入っている。
 俺の相棒とは違って、決してブレない)
アレックスはそう思った。
それよりも自分の身を守る事だ、とジョーに言われたのを思い出した。
敵兵の首筋を銃把で叩き打ち、マシンガンを奪い取った。
それを見ていたジョーが、それでいい、とばかりにニヤリと笑った。
マシンガンを持ったアレックスは思いっきり乱射をした。
ジョーは自分で避けてくれる。
何の迷いもなく、撃つ事が出来た。
敵兵がドタドタと斃れて行く。
弾が切れると斃れた敵からまたマシンガンを戴く。
科学忍者隊と違って、殺す事には容赦がなかった。
ジョーは少し顔を顰めたが、国連軍には軍のやり方があるのだろう、と黙殺した。
「メカ鉄獣を探すぞ」
「ああ、そうしよう」
2人はアレックスが先導して、メカ鉄獣の倉庫へと向かった。
確かに10体のメカ鉄獣が静かに眠っていた。
「こんな奴らに1度に出て来られたんじゃ堪らねぇや」
ジョーは踵から爆弾を取り出した。
「あんた、爆発物は持っているのか?」
「ああ、持っている」
「出せ。俺の分だけじゃとても足りねぇ」
「解ってる」
アレックスはリュックサックを下ろし、爆弾をいくつも取り出した。
「これは時限爆弾だ。何分にセットする?」
「俺のは1分で爆発する」
「短いな。まあ、いい」
アレックスは時間を1分にセットする事にして、メカ鉄獣の下側に爆弾を取り付けて行った。
「脱出するぞ」
ジョーはアレックスを引っ張った。
そして、部屋の外に出るとマントでアレックスを庇った。
ドカーンと爆発音と激しい揺れが来た。
「待て、動くな。全部が爆発しているかどうか確認して来る」
ジョーはそう言って火の中に戻って行った。
アレックスは呆然とそれを見ていた。
科学忍者隊のコンドルのジョー。
勇気も度胸もある男だ。
ジョーは少し煤だらけになって出て来た。
「大丈夫だ。全部破壊出来ている」
ニヤリと笑うと、アレックスに握手を求めた。
「あんたのお陰さ。俺には爆弾が2つしかなかったからな。
 いつもは仲間と使うんだが…。
 後、残っているのはこのペンシル型爆弾だけだ」
アレックスはジョーからの握手を受けた。
2人の間に年代を超えた不思議な友情が芽生えた瞬間だった。
「健、聴こえるか?バディ中佐の協力で、10体のメカ鉄獣は全て爆破した」
『そうか、それは良かった。
 俺達もそれぞれ潜入したばかりだ。
 入口を探すのに手間取ったが、バディ中佐が指摘した場所に、基地への入口はあった』
「ほう。やっぱり切れ者と言うのは本当の事だったな」
『ジョー。メカ鉄獣を爆破したとなれば、敵には潜入が知れている筈だ。
 気をつけて掛かれ』
「解ってる。何かあったら連絡する」
『頼んだぞ』
ジョーはアレックスに振り返った。
「先を急ぐぞ。大丈夫かい?」
アレックスはウィスキーを飲んでいた。
「お前が俺を押し倒した時に瓶が割れないかと気が気じゃなかった」
「心配する処が違うだろう?」
ジョーは快活に笑った。
「あんたも不思議な人間だな」
「そうかもしれないな。弱い人間さ。
 妻子を殺され、酒に溺れたんだからな。
 お前は若いのに強いな」
「そんな事ぁねぇ。悪夢に苦しむ夜もある。さあ、行くぜ」
アレックスはジョーの言葉に少し驚いていた。
齢18歳の少年は、やはり苦しんでいたのか。
自分のような復讐鬼にはなり切れないのかもしれない。
しかし、いざとなったら、ジョーは敵の首領、ベルク・カッツェを殺す心算は出来ている。
自分の手は既に血で汚れている。
地獄に堕ちる覚悟もとっくにしていた。
ジョーはそれをアレックスに話さなかった。
話す必要もないだろう。
ベルク・カッツェが現われたら、アレックスの事など気にせずにカッツェに生命賭けで向かって行くだけだ。
この生命、捨てる覚悟などとうにしている。
アレックスにその事を話して、下手な同情は買いたくなかった。
復讐鬼と化しているアレックスがジョーの話にどれだけ心を動かされるのかは解らなかったが……。
「さあ、急ごうぜ」
ジョーはわらわらと集まり始めた敵兵の中に飛び込んで行く。
エアガンの三日月型キットを並んだ敵兵の顎にヒットさせて行った。
次の瞬間には羽根手裏剣が空を舞う。
的確に敵の腕を射抜いている。
アレックスはマシンガンで派手にやっていた。
ジョーはそれを放っておいて、自分の闘いに専念した。
「うおりゃあ!」
長い脚でバレエダンサーのようにぐるりと回転した。
激しい打撃を受けた敵が薙ぎ倒されて行く。
相当な脚力だ。
ジョーの方は涼しい顔をしている。
これだけの働きをしても、息は切れていない。
マントが華麗に広がった。
ジョーはジャンプして、別手にいる敵をその膝蹴りで倒したのだ。
その神出鬼没振りは素晴らしい。
やられた敵自身が、どうして自分がやられたのか解っていない、と言う顔をして倒れている。
それ程、ジョーの行動力は敵の何枚も上を行っていた。
動きが速過ぎるのだ。
ジョーの動きを見切れないから、事態が解らないまま気絶してしまうのである。
軍人のアレックスが見ても見切れないのだから、仕方がないだろう。
尤もギャラクターの下位隊員達に見切られる程なら、科学忍者隊は誰も務まらない。
ジョーは敵の動きを先に見切っていて、今相手をしている敵の次に攻撃する攻撃目標を既に定めている。
だから動きがより早いのである。
1人で倒せる敵の数が群を抜いて多いのだ。
健はいつも全体を俯瞰しているから、ジョーが斬り込み隊長的な存在になる。
その辺りの呼吸はいつも上手く行っていた。
羽根手裏剣が敵の喉を突いた。
アレックスを狙っていたのだ。
仕方がなかった。
ジョーは首を振った。
こうして自分の手は血に染まって行くのだ。




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