『ギャラクター本部発見す(7)』

ジョーとアレックスは少しずつ先へと進んで行った。
「この後の事はあんたの情報にもなかったと思うが…」
ジョーはアレックスに向かって言った。
「そうだ。この先へは進めなかった。
 だが、此処のコンピューターをハッキングして、中の地図を手に入れてある」
「何時の間にそんな事をしていたんだ!?」
「今、お前が闘っているその間にな。
 優秀な戦士だから、助かったよ」
それでアレックスは敵に狙われて、ジョーに救われる事となったのだ。
「ちょっと集中している間に狙われてしまった。
 悪い事をしたな。
 手を汚させてしまった」
「俺の手はどうせとっくに汚れている。
 今更気になどしないさ」
「そうかな?」
アレックスはそれ以上は言わなかった。
ジョーが地獄に堕ちる決意をしている事を計り知ったからなのだろう。
さすがに切れ者、ジョーの考えている事を手に取るように理解したらしい。
「それで、その地図は完璧に手に入ったのか?」
「ああ。それによると中枢部は此処から南に800メートル」
「そんなに遠くはねぇな」
「そこに『X』のマークが付いている。
 これは何の暗号か?」
「ギャラクターの総裁Xに違いねぇ。
 だとすれば首領のベルク・カッツェもそこにいる事になる」
「お前の親の仇はそいつのようだな」
「そうさ。俺の両親を殺すように命じたのはそいつさ」
「俺の妻子を殺したのも、間接的に言えばそのカッツェとやらだな?」
「そうなるだろうな。最前線で指揮を執っている事が多い奴だからな」
「よし、そいつの寝首を掻いてやる。
 この時間なら寝ているかもしれない」
「そいつはどうかな?何しろこの騒ぎだぜ。
 メカ鉄獣を10体もやられたのに、いくら夜中だとは言え、暢気に寝ているとは思えねぇな」
「それもそうだ。俺としては愚かな事を言ってしまった」
アレックスは自分の発言を反省した。
切れ者の筈が怒りの為に一瞬箍が外れ、狂いを生じたのだろう。
「ジョー。お前は冷静だな。
 さすがにこれまで多くの死線を潜(くぐ)って来ただけの事はある」
「当たりめぇさ。この日の為に闘って来たんだからな」
「俺もさ。早くこの中枢部に辿り着きたい処だが、その前に難関がある」
「何だ?」
「戦車部隊だ。戦車の倉庫がある。
 それ程大きい戦車ではないかもしれない。
 部屋自体が大きくはないからな」
「だとすれば、カニ型ブルドーザーかもしれねぇ。
 小さな戦車だ。
 俺のペンシル型爆弾でも破壊は出来るだろう。
 中は1人乗りになっていて、乗組員がいなければ動かせねぇ」
「成る程。それを1台ずつ乗っ取って、先に進むのがいいだろう。
 時間の節約にもなるし、敵を蹴散らせるぞ」
アレックスが言った。
「あんた、やっぱり切れ者だな」
ジョーは感心した。
アレックスはまたウィスキーを飲んだ。
「飲んでいる方が頭が冴えるんでな」
「なら少しは控えておけ。無くなってしまうぞ」
ジョーはウィスキーの瓶を見た。
南部博士は大瓶をくれたのだが、もう半分はアレックスの胃の中だ。
「それだけ飲んで良くトイレに行きたくならねぇな。
 酒ってぇのは、利尿作用があるって聴いたぜ」
「汗で全部出てしまっている。
 お前と違って闘いの場には慣れていないからな」
「ふ〜ん、成る程ね。良く出来ている」
ジョーは妙な処に感心しながら、頷いた。
「じゃあ、行こうじゃねぇか」
「ああ」
アレックスは言葉少なに答えた。
「仲間達にも中枢部の在り処は知らせておかなければならない」
ジョーはブレスレットに向かって、通信した。
「今いる場所から南に800メートルだ。
 一瞬バードスクランブルを発信するから、キャッチしてくれ」
『解った、ジョー。さすがバディ中佐は良くやってくれるな』
「ああ、切れ者振りを遺憾無く発揮してくれてるぜ」
『気をつけろよ』
「そっちもな」
通信は終わった。
ジョーはアレックスを促して、『戦車の倉庫』へと向かう事にした。
「こっちだ」
アレックスは地図を見ようとはしない。
既にタブレット端末は、リュックサックの中だ。
地図は彼の頭の中に全て入っていた。
やはり頭の出来が違うようだ。
ジョーはアレックスの切れ者振りを改めて実感した。
アレックスの案内で、倉庫に着くまでにも、敵兵は現われた。
ジョーが1人で受け持っても充分に余裕があった。
アレックスは一応、マシンガンを手にしていたが、使う必要は全くなかった。
脅しに使っていれば後は、ジョーが全てやってくれた。
ジョーの闘い振りは際立っていた。
長い手足を利用して、振り子のように敵を薙ぎ倒し、鉄拳を喰らわす。
そして彼のキックは踵を利用して行なう為、痛みを倍増させ、敵兵を即座に気絶させる。
アレックスは見惚れるようにそれを眺めていれば良かった。
「おい、行くぜ」
ジョーが言った時には、敵兵は全て床に伸びていた。
「ああ……」
アレックスは放心したようになっていた。
「切れ者のバディ中佐。どうした?」
「お前が余りにも強いんで、敵に回したら恐ろしいぞ、と考えただけだ」
「裏切るつもりか?」
「まさか。ただ、そのベルク・カッツェとやらを眼の前にした時、自分はどう言う行動をするのかと考えると、お前と先を争うような事になるかもしれない、と思っただけだ」
「考えるな。目的は同じだ。
 カッツェを手に掛ける事が出来るのなら、その時、あんたに一発ぐれぇ弾を撃たせてやるよ」
「本当か?」
「俺は嘘はつかねぇ。誓ってもいいぜ。
 あんたが裏切りさえしなければな」
「解った。契約成立だ」
アレックスはジョーに握手を求めた。
ジョーはそれを握り返さなかった。
「握手はカッツェの野郎を斃してからにしようぜ」
ジョーの瞳は復讐の炎に燃えていた。
「とにかくカニ型ブルドーザーを戴きに行こうぜ。
 事は一刻を争う」
「そうだな」
アレックスは全速力で走り始めた。
50代に入ったとは思えないスピードだ。
さすがに国連軍の諜報部員。
身体は日頃から鍛えているようだ。
ジョーは少し力を落としてその後を走った。
やがて倉庫が見えて来た。
扉が閉まっている。
「スイッチは此処だ。
 指紋認証で開くようになっている。
 そのデータもハッキングしてあるから心配するな」
アレックスはタブレット端末を取り出した。
その画面に鮮明な人の指を映し出し、指紋認証装置に掛けた。
何と、それだけで簡単にシャッターが開き始めた。
ジョーは半ば呆れたようにアレックスを見た。
こいつは本物だ。
しかし、すぐに彼は意識を部屋の中に戻した。
これからペンシル型爆弾で彼らが乗っ取る2台を残して、全部爆破しなければならなかった。




inserted by FC2 system