『ギャラクター本部発見す(9)』

「この先に自家発電装置が設置されている部屋が1つある」
アレックスが言った。
「解った、案内してくれ。俺がガンで破壊してやる」
「こっちだ」
アレックスは迷う事なく、通路を進んで行く。
酒が切れない内は大丈夫だろう。
ジョーは少し心配になった。
「済まないが……」
アレックスが立ち止まったのはトイレの前だった。
「少し小用を足して行く。待っていてくれ」
ジョーはこんな緊急時に、と呆れたが、仕方がない。
「ちょっと待て」
ジョーは自分が中に入って、個室までバーンとドアを開け、敵兵がいない事を確認した。
「早くしろ」
焦れながら、そう答えて、トイレを出た。
あれだけのウィスキーを飲んでいれば、利尿作用がある筈だ。
絶対にトイレに行きたくなると思っていた。
こんな処で時間を取られたくはなかった。
アレックスはスッキリした顔で出て来たが、相変わらず赤ら顔だった。
あれだけ出ていたしゃっくりは止まったままだ。
不思議なものだとジョーは思う。
基地に潜り込むとなったら、見事に消えた。
「変わったお人だ…」
思わず呟いてしまった。
「俺は軍でも変人扱いされている。
 今更何を言われても気にはしないさ」
アレックスは涼しい顔で答えた。
「でも、レニック中佐は違うんだろ?」
「あいつは同期でな。俺の事情を汲んでくれている」
「あの人もなかなか尊大な人だが、仕事は出来る。
 出来る者同士で馬があったか?」
「ほう、お前が褒めるとは、アルバートも大したものだ」
「アルバート?」
ジョーはレニックのファーストネームを初めて聴いた。
「初めて聴いたぜ」
「そうか。まあ、軍ではファーストネームは呼ばないからな」
「アルバート・レニックか…。悪くねぇ名前だな。
 まあ、そんな事はどうでもいい。
 先に進むがいいか?」
「待ってくれ。出したら飲みたくなった」
「酒はそれしかねぇんだぞ!飲むなと言った筈だ」
「解っているが、少しだけ……」
ジョーは呆れて声も出なかった。
アレックスはチビチビと飲んで我慢したようだった。
「行こう。こっちだ」
急に生き生きとして、走り始めた。
ジョーはそれを追った。
やがて右側に扉が見えて来た。
「これだな」
「ようし、下がってろ!」
ジョーは扉に体当たりして、一回転しながら飛び込んだ。
勿論エアガンを尖兵にしている。
中には誰もいなかったが、様々な機器が動いていた。
「自家発電装置に間違いねぇな」
ジョーはそう呟いて、エアガンであちらこちらを撃ちまくった。
シューと音を立てて、機械が動かなくなったのが解った。
それと同時に一瞬だが、明かりが消え掛かった。
「破壊は成功だ。……健!」
ジョーはブレスレットで健を呼び出した。
「自家発電装置の1つは破壊したぜ」
『解った!』
戦闘中のようだ。
闘いの緊張感が健の声から感じ取れる。
ジョーはそれ以上は話し掛けなかった。
通信を終えて、アレックスに振り返った。
「この後は中枢部か?もう800メートル近く走って来たんじゃねぇか?」
「そうだな。残り100メートルと言った処だ。
 その部屋は100畳はありそうな広い空洞になっている。
 俺がハッキングしたコンピューターはその中にある。
 今、続きをやっているから少し時間をくれ」
アレックスはジョーが自家発電装置を破壊している間に、リュックサックからタブレット端末を取り出していた。
それにキーボードを取り付けて床に置き、何やら打っている。
ジョーは周囲を警戒しながら、「早くしろ」とだけ言った。
アレックスの集中力を妨げたくはなかった。
「解ったぞ。この部屋には例のミサイルの制御装置がある。
 そして、それを守る為に隊長1名とチーフが2名配置されている。
 それから…、巨大なロボットがいるようだ。
 これはかなりの強敵だろうな」
「巨大なロボット……。そうだろうな。
 生身の人間では敵わねぇだろう」
「どうするつもりだ?」
「チーフがいるのなら、バズーカ砲を持っている可能性がある。
 俺はそいつを利用しようと考えている」
「成る程。勝ち目はあるか?」
「そのロボットを見てみないと解らねぇな」
「時間があればデータをもっとハッキングするんだが、余り続けてアクセスしているとバレるんでな」
「それぐれぇの事は俺でも解るさ。
 ベルク・カッツェがいるかどうかも、今のハッキングでは解らなかったろ?
 奴は神出鬼没だからな。
 だが、此処が本部なら必ずいるだろうぜ」
「そう願いたいね」
「バディ中佐。あんたが此処が本部だと言ったんだぜ」
「90%の確率でな…」
「何かトーンダウンしたように感じるんだが……」
「この、『X』と言う100畳程の部屋。
 どうやら『X』本人はいないようなんだ。
 それが今のハッキングで解った」
「成る程、それがトーンダウンの理由か」
ジョーは少し落胆した。
その時、全体的に明かりが薄暗くなった。
「健達がやったな」
『ジョー。2つ目の自家発電装置は破壊したぞ』
案の定、健からの通信が入った。
ジョーは今のハッキングの結果を整理して話した。
『これだけの基地は本部である可能性が高いと思っているのだが……。
 まあ、もしそうではなかったとしても、破壊しておく必要性はある』
「解ってるさ」
『そう落胆するな。まだ本部ではないと決まった訳ではない。
 俺達もそこに行くから、突入は待て。
 バードスクランブルを発信するんだ』
「解ったぜ」
ジョーは言われたように、ブレスレットを強く押し、バードスクランブルを発信した。
「バードスクランブルとは何だ?」
アレックスが訊いて来た。
「居場所を簡単に知らせる為の方法さ。
 すぐに仲間達が此処に集まって来る」
「いよいよ、最後の闘いか……」
「俺達はその巨大ロボットと隊長達を倒し、ベルク・カッツェを出来れば生け捕りにし、ミサイルの発射を阻止しなければならねぇ。
 まだそう簡単に終わりはしねぇぜ」
「勿論さ。望む処だ」
アレックスもその瞳から強い光を放った。
健達が駆けつけて来た。
竜がアレックスを見るなり、ある物を腰から外した。
「これを南部博士から預かっておったんじゃ」
それはウィスキーの瓶だった。
アレックスは大層喜んで、今持っているウィスキーを全部飲み干してしまった。
新たな瓶を自分の腰に紐でぶら下げる。
「良くもまあ、これだけ飲めるもんだな。
 さっきトイレに行ったから、大丈夫か」
ジョーが呆れた顔をした。
「よし、いよいよだ。これで俺達の長い闘いが終わりになるかもしれない」
健が言った。
ジョーには悪い予感がしていた。
この基地は本部じゃない。
第二基地に違いない。
そんな囁きが彼の頭の中で揺らいでいた。
ジョーは慌ててその考えを打ち消した。
健達にはその事を言わなかった。




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