『ギャラクター本部発見す(10)』

「扉を開けるのは俺に任せとけ」
アレックスが言った。
いつもは爆弾で爆破したり、ジョーがエアガンなどを使って力技でこじ開ける事が多いのだが、彼はハッキングで部屋の開け方を知っているに違いなかった。
「バディ中佐に任せておけば大丈夫だ」
ジョーが仲間達を安心させるように言った。
アレックスはまたタブレット端末を取り出した。
「今度は指紋認証ではなく、掌紋認証だ」
と言って、クリアな映像を画面に出した。
どうしてそんな事が出来るのか、ジョーには解らない。
他のメンバーも同様だ。
だが、どこかのデータベースから引っ張って来たに違いない事は解る。
タブレットの画面の掌紋で認証をパスする事が出来た。
「開くぞ」
アレックスが投げ出すように言った。
ついにこの時がやって来た。
しかし、この『X』と名の付く部屋にはその名に反して、総裁Xはいないと言う。
ベルク・カッツェが総裁Xに謁見する間なのか?
それにしては広い場所を取り過ぎているように思うが、アレックスが言うようにミサイルの制御装置があるのであれば、それも理解出来る気がする。
「バディ中佐は俺達の後に入って下さい」
健がそう言った。
巨大なロボットがいると言う。
何が起こるか解らなかった。
アレックスはまたハッキングの続きを試みている様子だった。
科学忍者隊はそれを捨て置き、中に突入した。
只1人、ジョーだけはドアの外にいるアレックスの事を気にしていた。
果たして中に入ると、例の巨大ロボットがいた。
中世の騎士の鎧のような物を身につけたような格好で、背の高さは5メートル程か。
「科学忍法竜巻ファイターだ!」
健が咄嗟に命令した。
竜巻ファイターのフォーメーションを組んでも、巨大ロボットには届かない。
しかし、やるしかない。
今ならアレックスも外にいる。
巻き込む事はないだろう。
「科学忍法竜巻ファイター!」
甚平が掛け声を掛けた。
彼らは超高速で回り始めた。
甚平の声にそちらを見たアレックスは余りの事に驚いていた。
「生身の人間があんな技を……」
ともすれば風に飛ばされそうになりながら、アレックスは敵のロボットを見た。
全然堪えていない。
何かが火を吹いている。
竜巻ファイターはそれを飲み込んだが、中の人間は無事なのか、とアレックスは心配になった。
竜巻ファイターのフォーメーションが崩れた。
ジョーと竜のそれぞれの肩に1発ずつ砲弾が喰い込んでいた。
「ぐっ!」
2人は呻きながらも立ち上がって来た。
ジョーは左肩だったが、竜は右肩をやられていた。
利き腕をやられて、不便かもしれない。
「ジョー!竜!」
健が叫んだ。
「俺は大丈夫だぜ。竜、おめぇは?」
「おらも何とか耐えてみせるわさ」
2人は気丈にもそう答えた。
傷は貫通していたが、大きかった。
「解ったぞ!」
タブレット端末を仕舞い込み、アレックスが叫びながら部屋に入って来た。
「奴の肩のプレートの部分、あそこから小型ミサイルが出ているんだ。
 あれを破壊しなければ、あのロボットには勝てない」
そう言ってアレックスは敵から奪ったマシンガンを手にした。
「あのロボットの装甲じゃあ、そのマシンガンじゃ無理だ」
蒼い顔をしたジョーが呟いた。
その眼はチーフを探していた。
「いいか、健。あのチーフが持っているバズーカ砲を奪ってくれ。
 後は俺がやる」
「その傷で何を言っている?!」
「俺の傷は幸い左肩だ。問題は、ねぇ……」
「とにかく、そこの2人。こっちへ来い」
アレックスがリュックサックから応急処置セットを取り出していた。
「お願いします、バディ中佐」
健がそう言い、2人にアレックスの処に行くように告げた。
「戦力が減っちまうぞ」
「傷の手当をして貰わないと、更に戦力が減る事になる。
 今暫くは俺達で持ち堪えるから、早く手当をして貰え」
「解ったよ……」
ジョーは渋々と言った形で従った。
「バディ中佐。ジョーを先に手当してやってくれ。
 バズーカ砲を撃たなければならねぇんだ……」
竜が唸りながらそう言った。
「竜、俺は慣れているから大丈夫さ」
「いんや、ジョーが先に手当を受けるべきだわい」
「俺に言わせれば、彼が言う通りだ」
アレックスはそう言い、ジョーに軍隊式の手当を始めた。
それは的確で確実な手当だった。
止血もしっかりなされている。
「さすがは国連軍の中佐だな…」
ジョーは息苦しそうに言った。
「見た処、お前の方が彼よりも重傷だぞ」
アレックスが眉を顰めた。
「2人共、弾が貫通している事は何よりだが、出血が多い。
 細菌の混入に気をつけろ」
「この戦場でそんな事を言われてもな」
ジョーの手当は終わった。
「ありがとよ、中佐」
ジョーは竜と入れ替わった。
戦況を見る為に立ち上がると、身体がぐらりとした。
失血による眩暈だ。
「こんなもん、糞くらえだ!」
ジョーは頭を振った。
健達は敵のロボットの攻撃を避けるのがやっとの様子だった。
「だったら、俺がやるしかねぇな」
ジョーはビュンっと姿を消した。
アレックスが呆れてそれを見ていた。
「重傷だと言ったものを……」
「あいつは言ったって聞かんわい」
竜が困った顔をして言った。
「あいたたた……。
 さて、おらもひと働きするかの」
「お前さんも彼程ではないが、重傷だぞ」
「そんな事は解っとる。
 だが、やらねばならん時もある。
 この基地が本部なら、尚更だわい」
アレックスはその言葉を聴いて、少し胸が痛んだ。
『総裁X』とやらがいない以上、10%の可能性の方が高くなって来たように思える。
その事はジョーも気づいている様子だった。
だが、彼は仲間にそれを言わなかった。
仲間の士気を下げるばかりではない。
アレックスのミスだったと認めたくはなかったのだ。
そこまで2人の絆は深まっていた。
それに、まだ90%の方の確率も残っていると信じたかった。
ジョーは遠くで高みの見物をしているチーフ達に高速で走り寄った。
100畳程の部屋だ。
だだっ広い中に、中央にミサイルの制御装置が塔のように立っていた。
それの脇を摺り抜けて、ジョーはひた走った。
敵のチーフが2人、バズーカ砲を担いで飛び出して来た。
ジョーにとっては思うツボだった。
エアガンの射程距離に入って来るのを待っていたのだ。
バズーカ砲は発射される前に奪わなければならない。
1人でこれをやり遂げるのは厳しいものがあるが、やるしか道はなかった。




inserted by FC2 system