『ギャラクター本部発見す(11)』

ジョーは傷を負った身体で超速で走っていた。
いくらアレックスが軍隊式の手当をしてくれたからと言って、これは無謀な事である。
しかし、ジョーは止まらなかった。
敵のチーフが2人、彼を狙ってバズーカ砲を担ぎ、こちらに走って来る。
ジョーが手負いである事は、止血がしてある事から、先方には明白だ。
1人はやれる、と思った。
だが、もう1人はどうするのか?
2人同時にやるには、羽根手裏剣しかないが、その程度で止める事が出来るのか?
ジョーはさすがに不安を覚えたが、どちらかのバズーカ砲を奪わなければならない事だけは事実だ。
彼は羽根手裏剣を4本、唇に咥えた。
バズーカ砲を支えているのは、2人共右肩である。
右利きであると言う証拠だ。
外したとしても最悪右手に当たれば撃つ事は出来まい。
ジョーはそう計算した。
彼は羽根手裏剣を放ってから、エアガンを撃つつもりでいた。
敵の左手はバズーカ砲の前の方を支えている。
手指はどちらもバズーカ砲の右側に出ていると言う訳だ。
ジョーはそこを狙った。
彼の右腕は傷を受けていないので、自由に動かす事が出来た。
左腕は肩をやられた為、だらりと下げている。
「フッ!」
羽根手裏剣を投げた。
指のちょっとしたバランス感覚によって、彼は狙い違わず、2人のチーフの両手の甲を射抜いた。
そして、腰からエアガンを取り出し、チーフの心臓目掛けて発射した。
そこに治療を終えた竜がやって来た。
「手伝おうと思ったんだがのう。
 ジョー1人で充分だったかいな」
竜は「呆れた」と言うように倒れているチーフ2人を見た。
「ジョー、バズーカ砲は2本あればあった方がいいわい。
 1本はおらが持って行く」
「そいつは助かる。頼むぜ。
 傷は大丈夫かい?」
「おらより重傷のジョーが言うなって。
 正直キツイが、おらも科学忍者隊じゃて」
竜はそれ以上は言わなかった。
蒼白な顔色をしている。
息苦しそうだ。
「無理はするな。俺のペースに合わせる事ぁねぇ」
「大丈夫だわい」
「そうか。解った。
 じゃあ、行くぜ!」
ジョーは倒れているチーフからバズーカ砲を1本戴いた。
竜も1本を怪我をしていない左肩に担いだ。
2人は急ぎ巨大ロボットと格闘している健達の方へと向かった。
健達は苦戦している。
小型ミサイルを避けるのがやっとの様子だ。
アレックスがウィスキーの瓶を手に何か叫んでいる。
「ミサイル発射口よりも、前後から腹を狙えっ!」
と言っているのが解った。
「根拠はあるのか?」
「ないさ」
アレックスは事も無げに言った。
いつもの事じゃないか。
ジョーはそう思ってニヤリと笑った。
「竜、おめぇ、そのバズーカ砲を撃てるか?」
「初めてじゃが……。
 多分大丈夫じゃろうて」
「バディ中佐が言った事は聴こえたか?」
「いんや」
「おめぇはロボットの後ろに回って、腰の辺りを狙え。
 俺は前から腹を狙う」
「挟み撃ちかいな」
「そう言う事だ。弾は1発しかねぇ。
 失敗は許されねぇぜ」
「解った。おらに任せてくれい」
敵の巨大ロボットは前方にばかり注意が行っている。
背後から狙う方が安全だろう。
ジョーはそう言った事を考えて、バズーカ砲に慣れていない竜にそちらを任せたのだ。
竜は利き腕の右肩にバズーカ砲を持ち替えた。
「怪我をしている方じゃが、仕方がないて…。
 ジョーも頑張れよ」
竜はかなりキツそうだった。
「ああ、竜、おめぇこそ気をつけろよ
 気を確かにな……」
「大丈夫じゃ」
2人は影のように別れた。
竜が敵のロボットの背後に回り込むのを待つ。
大きな敵なので、打ち損じる事はないだろう。
竜だって殆ど使わないが、エアガンを所有しているのだ。
ジョーは竜が後方に回り切ったのを確認した。
「健、俺の掛け声で避(よ)けろ!」
ジョーはそう言って、ブレスレットに向かって、竜に言った。
「俺の合図で同時に撃つぞ!
 3、2、1、発射!」
2人はバズーカ砲を同時に放った。
後ろに飛ばされるような衝撃があった。
ジョーは必死に足を踏ん張り、飛ばされずに終わったが、竜は飛ばされて肩を打撲していた。
「竜!大丈夫か?」
『……右肩を打ったが、大丈夫だ』
「そいつは良かった」
ジョーはそう言った時に、自分自身の身体がぐらりと揺れたのを感じたが、踏みとどまった。
「くそぅ。失血から眩暈がしやがるぜ」
そう言いながら、敵のロボットを見た。
前後から腹部に穴を空けられたロボットは、誘爆を繰り返していた。
手足と頭を残して、本体が全て破裂した。
ガガーンと音を立てて、残った部分が床に落下した。
「さすがはバディ中佐。言った通りになったな」
健が呟いた。
「なかなかの勘だろ?」
ジョーが言った。
「さて、お次はあの隊長だな。
 蝶のような姿をしてやがる。
 あの羽には何か仕掛けられているに違いねぇな」
ジョーはまた嫌な予感がした。
何かある。あの隊長には何か……。
何だろう?あの羽に違和感があった。
「あの羽には気をつけろ。
 鱗粉(りんぷん)に何か悪質な物体が仕掛けられているに違いない」
アレックスが言った。
「やっぱりか……」
ジョーはアレックスの言葉を受けて、呟いた。
絶対に何かがあるとは思っていたが、それを鱗粉だと言い当てたアレックスはやはり鋭い。
「鱗粉を避けるったって、どんな手がある?」
ジョーは額から汗を流した。
「竜巻ファイターしか手はないが、ジョーと竜が傷を負っている以上、それは出来ない。
 ジュン、甚平。3人で竜巻ファイターをするしかない」
健が指示を出した。
「いや、それじゃあ不足だろう。
 完全形でやろうぜ」
ジョーが強気の発言をした。
「竜、おめぇ、出来るか?」
「やってみないと解らねぇが……。
 やってみるわさ」
「しかし、土台になるんだ。
 負担が掛かるぞ」
健が眉を顰めた。
「だが、鱗粉に対抗するには、それしかあるめぇよ」
「………………………………………」
健は腕を組んで悩んだ。
ジョーと竜は手負いだ。
どうしたらいい?
リーダーとしての苦悩の時間が過ぎた。




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