『ギャラクター本部発見す(12)』

健はリーダーとして深く悩んだ。
だが、自分の決断が遅れる事で、仲間達を危険に晒す事も出来なかった。
その時、アレックスが言った。
「少し待っていろ。俺に考えがある」
そう言って、酒の瓶を腰にしっかり結び付け、彼は走り始めた。
「ジュン、バディ中佐の護衛を頼む」
「ラジャー」
ジュンはすぐさまアレックスを追った。
アレックスは頭の中に入っているもう1つの自家発電装置がある部屋に向かったのだ。
「何をするおつもりですか?」
ジュンがその部屋に辿り着くとヨーヨー爆弾を取り出し乍ら訊いた。
「重油を使うのさ。あの羽に掛けてやれば、鱗粉を飛ばす事は出来ないだろうよ」
「成る程、その考えは理に叶っていますね」
ジュンはそう言いながら、ヨーヨー爆弾で部屋のドアに穴を空けた。
「此処で待っていろ」
アレックスがそう言ったので、ジュンは中を覗き込み、敵が潜んでいないかどうかを確認してから、外での護衛に当たった。
アレックスは一斗缶を持って出て来た。
「これだけあれば充分だ。
 急いで戻ろう」
「ええ」
ジュンはアレックスの前を走り、後方を気にしながら、進んだ。
その間、『X』の間に残された男達は、鱗粉に当たらないようにするのが精一杯だった。
傷のせいで一瞬遅れた、竜のマントの一部が溶けた事で、その威力は解っている。
絶対に当たる事は出来ない。
敵は離れた場所にいるままで攻撃して来る。
それは鱗粉の効果が大きいからだろう。
近づく必要がないのだ。
従って、ジョーのエアガンの射程距離になかなか入って来ない。
こちらから近づくしかないのだが、そうすると危険性が増す。
「くそぅ。さっき奪ったバズーカ砲は2本共使っちまったしな…」
ジョーはこのまま成す術もないのか、と唇を噛んだ。
先程から健がブーメランで攻撃を試みているのだが、なかなか敵に届かないし、届いても簡単に躱されて虚しく戻って来るのだ。
健は自分の身を囮にしようと、1人走り始めた。
「健!やめろ!」
ジョーが叫んだ時、一斗缶を持ったアレックスが戻って来た。
「健、早く戻れ!」
ジョーの叫びに一瞬振り向いた健は、事情が解って戻ろうとしたが、敵の鱗粉に襲われた。
向こうは羽を羽ばたかせるだけでいい。
全く体力を消耗していなかった。
健は思いっきりジャンプをし、高い天井のパイプに掴まった。
辛うじて鱗粉からは避ける事が出来た。
アレックスは「この一斗缶を奴の上に投げるから、それを撃ってくれ」とジョーに言った。
「それなら力自慢のおらが…」
竜が名乗り出た。
「その傷で大丈夫か?」
ジョーが危ぶむ眼で彼を見た。
健は仲間達の攻撃を察知して、まだ天井から降りては来ない。
「おらが投げる。左腕でも充分行ける。
 但し、距離はもう少し近づかないと駄目だわい」
「それは俺のエアガンでも同じさ」
「甚平。煙幕を焚くのよ」
ジュンが言った。
彼女のヨーヨー爆弾はもう使用済みだが、甚平のアメリカンクラッカーにはまだ爆発物が残されている。
「貸して頂戴」
ジュンはアメリカンクラッカーからその爆発物を取り出して、「ジョー、これを投げるから撃って頂戴」と言った。
「お安い御用だ」
ジュンが投げる。
ジョーが撃つ。
そして爆弾が爆発し、辺りは煙がもうもうとした。
「竜、走れっ!」
ジョーが叫んだ。
「解っとる!」
竜も走った。
「ジョー、投げるぞ!」
「おう!」
竜は力一杯敵の隊長の上に向けて、一斗缶を投げた。
ジョーはそれが丁度良い場所に行ったのを見計らってエアガンで撃った。
重油の雨に敵の隊長は悲鳴を上げた。
「ううっ!何だこれは!?」
蝶の羽がくるくると丸まって行く。
「やった〜!」
見ていた甚平が叫んだ。
健も降りて来た。
「バディ中佐。あれは何ですか?」
事情を知らない健が訊いた。
「発電室にあった重油だよ」
アレックスはウィスキーを飲みながら答えた。
「鱗粉を飛ばせなくなるばかりか、羽が丸まると言う副産物まであったよ」
アレックスは嬉しそうに言った。
「あれなら倒せるだろう。
 今がチャンスだ」
「ありがとう、バディ中佐」
「礼には及ばん」
アレックスが答えた時、『良くもやってくれたな』と言う甲高い声がした。
科学忍者隊にとっては、聴き慣れた声。
「バディ中佐。あれがベルク・カッツェさ」
ジョーが言った。
姿はまだ見えない。
だが、ジョーは上空に嫌な空気を感じた。
健が掴まっていた天井のパイプ。
あれはパイプではなく、カッツェが自由に乗り物に乗って動ける『レール』になっていたのだ。
レールから台車のような簡易的な乗り物がぶら下がっている。
それでカッツェが近づいて来た。
「やっと現われたか、ベルク・カッツェ!」
健が叫んだ。
「君達はこの基地を本部だと目してやって来たようだが、残念乍ら総裁X様は此処にはおられん。
 新たな本部として設計した事は事実だが、ミサイル発射基地に目的を変えたのだ。
 従って、此処はただの基地。
 本部ではない。
 残念だったな、小僧ども」
残念だったのは、科学忍者隊だけではない。
アレックスだ。
歯軋りをして悔しがった。
一旦は新たな本部として設計したのなら、データを見て本部として認定しても仕方がない事だ。
ジョーはそう思っていた。
いや、科学忍者隊の全員がアレックスを責めるような気持ちは持っていなかった。
「新たな本部にならなくて、残念だったが、この基地は俺達が破壊する」
健がカッツェを指差してそう言った時、ドーンと激しい音が鳴り、暗いなりに点っていた明かりが消えた。
「ふふ。折角自家発電装置の部屋まで行ったんですもの。
 時限爆弾を仕掛けておいたのよ」
ジュンが笑った。
カッツェが乗っていた乗り物が動かなくなった。
「これでミサイルも飛ばす事は出来まい。
 どうだ?カッツェ?!」
ジョーは頭がぐらりとするのを堪えながら叫んだ。
「貴様ら〜っ!」
カッツェが暗闇の中、床に飛び降りた音がした。
「逃がすなっ!」
健の命令で科学忍者隊達は動き始めた。
アレックスもマシンガンを持って走った。
妻子の仇である。
健とジョーにとっては親の仇だ。
今度こそ逃すものか、と言う気持ちが強かった。
カッツェは6人に追い詰められ、壁にぶち当たった。




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