『ギャラクター本部発見す(13)』

カッツェは暗闇に慣れてはいなかった。
100畳もある広い部屋を走り、逃げている内に壁に突き当たってしまった。
「さて、どうする?カッツェ。
 此処にはてめぇに個人的恨みを持っている者が3人もいるんだ。
 無事に逃げ出せると思うか?」
ジョーが失血から来る眩暈と闘いながら言った。
「お前だな。ベルク・カッツェとやらは。
 お前達が破壊したヤマノテシティーを覚えていような?
 いや、覚えていないか?
 これまでにいくつもの街を破壊して来た貴様らに、妻と娘をメカ鉄獣に踏み潰された俺の気持ちが解って溜まるか!」
アレックスは少し興奮状態にあった。
肩で息をし、憤懣やるかたない様子を示している。
だが、酒が切れている訳ではない。
酒切れの発作ではなく、純粋な怒りから来るものだった。
「俺達もそれぞれにてめぇに恨みを抱えている。
 解っているだろう?」
「ジョー、そのぐらいにしておけ。
 カッツェは生け捕りにしろとの命令が出ている。
 まだまだ余罪がある筈だからな。
 計画中の作戦など、吐いて貰わなければならない」
「健、良く落ち着いていられるな」
「俺はリーダーだ。
 自分の事情よりも命令を重視する」
健の言う事は尤もだった。
だが、ジョーはアレックスに約束をしていた。
1発ぐらいは撃たせてやる、と。
ベルク・カッツェは壁に手を這わせ、横に少しずつずれるように彼らから逃れようとしている。
「俺達から逃れられると思っているのか?
 電気系統がやられて、脱出装置も作動しないんじゃねぇのか?」
「それは、どうかな?」
カッツェがくぐもった声を出した。
その瞬間、カッツェの姿は壁の向こうに消えた。
「しまった!隠し扉があったか!」
健が叫んだ。
ジョーが怪我をしていない右側の肩を使って、体当たりを試みた。
「くそぅ。駄目だ」
「自分の脱出装置にだけは、単独の発電装置か特大電池を使っていたに違いない」
健が溜息を吐いた。
「相変わらず逃げ足の早い奴だ」
呟いた途端に、身体がぐらりとした。
「ジョー、大丈夫か?」
「今の体当たりで傷が少し開いたかもしれねぇ。
 だが、大丈夫だ」
「止血帯に血が滲んで来たぞ」
「心配するな。そう言う意味では、竜の方が打撃を受けている」
「確かにそうだ」
「バディ中佐。済まねぇな。
 約束は果たせなかった…」
「お前のせいじゃない。仕方がないだろう。
 それよりまだ火星を狙っている地対空ミサイルの爆破と、この地下に眠る金塊の行方を探さなければなるまい」
アレックスは悔しそうにウィスキーを飲んだ。
まだしゃっくりは出ていない。
やるべき事を把握しているからだろう。
「ミサイルを爆破するのは最後だ。
 まずは手分けをして金塊の有無を探そう」
健が言った。
「そうね。ミサイルを破壊したら、全てが滅びるわ」
ジュンも言った。
「ジョーと竜はゴッドフェニックスに戻って休んでいろ。
 金塊探しとミサイルの爆破は俺達でやる」
「大丈夫だ。竜はともかく俺はな」
「ジョー、意地を張るな」
「意地を張っている訳じゃねぇ。
 最後まで任務を全うしてぇだけさ。
 駄目なら大人しく此処で撤退するさ」
「本当だな?顔色が悪いぞ」
「でぇ丈夫だって言ったろ?
 竜、おめぇは調子が悪そうだ。
 無理して俺に付き合う事ぁねぇぞ」
竜は確かに1度転倒し、負傷した右肩を打撲、更に一斗缶を投げている。
傷口は明らかに開いている。
「バディ中佐。もう1度手当をお願い出来ますか?」
健が訊いた。
「勿論だ。任せておけ」
アレックスはジョーの方に向き直った。
「お前は本当にいいのか?」
「大丈夫だ」
「解った。行け」
アレックスはあっさりとそう言った。
ジョーが言い出したら聞かないと言う事はもうこれまでの付き合いの中で解っている。
「おい、太っちょ。自分で歩けるか?
 俺には支え切れないぞ」
「大丈夫じゃわい」
竜は健を済まなそうに見た。
「済まねぇな、健。みんな…」
「馬鹿だな。竜巻ファイターでの負傷は責められる事ではない。
 気にするな。俺達もすぐに戻る」
健が穏やかな表情を竜に向けた。
「金塊の在り処を説明しよう」
アレックスはリュックサックの表側のチャックを開け、手帳を取り出した。
サッサッと線を引いて行く。
地図だった。
「元々は此処にあった筈だ。
 既に持ち出されているとは思うがな」
「解りました。探してみます」
「頼んだぞ」
アレックスはメモを破って健に渡すと、竜と共に歩き始めた。
「そこの意地っ張りの手当も割と急がなければならない事を忘れずにな」
そう言い残し、背を向けた。
その背中は意気消沈しているように見えた。
この基地が本部でなかったばかりか、やっと合い見(まみ)えたベルク・カッツェには簡単に逃げられてしまった。
科学忍者隊はいつもの事と、比較的ショックを受けてはいないようだったが、アレックスが受けたショックは大きかったのだ。
妻子の仇を取るつもりで此処まで乗り込んで来た。
それがこんな結果に終わるとは……。
ジョーにはアレックスの思いが手に取るように解った。
「さあ、金塊を探そう。
 まだ残っている可能性もある。
 残っていたら、国連軍の手を借りなければならない」
「多分、持ち出されているぜ。
 でなけりゃ、カッツェがあんなにあっさりこの基地を捨てるとは思えねぇ」
ジョーが言った。
「確かにな。でも可能性がある以上、探さぬ訳には行くまい」
「ああ、解ってる。とにかく行こうぜ」
「ジョー、肩を貸そうか?
 大分辛そうだぞ」
「え?」
ジョー自身は気がつかなかったが、呼吸も苦しそうだし、何よりも顔色が蒼白だった。
「大丈夫だ。行ける」
健は見極めるようにジョーの顔色を見ていたが、やがて言った。
「よし、みんな行くぞ!
 バディ中佐がくれた地図によると、この下だ!」
健が先頭になって、『X』の間の外にある通路の階段を降り始めた。




inserted by FC2 system