『ギャラクター本部発見す〜番外編』

「ジョーも竜も小型ミサイルで受けた傷で良くも此処まで耐えたものだ」
2人がそれぞれ手術室に入っている時に、向かい合う双方の部屋の間の通路で、南部博士は呟いた。
「バディ中佐の手当が良かったとは言え、痛みは相当に激しかった筈だ」
「そうですね。2人ともそんな素振りは見せませんでした」
健が答えた。
「ギャラクターの本部かもしれないと言う思いが、痛みを忘れさせていたのだろう……」
「残念な事でした。
 でも、一旦は本部の代わりとして建設された基地です。
 バディ中佐を責める事は出来ません」
「それは私も同じ気持ちだよ。
 実際良くやってくれただろう?」
「ええ。それはもう……。
 博士はバディ中佐の評判をご存知だったのですね」
「レニック中佐から詳しく聴いていたし、私なりに調べたからな」
「調べた?」
「情報源が確かかどうか、私にも確認する義務がある」
「そう言う事だったんですか……」
健は博士の座るソファーの横に座った。
「竜巻ファイターがあのような形で破られた事は、これから憂慮すべき点だと思っています。
 小型ミサイルを弾き飛ばすどころか吸い込んでしまったとは……」
健はそれを悩んでいた。
「うむ。普通なら弾き飛ばすだけの威力が竜巻ファイターにはあるのだが、それ以上のエネルギーがその小型ミサイルにはあったのだろう。
 ジョーの傷を見たが、かなり口径の大きいミサイルだった。
 2人とも重傷だが、竜は身体が大きい分、ダメージが多少は少ないようだ」
「確かにバディ中佐がジョーの方が重傷だと言っていましたが……」
「それはジョーの身体には筋肉ばかりで脂肪がないからだ。
 竜は幸いにして、と言うか…、脂肪の部分が多かった」
「成る程、そう言う事ですか」
「回復も竜の方が早いだろう。
 今回はこの2人だったが、健とジュンがやられていた危険もあった。
 竜巻ファイターについては、私が増強策を考えておく」
「解りました。お願いします」
「2人とも重傷だが、生命には別状ない。
 手術が終わって麻酔から覚めたら、くれぐれも無理をしないように言ってくれたまえ」
南部博士はそう言い残して、病室の前を去って行った。
「博士が此処を安心して去ったって事は、私達も安心していいって事ね」
ジュンが溜息を吐いた。
「ああ、何よりの安心材料だな」
健も答えた。
「恐ろしい相手だったね。
 あの巨大ロボットも、蝶の隊長も……。
 さすがに本部だな、とおいら、感心したのにな」
「悔しいのはみんな同じさ、甚平。
 俺達だけじゃない。
 あのバディ中佐も復讐が出来ると思って乗り込んで来たものを、眼の前でカッツェに逃げられたからな。
 それにあそこが本部じゃなかった事を一番悔しがっているのもあの人だろう」
「そうね…。でも、あの人、本当に良くやってくれたわ」
「驚く程の切れ者だった。
 変わり者だとの噂も本当だろうが、恐らくは奥さんと娘さんを亡くしてから、ああなってしまったのだろうな」
「気の毒な人ね……」
「あの人は復讐心を糧にこれからも諜報活動を続けて行く事だろう」
「何かジョーの兄貴に重なるものがあるね」
「甚平。そう言った意味では、ジョーもバディ中佐に共感していたのかも」
「そうだろうな。最後の方は随分息が合っていた」
「いいコンビだったね」
と甚平が言った。
「また情報を持ってやって来るかもしれないぞ」
健が笑って言った。
「アレキサンダー・バディ中佐。
 今回の事件で、軍隊内部の評判は上がるのか下がるのか…。
 どちらかしらね?」
「評価は上がるだろう。
 準本部的な基地を発見したのだから。
 ただ、問題視されるとすれば、それはISOの情報部の仕事の範疇だって事だな」
「成る程。バディ中佐が撃った相棒は、それを指摘したから、撃たれたのね」
「殺さなくても良かったのにね」
甚平がしんみりとした。
彼はアレックスに対して、完全に心を開いた訳ではなかった。
この一件があったからである。
「ジョーも最初はその辺りが引っ掻かっていたらしいが、何時の間にかバディ中佐のテンポに飲み込まれてしまったらしいな。
 全く珍しい…。あのジョーが人に巻き込まれるとは」
「そうねぇ。相棒を殺した事とアルコール中毒であった事以外は、悪い人ではなさそうだったし」
「年代を超えた不思議な友情が芽生えたって事だろう。
 ジョーは出来る人間しか相手にはしない」
健が腕を組んで言った。
その時、竜の手術室が先に開いた。
「手術は成功です。ご安心下さい」
「甚平、付いていてやってくれ」
「ラジャー」
甚平は竜が乗るストレッチャーに付いて行った。
「ジョーの方はまだか…?」
「ジョーの方が重傷だったと言うから……」
「竜は大丈夫だったが、ジョーは肩の骨が砕けていたそうだ。
 それの処置に手間取っているのかもしれん」
「そうね……」
ジュンは健の隣に座った。
「今回の受傷は仕方のない事だったわ。
 2人が犠牲になったのは、運が悪かったとしか言えないわね」
「ああ、小型ミサイルがずれていたら、俺達がやられていたかもしれない」
「竜巻の発生源として、下の方を狙ったのね」
「恐らくそうだろうな」
ジョーの方の『手術中』の文字の点灯も消えた。
「終わったな……」
健とジュンは立ち上がって、ストレッチャーが出て来るのを待った。
「手術は成功です。骨の再建に時間が掛かりましたが、後は肉が盛り上がって来てくれれば大丈夫でしょう。
 全治1ヶ月。彼ならもう少し早まるかもしれない。
 でも、無理はさせないで下さいよ」
ジョーの手術を何度かしている馴染みの医師が言った。
「解りました」
「有難うございました」
健とジュンは押されて行くストレッチャーに付いて行った。
ジョーのストレッチャーは、竜と同じ病室に運ばれた。
「ジョーはどう?」
先に部屋に入っていた甚平が訊いた。
「骨が砕けていただけ処置に手間が掛かったようだが、何とか成功したそうだ」
「良かったぁ〜!」
「さて、この2人が戦線を離脱している間に、3人でどうしたらいいか、考えなければならないぞ」
健は腕を組んで言った。
「健、その事は此処で話す事じゃないわ」
ジュンの言う事は尤もだった。
「それもそうだな…」
「俺はすぐにでも復帰するぜ。待っていろ」
驚いて皆は声がした方、即ちジョーの顔を見た。
麻酔でまだ眠っている。
「何だぁ、寝言かよ〜!」
甚平が言った。
「寝言でまで任務の事を考えているだなんて。
 ジョーったら……」
ジュンは涙を拭った。
竜の方は大きな鼾を掻いて眠っている。
「暫く休ませておこう。麻酔が覚めるまでは無茶のしようがない」
健はそう言って、2人の背を押した。
外のソファーで待つ事にしたのだ。
「暫くはゴッドフェニックスも使えない。
 2人が復帰するまで、3人で結束を固めて遣り過そう」
「おいらは何も起こらない事を祈りたいな」
「甚平ったら!ギャラクターは待ってなどくれないわ」
「3人体制での竜巻ファイターを訓練しておこう」
「そうね」
「ジョーと竜の意識が戻ったら、訓練室に行くぞ」
「ラジャー」
かくして、2人の戦線復帰までに、ギャラクターは事件を起こさなかった。
さすがに第二基地と言われたあの基地と10体のメカ鉄獣を失った事は、ギャラクターにとっても大打撃だったのである。




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