『北極点(2)』

健の命令で、施設の拡大写真を撮影しようとゴッドフェニックスが四角い建物の周辺を飛び始めた時、パラボラアンテナがぐるりと回ってこちらを向いた。
すると、ゴッドフェニックスがガタガタと揺れ始めた。
「健!駄目だ!操縦不能じゃぞい!」
竜が叫んだ。
箱のような建物の方に引き寄せられている。
どう操縦桿を操っても、抗う事が出来なかった。
「あのパラボラアンテナの電波に引き寄せられているんだ!
 計器類も狂って働かねぇぞ!」
ジョーが声を上げた。
計器類の針は乱れに乱れている。
レーダーにも出鱈目な情報が点いたり消えたりしている。
スクリーンには、時折おかしな光がぶつかって来る。
「やっぱり罠だったのか……?」
健が唇を噛む。
「どうする?火の鳥で脱出するしかねぇんじゃねぇのか?
 データは取れねぇが……」
「仕方がないな。科学忍法火の鳥!」
健が号令を掛けた。
各自自席のベルトを締めた。
火の鳥に耐えるのは、体調が悪いジョーには酷な事だった。
いつも以上の負荷が掛かった。
ジョーは唇を喰い縛ってそれに耐えた。
頭がズキズキと痛み出し、脳味噌を直接誰かに手で激しく揉まれているような強い苦しみが襲った。
気分が悪くなり、吐き気もして来た処で、火の鳥は終わった。
ジョーは真っ青な顔をして、息を吐いた。
呼吸が苦しく、肩で息をする程だったが、幸い皆の注意はパラボラアンテナの方に向いていた。
その間に体勢を立て直そうと、ジョーは思った。
「仕方がない。あの電波が届く範囲内に入ってしまったんだ。
 攻撃が止んだ今の内に、此処から写真を撮ろう。
 竜、あらゆる角度からな」
「ラジャー」
竜は上空で旋回して、拡大写真を出来るだけ多く撮影した。
そのままゴッドフェニックスは基地に帰還した。

「この写真によると、やはり何か吸引力のある電波を出して、ゴッドフェニックスを引き寄せたと見られる。
 見てごらん。この真ん中にある細いアンテナからは、レーザー光線を出せる仕組みとなっていて、恐らくは諸君が襲われた時、そのレーザー光線が発射されていた筈だ」
南部博士が言った。
「良くは解りませんが、そうだったのかもしれません」
健が答えた。
「この写真を見てごらん。
 この1枚だけが、赤いレーザー光線を捉えている」
南部博士がスクリーンにそれを映し出した。
「これは君達が火の鳥で脱出した直後に撮られた写真だ。
 つまり、まだ諸君を攻撃しようとしていたが、射程範囲を抜けたので、諦めたと言う事だろう」
「射程範囲?射程距離じゃなくて?」
それまで静かにしていたジョーが聞き咎めた。
「そうだ。このパラボラアンテナは真上を向く事が出来ないようだ。
 射程距離は星を引き寄せる事を考えると、相当な距離を見込まなければならない」
「やはりその機能はあると言うんですね」
健が訊いた。
「うむ。ゴッドフェニックスを引き寄せる為だけでこんな大掛かりな物を作ったとは思えん。
 大きさを推定したのだが、直径300mはある巨大なパラボラアンテナだ」
「直径300m……」
健は絶句した。
「そいつのレーザー光線を止めればいいんですよね?」
ジョーが訊いた。
「取り敢えずはそう言う事になるが、どうやってだ?」
南部が逆に訊いて来た。
「バードミサイルですよ。撃ち込んでパラボラアンテナを破壊してしまえばいいでしょう」
「いや、その前にゴッドフェニックスがまた引き寄せられてしまうだろう」
「では、博士。以前博士が作った特大バズーカ砲で地上から、あのレーザー光線を出す細いアンテナを撃ったらどうなりますか?」
ジョーには代替案があったのだ。
「うむ。それなら破壊出来るかもしれない。
 だが、危険だぞ。それに、特殊弾を作らなければならないので、すぐに出動と言う訳には行かない」
「特殊弾とは?」
健が質問した。
「あのパラボラアンテナ全体から物を引き寄せる力が働いているのなら、その電波をゼロにしてしまう特殊弾が必要だ。
 電波の種類は解らんが、あらゆる電波を妨害出来る特殊弾を作ろう。
 だが、この仕事は、ジョー、君1人で負う事になってしまう。
 顔色が優れないようだが、大丈夫なのかね?」
ジョーはさすがに博士に言い当てられてしまったか、と冷や汗を掻いた。
「大丈夫です。俺にやらせて下さい」
「無論、君にしかあの特大バズーカ砲は取り扱えない。
 レニック中佐の処で部下に訓練を施しているようだが、まだ無理なようだ」
「仕方がないでしょう。重さだけでも、大した物ですから」
「今、小型化を進めている処だが、現時点では間に合わん」
「俺がいれば問題ないでしょう。
 博士はその特殊弾をお願いしますよ」
ジョーはそう言って、司令室の窓の方を向いてしまった。
キラキラと輝く海の中に魚が泳いでいる。
ジョーは見るともなしにそれを眺めていた。
何故なら、これ以上、顔色云々は言われたくなかったのだ。
顔色が悪いだろう事は、自分が一番良く知っている。
あれだけの気分の悪さに襲われた後だ。
火の鳥の最中には、一瞬だが、これで死ぬかもしれないと言う考えが頭に浮かんだ。
それ程に酷い状況だった。
それを仲間達は勿論、南部博士には知られたくなかった。
幸いにして博士は、それ以上ジョーを追及して来なかった。
特殊弾を作るのを急がねばならない、と判断したのだろう。
博士は忙しそうに、司令室を出て行った。
ジョーはホッとしていた。
頭痛と眩暈はまだ残っているが、平静を保っていられるぐらいにはなっている。
「ジョー」
煩いのが来た、とジョーは顔を顰めた。
「疲れているのなら、少し休んでいろ。
 これからお前1人に過大な重圧が掛かる」
「大丈夫だって言ってるだろ?」
「解ったよ…。だが、この任務の為には休んでおいて欲しい。
 お前の代わりはいないんだ」
健は穏やかにジョーを説得した。
代わりはいない。
それは確かな事だった。
「ジョー、今の内に眠っておいてくれ。出動は何時になるか解らないぞ。
 俺達も交替で眠る事にするから…」
健の言っている事は正しい。
ジョーはそう思った。
「おら、腹が減ったぞい」
「交替で腹拵えして、交替で寝よう。
 まずはジョーと甚平は眠ってくれ。
 ジュンと竜は食事だ」
「健は?」
ジュンが心配そうに訊いた。
「1人は此処に残っていなければならんだろう?
 ジュン、ついでに何かテイクアウトして来てくれると助かる。
 俺とジョーの分をな」
「お代は立替でね」
ジュンが言った。
健は困ったような顔をした。
「いいわよ。じゃあ、竜、行きましょう!」
ジュンは竜と共に踵を返した。
「仮眠時間は2時間だが、ジョーに限っては好きなだけ寝ればいい」
健の言葉に、ジョーは「俺だけ特別扱いってぇ訳には行かねぇ」と答えた。
「特別な任務をするんだ。当然だろう?」
「解ったよ……」
ジョーは自棄っぱちにそう答えたが、本当は有難かった。
それから司令室のソファーに横になり、甚平と2人、休む事になった。
健は窓際に立って、海の中を眺めながら待機した。




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