『北極点(3)』

「しかし、何で自転のねぇ北極点を選んだんだろうな…」
全員が一眠りして、食事も済ませた処で、ジョーが言った。
眠った事で体調はスッキリとまでは行かないが回復していた。
「星を引き寄せる為にレーザー光線を出すのなら、自転も利用した方が利用価値はありそうなものだぜ」
「確かにそうとも言える。だが、今の時期、公転で一番近づいている星を狙えば事は足りるのではないか?」
健が答えた。
「成る程、それ程の星が充分に引き付けられるって事か……」
ジョーは不敵にも笑った。
「そいつが出来ねぇようにしてやるぜ。今に見ていろ」
「極点までは俺も一緒に行く。1人では何かと危険だ」
健が言った。
「いや、それじゃあ目立つだろうぜ。ブリザードの中に隠れて、ひっそりと潜入する」
「いや、リーダーとしてそれは許せない。
 もしもの事があったらどうするんだ?
 途中でギャラクターに遭遇しないとは限らないぞ。
 任務を遂行して貰う為にも、俺は一緒に行く」
健にそこまで言われては、ジョーも反論のしようがなくなった。
「解ったよ…。行程は困難だぜ」
「そんな事は解っている。だからこそ、お前を1人じゃ行かせられない」
ジョーは健が身体の事を言っているのではないと言う事が解った。
リーダーとしての判断なら、従うしかあるまい。
「解った。おめぇがそう判断するのなら、そうするしかねぇや」
ジョーは投げやりな態度でそう言った。
「まだ、特殊弾は出来ていない。ジョーは休んでいろ」
「そうそう寝られやしねぇもんだ。此処で待っているだけで充分休んでいるだろ?
 俺の任務はブリザードさえ躱せば大した任務じゃねぇ。
 解っているだろ?」
「ああ、ジョーにとって大した任務ではない事は解っている。
 だが、緊張を強いられる任務だ。
 少しでも休んでおけと口を酸っぱくして言っているのは、そう言った理由からだ」
「言っている事は解るんだがな」
ジョーは困った顔をした。
「解ったぜ。とにかく横になってりゃリーダーの気が済むんだろうよ」
ジョーはそう言って、ソファーに横になった。
両手を組んで枕代わりにする。
「俺が寝るとおめぇ達の座るスペースがなくなるぜ」
ジョーは背が高いので、確かにソファー1つを占領してしまう。
「構うものか」
健が答えた。
「俺よりもおめぇが必要以上に緊張しているようだな」
ジョーは言った。
「正直、そうかもしれない。ブリザードの中、重い特大バズーカ砲を担いで進軍するんだ。
 俺は付いて行くだけだが、ギャラクターが出て来たりして邪魔が入ると困るからな。
 作戦は中止出来ない」
「解ってるさ。重大な任務だ。だが、自分から提案した事を後悔したりはしてねぇぜ」
「バズーカ砲が重く感じたら、俺に言え。
 代わりに担ぐ事ぐらいなら出来るからな。
 お前に疲れて貰っちゃ困るんだ」
「ああ、そんな事ぁねぇだろうが、その時は頼むぜ」
ジョーも気軽に答えた。
健はジョーの体調不良を気にしているのではない。
邪魔が入ったりして、任務が果たせない事を心配しているのだ。
「あのブリザードの中にギャラクターの隊員達が身を潜めている可能性はあるのかしら?」
ジュンが言った。
「地上は相当な猛吹雪だと思うよ。おいらはいない方に賭けるな」
「これ、甚平。賭けじゃないのよ!」
ジュンが叱り付けた。
「じゃがのう。おらもいねぇと思うな。あのブリザードその物が鉄壁の警護だわい」
竜も自分の意見を述べた。
「確かにその通りだ。だが、万全は期す。
 ロボットなどに警備させている可能性だって残っているんだ」
健はそう思っているからこそ、慎重に事を進めたいのだろう。
「少なくとも罠は張られているかもしれねぇな。
 観測隊が行方不明ってのは、その罠に掛かったからかもしれねぇぜ」
「しかし、SOS信号もないとは一体どうした事か?」
健は腕を組んで嫌な事を考えていた。
「……殺されている可能性があるって事だよ。
 それも即死するような方法でな」
ジョーが言った事は健が考えていた事と、寸分の狂いもなかった。
「考えたくはないが、俺もそう思う」
健の整った顔立ちが、苦虫を噛み潰したようになった。
「健。俺達の行軍の中で、彼らを発見する事になるかもしれねぇ。
 覚悟はしておけよ」
「解っている。卑劣なギャラクターの事だ。何をしでかすか解ったものではない」
「いっその事、氷の中で眠っていてくれれば、仮死状態で助けられる可能性もあるんだがな。
 現実的じゃなさ過ぎるな…」
ジョーは俺とした事が、と思った。
つい希望的観測を述べてしまった。
マイナスな事ばかりを考えていたので、いつも隠している『自分』が出てしまった。
「現実的じゃなくてもさぁ。そうあって欲しいよ」
甚平が言った。
もう夜半を過ぎている。
仮眠を取ったとは言え、甚平はつい欠伸をした。
「甚平。眠いのなら寝ておけ」
ジョーがソファーから起き上がって、場所を譲った。
ジョーが起きるまでもない。
甚平は小さいから、どこでも横になれた。
「大丈夫だよ。そう子供扱いにしないでよ」
「じゃが、子供には違いないぞい」
竜がからかった。
そこに南部博士が疲れた様子も見せずに入って来た。
「特殊弾が出来たぞ」
南部博士は重そうに運んで来たアタッシュケースを開けた。
「1発…ですか?」
ジョーがケースの中にある物を見て、呟いた。
「うむ。この短時間では1発作るのがやっとだった。
 材料を集める時間がないのだ」
「解りました。やりましょう」
「レニック中佐の処から砲身が届けられている。これだ」
博士はタイヤの付いた台に乗せられたバズーカ砲を見せた。
国連軍に預けてある、南部博士が開発したバズーカ砲は、第二次世界大戦以降に使用された89ミリ砲よりも遥かに口径が大きい150ミリ砲だった。
89ミリ砲でも対戦車用なのである。
この特大バズーカ砲は、口径が大きいばかりか、長さもある。
これをジョーはある任務で使いこなしたのだ。
国連軍選抜射撃部隊の誰1人、使いこなせなかったこのバズーカ砲を。
「これを担いで行くのには、さすがのジョーにも無理がある。
 雪車(そり)でも使って引いて行くのが良いだろう。
 誰かもう1人必要だな。
 雪車を前後縦列にして、バズーカ砲を抱えて行かねばなるまい」
「俺が行く事になっています。ギャラクターに襲われないとも限りませんし。
 念には念を入れて、と思っています」
「そうか。健が一緒に行くのなら心強い」
南部博士が言った。
「どこかの村で雪車を借りなければならねぇな」
「先程来た国連軍からの荷物の中に用意してある。
 心配はいらない」
「そこまで用意してあるんですか?」
健が驚いた。
国連軍とのやり取りは多分基地の職員が地上で行なったものだろう。
この基地の場所を知られる訳には行かないからだ。
レニック中佐が科学忍者隊と接触出来るのは、南部の別荘だけだった。
そこまで徹底して、この基地の場所は隠されていた。
ジョーは慎重に特大バズーカ砲に南部博士が作った特殊砲弾を装填した。
膝を着いて担いでみる。
どうやら特殊砲弾が重いようだ。
いつもよりもずっしりと重く感じた。
「ジョー、特殊弾はそれよりも軽くする事は出来なかったのだ」
「解っています。でも、大丈夫ですよ。
 失敗が許されないと言う事は良く解っています」
「頼んだぞ、ジョー」
「ラジャー」
そうして、科学忍者隊は再び北極点まで出動する事になった。




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