『北極点(4)』

南部博士が国連軍の協力を得て用意していたのは、青いジェットソリだった。
雪車(そり)を引く犬は必要ない。
本体の動力で動く。
ただ、縦列に連なってバズーカ砲を運ぶ為に、2台は1台の後方ともう1台の前方がパイプで繋がれていた。
パイプは短い距離だ。
殆ど鈴なりの状態のように2台は連なっていた。
「2人乗りの物があれば良かったのだが、急拵えでね」
と南部博士は言っていた。
健が前に乗り、ジョーが後方に乗って、バズーカ砲の土台部分を支える事になった。
バズーカ砲の砲門の部分は、健が乗っているジェットソリの後部に固定出来るように加工してあった。
2人は早速乗り込んだ。
「健、ジョー。気をつけてね」
ジュンが心配そうに2人を見た。
ブリザードで視界が遮られている。
これから極点に近づくに従って、どんどん強くなる事だろう。
「大丈夫だ。この前の雪車には小型レーダーが付いている。
 凍って見づらくないように南部博士が工夫してヒーターを付けてくれてある。
 レーダーの部分だけは凍らないんだ」
健が言った。
「バードスタイルは万能だしな」
ジョーも呟いた。
頭の痛みと眩暈は落ち着いている。
あの火の鳥の時の容態が嘘のようだ。
このままこの状態が続いてくれ、とジョーは心から願っていた。
「とにかく、極点を見逃してフラフラする事はないんだ。心配は要らない」
健はキッパリと言った。
「後は観測隊だが…。これは運を頼るしかあるめぇな」
「ああ。この視界の中では、任務を遂行するのが精一杯かもしれない」
ジョーの言葉に健も頷いた。
「とにかく行こうぜ。あの恐ろしい機械を破壊してしまおう」
「よし、行くぜ」
健がジェットソリのエンジンを入れた。 ジョーもそうした。
「燃料は持つんだろうな?」
ジョーが訊いた。
「ギリギリ往復するぐらいしかないらしい」
「ちぇっ。最悪は歩いて帰って来るようかもしれねぇな。
 その時はおめぇ達にバードスクランブルを発信して貰えば、何とかなるに違いねぇ」
「ああ、最悪の事態が起こったらな。じゃあ、出発だ」
ジェットソリはついに出発した。
ゴッドフェニックスから離れると益々ブリサードは激しくなった。
前後に連なった2人は、会話をするのにブレスレットを介さなくてはならなかった。
『ジョー、大丈夫か?極点は此処から後10kmの地点だ』
「解った。大して遠い行軍ではねぇだろう。
 一気に行って、やってしまいてぇな」
『ああ。舵取りはこっちでやるから、お前は楽にしていろ。
 エンジンの調子をこっちに合わせてくれるだけでいい』
「解ったよ。おめぇに任せる。俺は本番に備えておけ、と言いたいんだろ?」
『その通りだ』
「リーダー命令だからな。大人しく従ってやるさ」
『素直じゃないなぁ…』
そんな会話をしている時に、ジョーは視界に何かが映ったような気がした。
「健!停まってくれ!」
『どうした?!』
「何かが見えた」
ジェットソリが停まると、ジョーはそれを降り、担いでいた特大バズーカ砲を、自分の座席の上に置いた。
「健。観測隊かもしれねぇぞ。心して掛かれよ」
「お前が見たものは何だ?」
「ジェットソリじゃねぇかと思うが……。
 横倒しに倒れていた。あそこだ!」
ジョーは指を差した。
視界は悪いが、何やら機械的な物があるのが解った。
「行ってみよう」
「ああ」
2人は氷の上を歩いた。
段々近づいて行くと、凄惨な様子が解って来た。
「これは……」
さすがのジョーも絶句した。
「狼のような獣にやられたとしか思えねぇな……」
ブリザードが血の臭いとその痕跡を消していた。
「5人か…。他のメンバーもどこかにこうして倒れているのかもしれねぇな」
「全員を捜索するには、このブリザードが邪魔だな」
健はそう言いながら、ブレスレットで南部博士に報告をした。
『獣にやられているだと?それはギャラクターの仕業としか思えん。
 2人とも充分に注意して進んでくれたまえ』
「ラジャー。行軍を続けます」
その頃、ジョーは余りの寒さの為、少し頭痛に悩まされていた。
だが、この症状はいつもの嫌な頭痛とは違っているように思われた。
「ジョー。実は寒さのせいか、少し頭が痛いんだ。
 休むべきか進むべきかどう思う?」
健が訊いて来た。
ジョーはホッとした。
この頭痛は自分だけではないのだ。
「俺も頭痛を感じている。だが、休んでもこの寒さは変わらねぇ。
 却って悪化する可能性があると思うんだが……」
「そうだな。行こう」
健は倒れている人々に手を合わせ乍らそう答えて、ジェットソリに乗り込んだ。
2人はそうして、また進み始めた。
「観測隊の人々が獣にやられていたとなると、ギャラクターは獣型のロボットをそこら辺に放し飼いにしている可能性があるな」
『ああ、充分に注意しよう』
「健はレーダーを見ておけ。周囲の事は俺が見る。極点を見失うなよ」
『解っているさ。俺はそっちに集中するから、他の事は頼んだぜ』
健はジョーを信頼していた。
共に闘って来て、背中を任せられると思える仲間だった。
ジョーは勘が良いし、動体視力にも優れている。
この走るジェットソリの上からでも、不吉な物が現われれば気づいてくれる事だろう。
ジョーはその期待に答えるべく、バズーカ砲を担ぎながら、随所に注意を配っていた。
バズーカ砲がある為に、真後ろを見る事は難しい。
だが、気配を探る事は出来る。
ジョーが『その気配』を感じたのは、3km程進んだ場所だった。
極点まで後6kmと少し。
「健っ!」
叫んでおいて、ジョーはジェットソリから飛び降りた。
健も素早くジェットソリを停め、ジョーの処にやって来た。
「お出ましだぜ」
ジョーが顎で示した先には、狼のような獣がいた。
「あれはメカだな。さっさと片付けてしまおうぜ。取り囲まれてる」
「ジョーっ!」
叫びながら、健はブーメランで攻撃を仕掛けた。
ジョーもその瞬間には、エアガンを抜いて攻撃を仕掛けている。
健はメカの狼の首を切って動けなくしている。
ジョーも頭部を狙っていた。
恐らくはそこにコンピューターが仕込まれている、と踏んだからである。
人類を見たら襲うようにプログラミングされているのだ。
2人のその判断は正しかった。
頭部をやられた獣達は動けなくなったのである。
10頭程のメカ狼を倒すと、辺りは静かになった。
2人はそれでも暫くの間、周囲の気配を探っていた。
相手は生きた獣ではない。
気配を殺せばいくらでも、自分達に感じさせない事は出来る筈だ。
だが、闘争本能を植えつけられているお陰で、ジョーに気づかれた。
恐らくは先程の観測隊の人々は、一瞬にして殺されたに違いない。
様子を見たが、動きがなかったので、2人はまたジェットソリに乗り込んだ。
『残り6kmちょっとだ。頑張ろう』
「ラジャー」
2人は走り始めた。
10kmの行程中、まだ半分も行っていなかった。
これからどうなる事か、とジョーは思った。
新たなる敵が現われる可能性も否定は出来なかった。




inserted by FC2 system