『北極点(5)』

ジェットソリは残り3kmの地点まで進んでいた。
『ジョー。残り3kmだ』
「解った。また何か出て来るかもしれねぇ。いや、きっと出て来るに違いねぇぜ」
ジョーは何かを予感していた。
また狼型の獣が出て来るのか、それとも別の何かか。
ブリザードは益々酷くなり、視界不良が進んだ。
身体に叩き付けるように彼らを襲った。
『もう何も見えない。氷山や岩にぶつかったら、ジェットソリが故障する可能性もあるな』
「そうなったらレーダーだけ取り外して、歩いて行軍するしかねぇな」
『覚悟だけはしておいてくれ』
「ああ、解ってるぜ。おめぇはレーダーに集中してくれ。
 俺は周囲の気配を探り続ける」
『頼んだぜ。こうなっては、ジョーの勘に頼るしかない』
そうして、2人は激しいブリザードの中、進んで行った。
幸いにして、岩にぶつかる事はなく、残り1kmの地点まで到達した。
「健!停まれっ!」
ジョーが叫んだ。
また、例の狼型の獣ロボットが出て来たのだ。
今度は30匹はいそうだ。
「暗闇で正確な処は解らねぇが、30匹はいるぞ」
「解った!手分けして倒そう。きっと他の観測隊もこいつらに殺られたんだろうな」
「間違いねぇだろう。くそぅ、人を殺す事だけに飢えていやがる。
 そう言うプログラミングをされているんだ」
「行くぜ、ジョー!」
「おうっ!」
ジョーは氷の上を跳躍した。
既にエアガンを抜いていた。
エアガンの残り弾数が気になったジョーは、羽根手裏剣を繰り出してみた。
羽根手裏剣で両眼を打ち抜いてみた処、敵はそれでも動きを止めた。
「成る程、眼か!」
ジョーはエアガンをくるりと腰に戻し、羽根手裏剣での攻撃に切り替えた。
この方が効率が良い。
1度に2〜3匹倒す事など、彼には朝飯前の事だった。
ブリザードが唯一表に出ている顎の辺りを凍らせるように叩き付けた。
健もジョーもそこだけ凍傷に掛かっているかもしれない。
狼型ロボットはどんどん数を増して来たが、2人は怯む事なく、闘った。
ただ、2人の体力を奪うのには、持って来いの作戦だった。
ギャラクターとしては、科学忍者隊が忍んで来るのは想定していたのではないか、とジョーには思われた。
「健、このままじゃ体力を奪われるだけだ」
「だが、爆弾を使って、接近を知られたくはない」
「ああ、早いとこ、こいつらを倒すしかねぇ」
ジョーは少し眩暈を感じていた。
(頼むから、今は症状が出て来ないでくれ……)
そう神に願った。
眩暈があっても、羽根手裏剣を繰り出す手元は決して狂わなかった。
ジョーは確実に爪を研いで襲い来る獣を倒して行った。
健もブーメランで纏めて倒して行き、やがて2人の周りはブリザードの音だけになった。
「片付いたな…」
「最初の倍は出て来たようだぜ」
ジョーも羽根手裏剣を咥えたままで答えた。
「残り1kmだ。さあ、行こう」
「おう」
ジョーは答えてジェットソリに乗り込む時に、刹那的に頭痛を覚えた。
「うっ!」
「ジョー、どうした?」
「いや、何でもねぇ」
「顔色が悪い気がするが……」
「この寒さだ。おめぇだって顔色が悪いぜ」
「そうか。進んでも大丈夫か?」
「当たりめぇだ!」
ジョーは右肩に特大バズーカ砲を担いだ。
「出発するぞ」
「ああ」
2人は極点に向けて、出発した。
とんだ邪魔が入り、時間を喰ってしまった。
ジュン達も心配している事だろう。
早く任務を済ませて連絡をしてやりたい処だ。
もう邪魔は入らなかった。
あの獣達がこのブリザードの中、あの『箱』を警備していたのだろう。
残念だが、観測隊の人達は恐らく全滅しているに違いない。
生き残りがいるかもしれないが、ブリザードが止まない限りは捜索も厳しいと思われるし、二次遭難も考えられた。
どちらにせよ、それはもう科学忍者隊の仕事ではない。
無事に生きている人がいる事を願うのみだ。
ジョーの頭痛と眩暈は幸いにして収まっていた。
その場所に着いた時、ジョーはホッと一息吐いたものだ。
特大バズーカ砲を1人で担いで、彼はジェットソリから降りた。
「健。ジェットソリのライトで照らしてくれ」
「解った」
巨大なパラボラアンテナの一部がライトの光の中に映った。
「もう少し上だ」
ジョーの指示で、健はライトの向きを変えて行く。
「OK!そこで固定してくれ」
ジョーは氷の上に片膝を立てて座った。
重い特大バズーカ砲を担いで、正確に撃てる場所を慎重に探って行った。
(此処だ……)
心を決めた地点で、彼は一瞬祈りを込めるように眼を閉じた。
大丈夫だ。眩暈も頭痛もしていない。
これなら行ける!
ジョーはカッと眼を見開いた。
「健、行くぜ!」
ついにバズーカ砲が火を吹いた。
その砲弾は確実にパラボラアンテナの先に出ている細いアンテナを包み込み、更にパラボラアンテナ自体も破壊してしまった。
氷結しないように加工してあったらしいパラボラアンテナだが、一瞬にして全体が凍りつき、それからバラバラになった。
南部博士の特殊弾の加工によるものだろう。
そして、下部にある『箱』と共に爆発した。
バズーカ砲を撃った瞬間、ジョーは衝撃で滑って、数メートル後ろに身体がずれていたが、そのままの体勢を保っていた。
それを見た健は、流石はジョーだ、と素直に思った。
2人並んで低姿勢になって爆風をマントで避けながら、健は「やったな、ジョー」とニヤリと笑って見せた。
「ああ。これからどうする?この地下に基地があるって事も有り得るぜ」
「爆発が収まったら、覗いてみよう。まずは南部博士に報告だ」
健はブレスレットを口に近づけた。
「博士。ジョーがパラボラアンテナの爆破に成功しました」
『そうか!良くやってくれた』
「この地下に基地がないかどうか確認します」
『うむ。だが、君達は2人だけだ。深追いはやめたまえ。
 まずは帰還するのが良いだろう。基地があったとしても一旦帰って来るんだ』
「解りました」
『ブリザードが止んだら、ゴッドフェニックスで全員で駆けつければいい』
「ラジャー」
爆発が収まった。
健とジョーは地下を覗き込む。
鉄で作られた近代的な部屋が見えていた。
下では大騒ぎになっている。
ギャラクターの隊員達が見え隠れしていた。
「博士。間違いなくギャラクターが基地を作っています」
『一旦出直すのだ。パラボラアンテナが破壊された今、彼らに出来る事は少ない筈だ』
「はい。これからゴッドフェニックスに戻り、帰還します」
健はジョーを見た。
ジョーは残りたがっているように見えたが、黙って頷いた。
「博士の言う通り、何も出来ねぇに違いねぇや。
 パラボラアンテナを修復する事も不可能だろうよ。
 代替品がなければな」
「ジョー!まさか…」
「まさかそんな事ぁねぇだろうよ」
「戻るぞ。いいな?」
「ああ…」
2人は再びジェットソリに乗り込んだ。
バズーカ砲の本体は持ち帰る事にした。
貴重な1本だ。
また使う事が出来る。
健はレーダーにゴッドフェニックスがいる地点を設定した。
「よし、戻ろう」
「ラジャー」
2人はそうしてゴッドフェニックスに戻り、科学忍者隊は三日月基地へと帰還した。




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