『北極点(6)』

「諸君。良くやってくれた。充分に休息を取りたまえ」
基地に戻った素顔の科学忍者隊を南部博士が労ってくれた。
「しかし、博士。あの基地をそのまま放っておく訳には行きません」
健が鹿爪らしく言った。
「あの基地は国連軍に任せても良いだろう、と思っている。
 戦略上、もう余り役に立たない基地だからだ」
「そうでしょうか?メカ鉄獣など隠してはいないでしょうか?」
健は気になる点を挙げて喰い下がる。
ジョーも同じ気持ちだったが、頭痛がしていたので、声を挙げなかった。
緊張の連続だったあの作業で、体調は確実に悪くなっていた。
「メカ鉄獣を隠していたとしても、北極点で暴れる事はあるまい」
「でも、それではどこかの街に現われるまで待つ事になります。
 1つの街が破壊されてしまう可能性があります!」
健の気持ちは全員の総意だった。
何故南部博士が基地に攻め入る事を渋っているのかが解らない。
「では、言おう。あの基地にはまだ罠がある。
 それも諸君を放射能漬けにしようと企んでいる節があるのだ」
「どうしてそれが解ったのですか?」
「情報部員からの情報だ。諸君も知っている『エース』。
 先程、彼から危険だから近寄るな、と言う打電があった」
「『エース』があの基地に潜んでいるのですか?」
ジョーが唸るような声を上げた。
「それこそ危険じゃありませんか?」
「エースは放射能避(よ)けの防護服とマスクを着けている。
 何故ならギャラクターの隊員になり切っているからだ。
 彼も間もなく脱出すると言っている」
「俺達をどうやって放射能漬けにすると言うのです?」
ジョーが訊いた。
「基地の各入口には、放射能のカーテンが出来ているそうだ」
「そう言えばジョー。あの『箱』の穴から覗いた時、ギャラクターの隊員達は変な格好をしていなかったか?」
健がジョーを見た。
「ああ、そう言われてみれば奇妙な格好だったな。
 それが防護服とマスクだったって訳だ」
「あの箱も出入り口になっていた。そう言う事だろう」
「そうだろうな…」
「だとすれば、2人は既に微量の放射能を浴びているかもしれない。
 すぐに検査をしよう」
「博士。そんな場所を放っておいて良いのですか?
 もしかしたら、行方不明の観測隊の一部がそこに囚われていると言う事はないのですか?」
健が訊いた。
「可能性はある。だが、防護服を着た国連軍がこれから空爆を行なう事になっている」
「空爆ぐれぇじゃ、あの基地は破壊されませんよ。どうせ地下に張り巡らされている筈だ」
ジョーが言った。
頭がズキリと痛む。
だが、まだ辛うじて我慢の限度は超えていない。
「諸君はどうしても行くと言うのか?」
「はい」
健が博士の眼を見据えた。
「解った。だが、国連軍の空爆は予定通り行なう。
 その間に健とジョーの身体をメディカルチェックしておく事にしよう」
メディカルチェックと聴いて、ジョーは肝が冷える思いだった。
この体調不良がバレてしまわないか、と不安を覚えたのである。
「大丈夫ですよ、何ともねぇ。なぁ、健」
「いや、放射能のテストは受けておいた方がいい。
 万が一でも微量の放射能が検出されれば、除染を行なう必要がある。
 敵の基地に潜入する時にまた放射能を浴びたら、悪化する事になるからな」
「しかし、博士。観測隊がいるかもしれないあの基地に空爆を仕掛けるってのはどうでしょうね?」
ジョーが訊いた。
「既に防護服を着た陸軍が動いている。彼らに任せるしかない。
 空爆は彼らの捜索が終わってからだ。だから、諸君には出動を命じなかった」
「国連軍が全滅の憂き目に遭わなければいいんですけどねぇ」
ジョーの言葉には棘があった。
「確かにそれは心配だ。だから、ジョー。早く放射能テストを受けよう」
健が言った。
「解ったよ」
2人は放射能テストを受け、微量の放射能を浴びていると言う診断が出た。
そこで除染が行なわれる事になった。

国連軍の陸軍は善戦していたが、観測隊の人々は見つからなかった。
既に地上で全滅しているのかもしれない、と言う連絡が南部博士の元に入った。
陸軍の隊員の1人から、「全滅だ。私が最後の生き残り。だが、もう助からない…」
そう空軍にSOSが入ったのが、その僅かに20分後の事だった。
その陸軍隊員は「空爆を始めてくれ」と言って事切れた。
南部の処にはそう言った情報が随時入って来た。
「陸軍は全滅。観測隊は見つからずだ。これから空爆に入るそうだ」
私服で控えていた科学忍者隊は色めき立った。
「やっぱり国連軍じゃ駄目だったんだ」
甚平が言った。
「これ、甚平!そう言う言い方をするものではないわ」
「じゃが、事実だわ」
竜もそう言った。
健とジョーは腕を組んで考え事をしていた。
ジョーの頭痛は少し収まって来ていた。
「なあ、健。国連軍の奴ら、何で殺られたと思う?」
「闘って破れたのか、それとも何か細菌武器でもぶつけられたか?
 放射能は防護服とマスクで防いでいた筈だ……」
「そうだ。どうも解せねぇ。細菌武器なら防護服で防げるだろうよ。
 そこまで善戦していたのが、急に劣勢になったって事だ。
 強力な隊長でも出て来やがったか……。
 それともメカ鉄獣が暴れたか」
「だが、空軍からメカ鉄獣が出たと言う報告は無いぞ」
「それは解っている。だから、何で殺られたのか解らねぇ、と言っている」
「現場を見ないで何を言っても始まらないさ。
 国連軍の空爆が終わったら、すぐに出動しよう」
「ああ、そうだな……」
ジョーも頷いた。
国連軍の空軍はすぐに行動を起こしていた。
しかし、ブリザードの中であるし、地下の施設までには空爆はなかなか届かなったらしい。
例の『箱』があった地点を中心に空爆した。
放射能が流れ出たに違いなかった。
空軍はすぐに除染剤を撒き始めた。
成る程、そう言う事で南部博士が空爆を認めたのか、と健とジョーは納得した。
「国連軍の空爆は中途半端に終わった。
 残念だが、諸君に頼るしかなくなってしまった……」
南部博士は余程科学忍者隊を出動させたくないようだった。
「氷の中の基地だ。基地内の空調を破壊し、除染剤を撒いて、厚い氷の壁に阻ませれば、何とか放射能漏れは防げるだろう」
「厚い氷の壁?」
健が訊いた。
「基地毎、地下の氷の下に沈めてしまう事だ」
「成る程。しかし、どうやって?」
ジョーがどう考えてもその方法を思いつかない、と降参した様子で訊いた。
「厚い地面の氷にくっつけるようにして建ててある基地を切り離すのだ。
 あの基地は恐らく移動が出来る」
「では、切り離したら却って危険なのでは?」
健が言った。
「いや、その為に動力源を破壊して2度と動けないようにすれば良いのだ」
「理論上はそれで上手く行くと?」
ジョーが眉を吊り上げた。
「然様。国連軍が鉄製のカバーを作っている。
 あの『箱』のサイズにピッタリな物をな。除染剤を撒いた後、それで蓋をして、上から氷の膜を噴霧する。
 あのブリザードの中だ。すぐにあの『箱』の跡地は厚い氷で覆われる」
博士の言っている事は良く解らないが、それで解決すると言うのなら、大丈夫なのだろう。
「では、科学忍者隊はあの基地に潜入し、動力源を破壊して来ればいいのですね?」
健が確認した。
「その通りだ。今回はそれ以上の爆破は行なわない事。
 後の処理は国連軍がやってくれる」
「解りました」
「諸君のバードスタイルに加工を施す。まずは防護マスクを着けて変身してくれ。
 防護膜を諸君の身体にスプレーで吹き付ける」
「ラジャー」
こうして、科学忍者隊は放射能の中でも何とか働けるように全身に加工がなされた。




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