『北極点(7)』

科学忍者隊は放射能の防護膜を噴霧されたバードスーツで、北極点にあるギャラクターの基地へと再度出動した。
今度はゴッドフェニックスで、悪天候の中、あの『箱』の跡のすぐ近くに着陸した。
『箱』はジョーが破壊したので、跡形もなく破壊されており、その周辺にも爆撃の跡が残っている。
無残なものだ。
だが、中の基地が壊滅したかと言うとそうではない。
5人は『放射能のカーテン』に臆する事もなく、その穴から中へと飛び込んで行った。
この基地を氷から引き離す移動用の装置を発動し、すぐに動力室を破壊する事。
それと同時に脱出を計る事が彼らの任務だった。
動力室を破壊してしまえば、氷から引き剥がされた基地はそのままの位置に浮いている筈だ。
それに国連軍が除染剤を大量に撒き、その上から鉄製の分厚い蓋をし、更に氷の膜を噴霧するのだ。
そうすれば、このブリザードの中、すぐに厚い氷に覆われ、永久的にこの基地は封じ込められる。
それが南部博士の狙いだった。
この基地にどの位の隊員達が残っているのかは未知数だった。
相当な空爆にも耐える程の基地だ。
国連軍の空軍は悪天候の中、次の任務の為に一旦引き上げ、科学忍者隊の仕事の後に、処理をする事になっていた。
科学忍者隊の5人は、見えない放射能のカーテンを超えて、基地へと潜入した。
箱のすぐ下は足の踏み場がない程にボロボロに破壊されていた。
空爆がそこに一点集中した形だ。
倒れている隊員も見える。
全員が防護服にマスクを着用していた。
科学忍者隊はマスクを着けた上にヘルメットをしており、少し視野に問題があったが、それは各自対応出来る範囲内の事だった。
「足場が悪い。此処にはもう生き残りはいないだろう。早く移動しよう」
健が言った。
「司令室を探してぇ処だが、それよりも動力室だな。
 基地を移動させる装置がどこにあるかも問題だ。
 俺は司令室にあると思うんだが、動力室にある可能性も否定は出来ねぇ」
ジョーが頭痛を堪えながら言った。
「2班に別れよう。動力室はジュンと竜。司令室は俺とジョーと甚平。
 間違えるなよ。まずは基地を移動させる装置を作動させてから、動力室の爆破だ。
 動力室を発見しても、そのまま待機してくれ」
「解ったわ。動力室に移動装置がある可能性もあるから、注意深くチェックをするわ」
「任せたぞ。とにかく連絡を密に」
「ラジャー」
全員が返事をして、2組に別れた。

ジョーは頭痛と眩暈の症状に苦しんでいた。
こんな時に……。
唇を噛む思いで、先へと進んだ。
ギャラクターの隊員達がわらわらと現われた。
全員宇宙飛行士の衣装のような防護服を着ており、動きにくそうだ。
だから、国連軍の陸軍も最初は善戦出来たのかもしれない。
「まだ残っていたとは、なかなか勇気の要る事だ。褒めてやるぜ」
ジョーが呟いた。
「行くぜ!」
ジョーは羽根手裏剣を繰り出した。
敵のマシンガンを持つ手を狙っている。
相変わらずその冴えは素晴らしい。
甚平が思わず「ヒュ〜」と口笛を吹いてしまう程だ。
ジョーは体力を使わずに闘う事を考えていたのだ。
羽根手裏剣とエアガンで敵を倒して行く。
健が少しそれを気にしたが、先の任務の疲れが出たのかもしれない、と思い直した。
頭痛と眩暈には波がある。
ズキズキ、クラクラと強い時と、割と落ち着いている時との差が激しかった。
今は痛みと眩暈が最大値になろうとしていた。
ジョーが苦痛を表面に出さずに耐えられる限界を超えてしまいそうだった。
ジョーはそれだけは隠し通さなければならねぇ、と心に決め、必死に歯を喰い縛っていた。
ふらりと膝を着きそうになった処を、そのまま片足を出して、敵の足払いをした。
見ていた健は充分に誤魔化せた。
ジョーはホッとしている暇もなく、敵兵にパンチを繰り出し、立ち上がった。
3人が背中合わせになる。
「爆弾は使えない。注意しろよ」
健が言った。
「解っている。爆弾を使えばすぐにこいつらも片付くが、仕方がねぇ」
ジョーが答えた。
敵の数はどんどん増えて来る。
倒れている敵も床に積み重なっているのに、更に注(つ)ぎ込まれて来るのだ。
恐らくは放射能のカーテンを潜り抜けた科学忍者隊が自滅するのを狙っているに違いない。
だが、彼らは防護被膜をバードスーツに噴霧されている。
マスクも着けている。
だから、科学忍者隊はなかなか倒れないのだ。
それを知ってか知らずか、カッツェはどんどん末端の隊員を送り込んで来るのだ。
科学忍者隊を疲れさせる為に…。
「俺達は被爆していると思われているようだ。
 被爆をしてもそんなにすぐに症状が出ない事など、カッツェは良く知っている筈だが……」
健が2人に言った。
「いや、違う。おめぇと俺は微量だが既に1回放射能を浴びている。
 除染をしたとは知らねぇ筈だぜ」
「成る程。それで俺達2人はすぐに倒れると踏んでいるんだな?」
「そう言うこった」
「きったねぇの!」
甚平も叫んだ。
「とにかく此処を打破して、早く先へ進もう」
「ラジャー」
3人は散った。
ジョーはもう構わずに身体を動かした。
頭が揺れる事はあったが、回転して長い脚で敵兵を薙ぎ倒した。
マシンガンなど怖くはなかった。
マントで防ぎながら、先へと少しずつ進んで行く。
彼らはその通路を北へと進んだ。
ジョーはふと、『エース』の事を思い出した。
(空爆が始まる前に、無事に脱出しただろうか?)
南部博士に連絡があった時点で、脱出すると言っていたのだから、多分大丈夫だろう。
今はそう思うしかなかった。
『エース』ことフランツは優秀な情報部員だ。
きっと無事に脱出している事だろう。
「うおりゃあ〜!」
ジョーは叫んで、ジャンプした。
敵兵が彼の踵に蹴られて、もんどり打って倒れた。
敵を倒す度に道が拓けた。
3人はそこを分け入るように進んで行った。
突き当たりに部屋がある。
「司令室だといいんだが…。扉がそれ程頑丈じゃないな」
健が呟いた。
「多分、司令室はもっと奥だろうぜ。だが、確かめねぇ訳には行くまいよ」
ジョーが応じた。
「よし、行こう」
健の号令でジョーと甚平も走った。
ジョーが少しぐらりとした。
「ジョーの兄貴。大丈夫?」
甚平に気づかれてしまった。
「でぇ丈夫さ。ちょっとさっきの任務の疲れが出たようだが、大した事ぁねぇ」
「ホント?」
「当たりめぇだろ?」
「そっか〜。ならいいんだけどさ。最近痩せて来ているからみんな心配してるんだぜ」
「レースの為さ。心配する事なんかねぇんだぜ」
ジョーは甚平の頭を撫でた。
「良かった!」
「さあ、お喋りは後だ。健に遅れちまうぞ」
「ラジャー」
ジョーと甚平は健に続いて、走り続けた。
問題の扉に近づいた。
「体当たりしてみよう」
健が体当たりすると簡単に扉は開いた。
この手応えは間違いなく、司令室ではない。
だが、部屋は大きいものだった。
そこで彼らは愕然とする。
国連軍の陸軍の隊員達が、大挙して倒れているのだ。
「此処で何かがあったんだな……」
ジョーは不吉な物を感じて呟いた。




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