『北極点(8)』

「これは獣に喰われた傷だぜ。この基地の中にもあの狼型ロボットがいるって事か?」
ジョーが膝まづいて国連軍陸軍の隊員の遺体を調べた上でそう言った。
「観測隊と同じ傷だぜ」
「だが、頭を切り落とすか眼を狙えば、そいつらは止まる。
 人と見たら殺すようにプログラミングされているんだ」
健が甚平に説明している間に、ガルルルル…と声がして、別の出入口から狼型ロボットが10数匹現われた。
「待て!健。俺達がブリザードの中、出逢った奴らとは違う!」
ジョーが叫んだ。
基本的に狼の形(なり)をしているのは同じなのだが、耳に何かが付いている。
「これは直接的にリモコンで操作されているのかもしれねぇぜ」
「そうか。だから数が少ないんだな」
健も言った。
「15匹いる。1人で5匹ずつ倒せばいい計算だよ」
甚平が冷静に計算した。
「だが、これは一筋縄では行かねぇ。操縦者がどこかで見ている筈だ。それを探せ」
ジョーが言っている間にも、狼型ロボットは彼らを襲って来た。
恐ろしく凶暴だ。
健、ジョー、甚平の3人はパッと散った。
「畜生、防ぐのがやっとだよ」
甚平が弱音を吐いた。
それ程までに血に飢えた獣のようにロボットは襲って来た。
ジョーは甚平を襲っているロボットの両眼に羽根手裏剣を浴びせた。
「やっぱりだ。効かねぇ……」
ジョーは歯噛みをした。
(どうすればいい?爆弾は使えねぇぞ……)
操縦者はモニターで様子を見ているようだ。
ジョーはそれに気づき、防戦しながらエアガンでモニターを撃ち抜いた。
小さくドカンと音がして、モニターが破裂した。
ジョーは残り3つのモニターにも同様にエアガンを向けた。
そうしておいて、もう1度羽根手裏剣で狼型ロボットを狙った。
今度は耳にある受信機に向けてだ。
「どうだ!?」
受信機が弾けて飛んだ。
一瞬だが、ロボットは動きを停止した。
だが、再び動き始めた。
「もう外にいたロボットと同じだ!みんな、耳の受信機を狙えっ!」
ジョーはそう叫びながら、ロボットの両眼をエアガンで撃った。
すると、ロボットは完全に動きを止め、パタリと座り込むように倒れてしまった。
ジョーが攻略法を見つけた事で、彼らはこれらの敵を倒すのにもう時間を要する事はなかった。
全部片付いてしまうと、3人は倒れている軍人達を見た。
凄惨な光景が広がっている。
軍人達に思わず手を合わせてから、彼らは狼型ロボットが出て来た出入り口を先に進む事にした。
「最初から俺達が来ていれば、こんなに人が犠牲になる事ぁなかったのによ…」
ジョーがポツリと言った。
「ジョー、それを言っても仕方がない」
「解っているつもりなんだが、つい、な……」
「お前の気持ちは解るさ」
健がジョーの肩をポンっと叩いた。
「とにかく先を急ごう。国連軍に任務を引き渡すまではな」
「でもさ。この人達このままこの基地と一緒に永遠に氷の中に残るの?可哀想だよ」
甚平が言った。
「だが、遺体を運び出している暇はない」
健も無念だとばかりに言った。
「軍隊に入った以上、自分の屍を拾って貰えない可能性はこの人達も考えていただろうぜ。
 だから最後に生き残った人間は死を目前に『空爆をしてくれ』と言ったんだ……。
 家族の事を考えたら残酷だが、俺達にはどうしようもねぇ」
ジョーも少しだけ感傷に流された。
これは行かん、と自分の中で軌道修正する。
「健、行こうぜ」
「ああ。みんな、進むぞ。何があるかは解らない。気をつけて掛かれ」
「ラジャー」
3人は走って移動を始めた。
まだ、別行動のジュンと竜からは連絡がない。
動力室探しも難航しているようだ。
健とジョーは並んで走っていた。
少し遅れて甚平が付いて来る。
ジョーはまた頭痛が襲って来るのを感じていた。
走る姿が少しでも乱れたりしたら、健に気づかれてしまう。
健はそう言った事に敏感だ。
ジョーは痛みと眩暈を押し隠して、何でもない風を装わなければならなかった。
それはかなりの難関だった。
ゴッドフェニックスで火の鳥をやった時程の苦しみではなかったが、脳が頭から飛び出すのではないか、と思う程、頭の中で何かが蠢いている感じがした。
思考能力が低下している、と思った。
こんな時に……。
闘っている最中にそんな事になったら、生命取りだ。
闘いの時は身体だけではない。頭も最大限に使っている。
ジョーはその事を苦慮した。
この状態では、とんでもないピンチに陥るかもしれない。
自分がピンチに陥った事で仲間達をも同じ眼に遭わせる可能性もある。
本来なら、体調不良を言い出すべきなのだろう。
それも彼らの任務の内に入っている筈だ。
だが、出来なかった……。
体調不良がバレる事で、自分が今後任務から外されては敵わない。
ジョーはそれ程の病状だと自覚しているのである。
これからギャラクターを追い詰めて行くと言う時に、戦線を離脱する訳には行かなかった。
だから意地でも此処は遣り過ごすしか手はないのである。
ジョーは必死になった。
闘っている時はいつでも必死だが、末端の隊員を相手にしている時などは余裕があるのだ。
しかし、今は全く余裕がない。
追い詰められた状態で闘わなければならない。
ジョーはなるべくその事を考えない事にした。
やってみる。全身でぶつかってみる。
身体全体を武器にして、やれる処までやってやる。
そう強く決意した。
「敵さんが現われたな」
ジョーは決意を胸にそう言った。
ギャラクターの一般隊員が大挙して現われた。
3人はパッと散って、それぞれの闘いを始めた。
ジョーは頭痛よりも眩暈が怖かった。
狙いを外す可能性があるからだ。
羽根手裏剣を繰り出してみる。
まだ大丈夫だ。
正確に当たっている。
その内波が引いて、また身体も落ち着いてくれるだろう。
そう願いを込めて、ジョーは「とうっ!」と掛け声を掛けた。

別行動をしているジュンと竜は、狼型ロボットに遭遇する事はなく、先へと進んでいた。
だが、いくら進んでも動力室らしき部屋には行き当たらない。
「方向性を間違えたかしら?」
「じゃが、ジュンの経験上はこっちなんじゃろ?」
「そうなんだけど……。余りにも着くのに時間が掛かり過ぎるわ」
「今から戻るっちゅうてもなぁ…」
竜は困惑した。
「いえ、行きましょう。自分の判断を疑わない方がいいわね」
「そうじゃのう。とにかく急ごうて」
2人が動力室を見つけるまでにはまだ時間を要しそうだった。
その間にも、健、ジョー、甚平の3人はギャラクターとの闘いの渦の中にいた。
ジョーは体調不良にはもう構わず、普段通りに闘っていた。
闘い方が違えば、健に怪しまれる。
普通に闘って尚且つ病いを隠し通さなければならない。
末端隊員との闘いにこんなに気を配った事はなかった。
だが、動きにはいつも通りのキレがある。
ジョーは縦横無尽に闘って見せた。
身を低くして、敵の足払いをし、体勢が崩れた処に羽根手裏剣をお見舞いして行く。
いつものように堂々と闘っていた。
この乱闘をやり過ごせなければ次はないのだ。
まだこの奥に司令室があって、基地を制御する装置もきっとそこにあるに違いない。
ジョーはそう思うと、早く先に進みたくて仕方がなくなった。
彼には仲間達とは違って、急がなければならない事情があるからである。
早く帰還して休息を取らなければ、体調不良がいつバレてしまうか解らない。
その焦りが常に彼にはあったのだ。




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