『北極点(9)』

ギャラクターの隊員達はこんな処から良く逃げ出さなかったものだ、とジョーは感心した。
パラボラアンテナを破壊され、国連軍の空爆を受けたにも関わらず、此処に残っていたとは。
今までに出逢ったような隊員ならとうに逃げ出しているのではないか?
しかし、この基地の隊員達は違った。
狼型ロボットが守ってくれると言った事もあったに違いないが、それだけではないように思う。
それは放射能のカーテンだったのだろう。
二重の防御が自分達にあったからこそ、彼らは逃げ出さなかった。
そして、もしかしたらベルク・カッツェに何か強く言われているのかもしれない。
防護服を身につけている以上、絶対に助かる、と言った保証は受けている事だろう。
だが、カッツェの『保証』など当てにはならない、とジョーは思った。
ギャラクターの隊員達はいざとなったら、いつもカッツェに切り捨てられる運命にあるのだ。
この基地が危険な存在である事を考えると、恐らくはカッツェはいない。
万が一の時には自爆装置を仕込んであるに違いなかった。
カッツェがそのボタンを押す前に、科学忍者隊は任務を遂行しなければならなかった。
残された時間はもう余りない事だろう。
ジョーはそれを健に告げた。
「解っている。カッツェもどこかからこの基地の状況を見張っている筈だ。
 いつ行動を起こしても不思議ではない」
健も頷いて見せた。
「でも、こいつらどんどん沸いて出て来るよ」
甚平がアメリカンクラッカーで敵を翻弄しながら言った。
「此処は別れるしかねぇんじゃねぇのか?
 制御装置を探す組、此処に残って闘い続ける組。
 まだジュン達からも連絡がねぇしよ」
ジョーは焦りを滲ませていた。
「俺が残る。おめぇ達は先に行け」
これがジョーにとっては、最善の方策だった。
自分1人になれば、仲間の眼を気にする事はないし、彼らの足を引っ張る事もない。
体調不良を隠し通すには、それしか方法がなかったのだ。
「此処を片付けたらすぐに追いつく。心配はするな」
ジョーは回転して敵兵を長い脚で薙ぎ払い乍ら言った。
その瞳は強気の光を放っていた。
健はそれを見て、決意をした。
時間がないのは事実なのだ。
「解った。ジョー、此処は頼む。だが、甚平は置いて行く」
「いや、またその先で二手に別れなければならねぇかもしれねぇぞ。
 俺に構わず甚平は連れて行け」
ジョーの判断はこの場合、確かに正確な判断だった。
健に悩んでいる暇はなかった。
「よし、甚平、一緒に来い。ジョー、此処は任せた」
「おう!行け」
ジョーはそう答えると、羽根手裏剣を大量に繰り出した。
緊急時だ。羽根手裏剣は敵の喉笛を狙った。
バタバタと敵が倒れて行く。
どうせこの基地と運命を共にするのだ。
ジョーは先を急ぐ為に已むなくそうした。
狼型ロボットとの戦闘で、エアガンの残り弾数が心配だったので、ジョーは羽根手裏剣を多用した。
彼の狙いは相変わらず正確だった。
体調が優れないとは思えない。
だが、羽根手裏剣の多用は彼にとっては体力の温存だったのだ。
「まだ羽根手裏剣の狙いは狂っちゃいねぇ。俺は行ける……」
ジョーは呟きながら、自分自身を鼓舞した。
そうして、敵を倒しながら、この部屋から出ようと試みた。
やがて敵を掻き分けて通路に出た。
そこにも新手の敵はいる。
健達が倒して行って、倒れている敵もいたが、どこからか沸いて来るのだ。
ジョーはその隊員達がどこから出て来るのか、見極める事にした。
羽根手裏剣を繰り出しながら、それに眼を光らせた。
眼を凝らすと、通路脇に扉がある。
そこから敵が出て来る事が解った。
ジョーは迷わず敵の中に飛び込む事にした。
扉に体当たりをすると、簡単に扉が壊れた。
出入りが激しかったので、摩耗していた事もあるだろう。
ジョーが乗り込むと、そこには下へと続く階段があり、そこから敵兵が上がって来ている事が解った。
この基地には放射能が溢れ出している。
爆弾を使用する事は出来ない。
一気に片付けられないのが悔しい処だ。
「うおりゃあ!」
ジョーは叫びながら、敵兵の渦へと飛び込んだ。
エアガンの三日月型キットを繰り出す。
敵兵の顎へと次から次へとヒットして行く。
気持ちの良いように決まって行った。
崩れ落ちて行く敵兵を乗り越えて、ジョーは階段を降りて行った。
まだ下から現われる敵兵がいたが、随分と数が減っていた。
ほぼ全員が上に上がったのだろう。
健と甚平、ジュンと竜は恐らくまだ上の階層にいるのだ。
ジョーは頭痛と眩暈を忘れて走り抜けた。
そして、下の階層に出た。
「ジュン、俺だ。地下へ行く方法はねぇのか?」
『それがないのよ。まだ突入した時の階層にいるわ』
「やっぱりな。今、俺は敵兵が上がって来る場所を見つけて地下に入ったぞ」
『動力室は?』
「まだ見つかっていねぇが、恐らくこの基地の構造からして、地下にある事は間違いねぇ。
 おめぇ達も何とかして地下に潜り込め」
『解ったわ。何とか探してみる。健達とは別れたの?』
「時間がねぇからな。二手に別れた。俺は単独行動だ」
『気をつけてね』
「ああ、解っている」
ジョーは通信を切った。
頭痛が激しくなり、呻き声を出しそうになったからだ。
「くそぅ、波は引かねぇか……」
思わず通路の壁に寄り掛かって、肩で息をした。
苦しいが、この痛みからは逃れようがない。
1人で乗り切るしかなかった。
元々1人になる為にこうしたのではないか。
ジョーはそう前向きに考えた。
「とにかく少しでも先に進むしかねぇ……」
部屋があると、エアガンを尖兵にしてくるりと回転して飛び込んだ。
動力室らしき部屋はない。
「健。そっちはどうだ?」
『全くだ。手応えがない』
「俺はさっきから地下にいる。何かあるといいんだが……」
『今、ジュン達からも地下に入ったと連絡が入った』
「そうか。そいつは良かった。恐らくは地下に何かがある」
『俺達も地下へ向かう道を探している処だ』
「解った。何かあったらまた連絡する」
ジョーはそう言って、また大きく肩を震わせた。
(くそぅ、負けてなるものかよ!?)
彼は意志の力だけで、前へと進んでいた。
敵兵とはもう逢わなくなった。
それがせめてもの救いだった。
「科学忍者隊め。ついに地下まで進出して来おったか!」
ジョーは体調が悪かった為、一瞬だけ敵の影に気づくのが遅くなった。
不意を突かれて前を見ると、顔がパラボラアンテナのようになっている異形の者が眼に入った。
バズーカ砲を持ったチーフを2名従えている。
「何だ、てめぇ……」
「残念だったな。お前も此処で御終いだ」
ジョーはその瞬間、この男が隊長である事に気がついた。
「おめぇがこの基地の隊長さんか?」
「その通りだ。察しがいいね」
異形の者は、パラボラアンテナに眼と口を付けたような姿をしていた。
首から下は普通だが、背中にマントを着けていた。
このマントには何か意味がある。
ジョーは直感的にそう思った。
そして、問題は顔だ。
何か恐ろしい電波を出して来るに違いないと感じ取ったジョーは、エアガンで顔を狙った。
チーフがバズーカ砲でジョーを狙って来て、それをさせないようにと防御した。
ジョーは撃つ事が出来ずに、天井へとジャンプした。
「くそぅ。あのバズーカ砲を奪えれば……」
天井にぶら下がりながら、彼はそう呟いた。




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