『仮装パーティー』

「何だって南部博士が仮装パーティーになんか行かなけりゃならねぇんだ?」
『スナックジュン』のカウンターに肘を付き、例の如く護衛を頼まれたジョーがブツブツと独り言を言っている。
「アンダーソン長官の頼みとあっては、断り切れなかったんだろ?」
健は自分が護衛を頼まれていないから冷静だ。
「おめぇはいいよ、おめぇは!護衛に就く俺まで何で仮装しなけりゃなんねえんだよ!?」
「へぇ〜。ジョーも仮装をするの?博士はどんな格好をするんだろう?
 おいら達もいつもと違う博士を見てみたいなぁ」
「それなら甚平、おめぇが護衛を代わるか?」
「えっ?だって子供は駄目なんだろ?」
「本来なら未成年の俺だって駄目さ。酒が出るパーティーらしくてな。
 だが、俺なら二十歳以上に見えるだろう、ってさ。くそっ!」
ジョーは拳で壁を叩いた。
「それでジョーは何の仮装をするつもりなんじゃい?」
竜は相変わらずのんびりとしている。
「いっその事、G−2号の『仮装』って事で、バードスタイルで乗り込んじゃえば?」
「甚平、それは悪乗りだぜ。ギャラクターの眼が光っていたらどうする?騙し切れないぜ」
健が率直な意見を言った。
「ジョーが何に仮装しても、強面になっちゃうわよねぇ」
ジュンは腕組みをしてジョーに似合う仮装を考え始めたようだ。
「あ!お面を付ければいいのよ。例えば天狗とか、般若とか、鬼とか、狐とか……」
「おいおい、調子に乗ってひでぇのばかり言ってやがるな」
ジョーが苦笑した。
「このTシャツにお面だけ、って訳には行かねぇんだぜ。費用は博士が出してくれるそうだがよ」
「着ぐるみでも着ちゃえば〜?」
甚平がおどける。
「ああ、そうよ。それならレンタルもあるわ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!俺は博士の護衛なんだぜ。いざと言う時に動けなけりゃ話にならねぇ」
ジョーは腕を組んで黙考していたが、良いアイディアが浮かんだらしく、その腕を解いた。
「レーサースーツで行ってやる。ヘルメットもあるし、顔出ししなくて済むしな…。
 自前の物で全部間に合う」
ニヤリと笑った。
「それじゃあ仮装になんねぇんじゃねえの?」
竜が呟いたが、ジョーに無視された。
「有名F1レーサーと同じメーカーの物なら『コスプレ』にはなるんじゃねぇか?」
「まあ、ジョーの好きにするがいいさ。博士がどんな仮装をするのか、そっちの方がよっぽど興味深いよ」
健がコーヒーを飲みながら言った。

「博士は和装ですか…」
車で別荘まで迎えに行ったジョーは思わず呟いていた。
スーツ姿を見慣れているが、和服も思いの外良く似合っている。
「アンダーソン長官のリクエストでね。
 何か鬘を用意してくれているそうだから、武士のスタイルにでもさせるつもりなのではないかな」
「『サムライ』って訳ですね。でも武士が着流しですか?」
ジョーは子供の頃映画で観た『サムライ』を頭の中でイメージした。
確か『袴』と言うズボンを履いていたように記憶しているが……?
南部はそんな事を考えているジョーの服装を見咎めた。
「それより君のそのレーサー姿は仮装には程遠いようだが?
 休日の君とどこが違うのかね?」
「俺は飽くまでも博士の護衛ですからね。動きやすい服装でなければ…。
 それにこれは有名なF1レーサーのブランドモデルですから、見る人が見れば『コスプレ』だと解りますよ」
「そうかね……」
南部はそう言った事には疎いので、取り敢えず納得したようだった。
「パーティー会場では私とアンダーソン長官に付かず離れずにいてくれれば、後は好きにしていてくれて良い。
 但し、アルコールだけはやめなさい。君は未成年なんだからね」
「解ってますよ。飲酒運転になっちまいますから」
ジョーは南部がシートベルトを締めたのを確認して、車を滑らせた。

この後、パーティー会場でアンダーソン長官が用意していた南部博士用の鬘が、まさかの『波平さん風』だったとは、博士もジョーもまだ知る由も無かった。
ジョーの『コスプレ』は若い男女に人気があり、写真を撮らせて欲しいと言い寄って来る人が多かった。
ヘルメットをしたままなら構わないだろう、と、ジョーは博士達に気を配りながらもそれを次から次へとこなしていた。
本当は写真を撮られるのは好きでは無かったが、このような場所で騒ぎを起こす訳には行くまい。
その辺りの機微はジョーでも承知していた。
(それにしても……。博士の『サムライ』姿は笑えるぜ…。
 あれが日本のサムライなのか?……だが、刀を差してねぇな……)
彼にとってはヘルメットをしている事がどれだけ都合が良かった事か…。
声さえ立てなければ、込み上げて来る笑いを堪えずに済むからだった。
明日は『スナックジュン』で大爆笑してしまう事は間違いないだろう。




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