『亀型メカ鉄獣の再来(1)』

『科学忍者隊の諸君。速やかに私の処まで集まってくれたまえ』
南部博士からの招集命令が掛かったのは、その日の夕方の事だった。
ジョーはサーキットの控えにいた。
走り終えて、G−2号機のメンテナンスをしている処だった。
「こちらG−2号、ラジャー」
すぐに反応して整備を取りやめ、車に乗り込んだ。
竜と連絡を取って合流地点を決め、勢い良くスタートさせた。
科学忍者隊は20分後には三日月基地に集合した。
「諸君、ご苦労」
南部博士はすぐに司令室に出て来た。
「今度は何が起こったんですか?
 此処に集まったと言う事は、メカ鉄獣が暴れている訳ではないんですね?」
健が訊いた。
「メカ鉄獣は出たが、一頻り暴れて街を占拠した」
「何ですって?!」
5人は異口同音に声を上げた。
「これを見たまえ」
南部博士は渋面を作って、スクリーンを下ろした。
映っているのは、街の中心部にあるらしいドーム型球場だった。
その上に何か巨大な物が乗っている。
乗っている、と言うのは正確ではない。
ドーム型球場はぺしゃんこに潰れてしまっていた。
球場よりも遥かに大きいメカ鉄獣が、圧し掛かっていた。
「これは亀ですね。タートルキングを思い出します」
ジョーが言った。
「手足をがっしりと、地面に喰い込ませている。
 なかなかの力があるらしい。
 街の中心部を破壊してそこに陣取った」
「この街はどこなんですか?」
「国際科学美術館があるアールシティだ」
「狙いは国際科学美術館の財宝ですか?」
と健。
「その可能性はあるが、まだ解ってはいない」
「人々の被害は?」
ジョーが訊いた。
「残念ながら、今日は日曜日。球場には多くの観客がいた…」
「何て事だ…」
ジョーは頭を抱えたくなった。
「現地時間は今、何時ですか?」
健が訊ねた。
「こちらとそれ程は変わらない。デイゲームの最中に襲われたのだ。
 今の時間は15時10分。こちらより3時間遅れだ」
「あのメカ鉄獣をあそこから何とか退ければいいんですね?
 もしかしたら、まだ生きている人がいるかもしれない」
健が言った。
「うむ。その可能性はある。今、国連軍が攻撃しているが、全く痛くも痒くもないらしい。
 ミサイルが響かないのだ。
 つまり、バードミサイルも通用しないかもしれない」
「だから、俺達を現地にすぐには派遣しなかったんですね?」
ジョーが納得したように言った。
「その通りだ。あのメカに入り込んで、白兵戦に持ち込むしかないのだ」
「解りました。各自のメカで現地に向かい、どこからか侵入しましょう。
 他の写真はありませんか?」
「国連軍から写真が送られて来る事になっているのだが、送って来ない処を見ると、どうやらやられたようだ」
「そうですか…」
健は下を向いた。
考えていても仕方がない。
現地に行って、実際にメカ鉄獣を見てから考えるべきだ。
「では、科学忍者隊出動します」
「頼んだぞ」
「ラジャー」
5人はそれぞれのメカに乗り込んで、出発する事になった。

ジョーは何か嫌な予感を感じていた。
最初の闘いと同じ亀型メカだ。
ギャラクターは何か壮大な事を考えているのではないだろうか。
G−2号機のアクセルを踏み込みながら、そんな事を考えていた。
現地時間の16時には到着した。
『ジョーとジュンは地上から1周して、奴の体内に入り込める隙がないか探してくれ。
 甚平と竜は俺と共に空から偵察だ』
「ラジャー」
メカ鉄獣はこうして見るとかなり大きい。
球場の3倍の体積はありそうだった。
「ジュンはそっちから回れ」
「ラジャー」
ジョーはジュンと反対側に向けて走り始めた。
巨大な亀が球場と周囲の施設を覆っている。
写真で見たよりも被害状況は酷い様子だった。
ビルがひしゃげ、潰れ、隣の遊園地に倒れ込んでいる。
これでは日曜日の昼間、遊園地で楽しんでいた家族も被害に遭っている事だろう。
ジョーの胸は怒りに震えた。
「こう言った行為が俺のような子供を作る。
 子を失った親が嘆き哀しむ。
 絶対に許せねぇ、ギャラクター!」
ジョーは注意深くメカ鉄獣を観察しながら、思わず叫んでいた。
右回りに回っていた彼の眼がふと光った。
亀の手足が出ている処に隙間がある。
『ジョー。亀の手足に隙間があるわね』
「ああ、こっちも確認した。5人で別れて潜入する事が出来るぜ」
『そうね』
『こちらG−1号。その手足の隙間から各自潜入する事にしよう。
 俺は右前足から、ジョーは右後ろ足、ジュンと甚平は左前足、竜は右後ろ足だ』
「OK!持ち場に着いたら連絡する」
『そうしてくれ。突入のタイミングは俺が指示する』
「ラジャー」
ジョーは右後ろ足の位置に向けて、移動した。
車を降りる。
巨大な後ろ足は、それを動かす為に大きな隙間が空いていた。
充分に入り込めるスペースがある。
ジョーはそれを見上げながら、健に通信をした。
『全員配置に着いたら連絡する。暫く待機してくれ』
「解った」
健や竜などは自分のメカをどこかに着陸させてから駆けつけて来なければならない。
少し時間が掛かるだろう。
ジョーはその間に考えた。
国際科学美術館を狙うのだったら、何故こんな処に陣取っている?
何か違う目的があるのではないか?
そんな気がした。
こんな処にじっとしているのもおかしい。
科学忍者隊を誘き出そうとしているのではないか?
ジョーはその結論に達した。
その事を健にブレスレットで告げた。
『確かにおかしい処があるな。心して掛かる事にしよう。
 竜も着いたか?』
『もうすぐじゃ』
『もう暫く全員待機!』
「ラジャー」
ジョーは焦れていた。
少しでも早くこのメカ鉄獣を浮上させなければ、生きている人も助からなくなる。
それに爆弾は使えない。
メカ鉄獣の下に潰されている人々を巻き込むからだ。
亀型メカ鉄獣を何とか飛び立つように仕向けなければならないのである。
それは難しい任務だ。
『全員配置に着いた。これから同時に突入するぞ!』
健の声が聴こえた。
「解った!」
ジョーは足の隙間に向けて、跳躍した。




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