『亀型メカ鉄獣の再来(2)』

ジョーは右後ろ足の隙間から侵入した。
ハラリと音もさせずに舞い降りる。
そこは各足の動力室のようになっていた。
爆弾は使えない。
ジョーはエアガンで機器類を撃って回った。
これで右後ろ足は使えまい。
そうする事で、歩いての移動が出来なくなり、何かあれば『飛んで逃げる』しかなくなる筈だった。
恐らくは他の足も同様に動力室がある事だろう。
侵入した各自が破壊したに違いない。
これで4本の足は駄目になったな。
ジョーは北叟笑んだ。
「何だなんだ!?」
ギャラクターの隊員達が駆けつけて来た。
「うわっ!科学忍者隊!」
「何を慌てている。来るのは想定出来たではないか」
チーフ格の男がいきなり出て来た。
(やはり…)
とジョーは思った。
これは科学忍者隊を誘き寄せる為の卑劣な罠だったのだ。
「健!これは罠だ!何が出て来るか解らねぇぞ!」
『ああ、そのようだ。全員気をつけろ!』
健の声がブレスレットから流れた。
健も同じ事を感じ取ったようだった。
「くそぅ。一般市民を犠牲にしやがって!」
ジョーは叫ぶと共に、回転して長い脚で敵兵を薙ぎ払った。
それと同時に羽根手裏剣を繰り出していた。
回転しながら繰り出された羽根手裏剣は、それでも正確に彼の狙いを突いていた。
身体を沈め込み、敵の鳩尾にパンチを繰り入れる。
思いっきり決まって、敵兵が崩れ落ちた。
次の瞬間にはジャンプして、敵にキックを入れていた。
いつでも、彼は次の攻撃目標を見つけた上で闘っている。
だから、倒せる敵の数が多いのだ。
敵の首を肘で抑え込み、そのまま一回転させて投げた。
敵は床に伸びてしまった。
そのタイミングでエアガンを取り出した彼は、三日月型キットで敵兵の顎を効率良く打ち砕く。
タタタタタっと小気味良い音が響き渡った。
すぐにまた羽根手裏剣を繰り出し、マシンガンを撃とうとしている敵の手の甲に打ち付けた。
マシンガンが取り落とされて暴発しているのは、いつもの事だ。
ジョーは慣れているので、慌てたりはしないが、敵兵の中には混乱が生じた。
中にはその暴発した流れ弾に当たってしまう者もいた。
自業自得だ。
ジョーはそう思っている。
そうして、敵を掻き分けるようにして、この動力室を出た。
先程通路に見えたチーフはどこにもいなかった。
(何か企んでやがるな…)
ジョーは注意深く進んだ。
広い通路だ。何が仕掛けられているか解ったものではない。
落とし穴、左右の壁から何か出て来るなど、想定出来るものはしておかなければならない。
天井も注意が必要だった。
この亀型メカ鉄獣全体が、科学忍者隊を陥れる為に設計されたと踏んで間違いはないだろう。
しかし、敵兵がわらわらと出て来る。
此処には罠は仕掛けられていないのかもしれない。
部下の事を思わないカッツェの事だから、そうとは言い切れない部分もあったのだが、消えたチーフが気になった。
ジョーは正面から来た敵の喉を掴んで、そのまま少し持ち上げた。
苦しみ蠢いている敵を放り投げる。
それだけで相手は気絶した。
左右にいた敵の頭を掴んで、両方を鉢合わせさせる。
ガツンと音がして、2人共崩れ落ちた。
敵を分け入るように彼は進んだ。
そうなると後方から狙って来る敵兵もいる。
マントで大概の弾丸は防げたが、ジョーは後ろにも注意を怠らなかった。
長い脚を後ろも見ないで後方に蹴り出す。
ピタリと手応えがあって、敵兵が呻き声を上げた。
そのまま回転して、また周囲の敵を薙ぎ倒し、一掃する。
そんな事を繰り返しながら、少しずつだが、敵兵を切り拓いて行った。
此処まで50人以上を倒している事だろう。
ジョーはそれでも疲れたりはしない。
息も切らさずに進んで行く。
敵兵は引きも切らずにやって来る。
「懲りねぇ奴らだ!」
ジョーは叫んで、また半回転するように長い脚を繰り出した。
脚だけの力で敵兵が薙ぎ倒される。
脚力が強い証拠だ。
元々ジョーには身体の割に膂力があり、ぐつぐつと煮えた釜に落ちそうになった竜を脚だけで支えて助けた事がある。
羽根手裏剣を四方八方に飛ばして、周りの敵を一掃すると、彼は右側に見える扉に突進した。
もしかしたらこの中に罠が待っているかもしれない。
そう警戒しながら、エアガンを尖兵に扉を突き破って、回転しながら部屋に突入した。
エアガンが狙う先にはチーフがいた。
やはりこの部屋には罠が仕掛けられている…。
ジョーはさすがに緊張した。
上下左右を探すが、鎖らしき物は見当たらない。
そう言った類いの罠ではないのか。
「どうした?臆したか?」
チーフは奥にいて、前に出て来ようとはしない。
どうやら自分とチーフの間に何かある。
ジョーはそう睨んだ。
床を注意深く見ると、左右一帯にほんの少しだけ隆起している場所がある事が解った。
「俺がそこに歩き掛かると何かが起こるんだな。
 でも、お前が奥にいると言う事は、停止ボタンがどこかにある筈だ」
勘のいい小僧だ、と敵のチーフは思った。
「ならば良い。このまま発動させてやる!」
チーフが叫んだ。
ビリビリとその一帯から電気エネルギーが沸き上がった。
その電気エネルギーは近くにいるジョーにも何やら影響を及ぼした。
これは実際に踏んでいたら、大変な事になると思われた。
仲間達が心配だった。
電気エネルギーは意思を持ったかのように、ジョーを襲って来た。
罠が仕掛けられていた一帯には足を踏み入れなかった筈なのだが、それでもどうやらチーフの意のままになるらしかった。
「ぐっ!」
ジョーは電気エネルギーに包まれた。
激しいショックが身体を襲った。
気が狂いそうになる痛みが全身を駆け回っていた。
身体を動かそうにも動かす事が出来ない。
この部屋自体が罠だったと言えるだろう。
あの一帯に足を踏み入れていたら、一瞬にして身体を焼かれていたのかもしれない。
ジョーはその前に罠に気づいたから、この程度で済んでいるのだ。
「ふふ、焼き鳥にする予定だったが、さすがに罠に気づいたな、小僧。
 しかし、どうだ?電気を全身に流されている気分は?
 もうそろそろ、気を失う頃だと思うが、なかなか堪えないようだな!
 さすがだと褒めてやる」
チーフは薄笑いを浮かべながら、ジョーが意識を失って行くのを待っているようだった。
ジョーは死んでも意識を手放すものか、と耐え忍んでいる。
何か抜け出す手はないか、と痺れた頭で考えた。
しかし、身体が言う事を効かない。
どうしようもなかった。
エアガンも羽根手裏剣も繰り出す事が出来ない。
「く…くそぅ……」
ジョーには成す術もなかった。
仲間達が焼かれていない事を願うのみだ。
悔しい思いを胸に、ジョーはついに倒れて気を失った。
気がついた時には、仲間達全員と共に厳重な檻に収監されていた。
大きな部屋の中に、四角い檻がポツンとあった。
「ジョー、気がついたか…」
健の声がした。
まだジュン達3人は意識を取り戻していない。
「やられたな…」
ジョーは頭を振って言った。
まだ全身に痺れが残っている。
「どうにかして此処を抜け出すしかない」
健は強い眼でそう言った。
「だが、今は体力の回復を待とう。お前も電気にやられたんだろう?」
「その通りだ。みんなそうだろう。こいつが罠だったんだ」
「最初から俺達が仕掛けに気づく事は織り込み済みだったようだな」
健が言った。




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