『亀型メカ鉄獣の再来(4)/終章』

5人は司令室を目掛けてひた走った。
操縦装置はそこにある筈だ。
奪取して山中に送り込み、そこで爆破して脱出する。
それが彼らの作戦だった。
だが、ジョーが気にしていたのは、まだ隊長が出て来ていないと言う事だった。
この作戦については、彼の考えは先程仲間達に述べたように、籠城タイプの作戦にカッツェは出て来ない、と言う事だった。
だとすれば、必ず屈強で優秀な隊長がこのメカ鉄獣に乗り込み、指揮を取っている筈なのである。
勿論、カッツェは通信装置で細かく指示を出している事だろう。
チーフ以上に手強い隊長が待っている可能性がある。
その時は自分が引き受けて、健達には操縦席の奪取を進めさせようとジョーは考えていた。
司令室に行くまでの間、ちょこちょこと隊員達が登場した。
しかし、5人の敵ではない。
「おいら達に任せて!」
甚平と竜が簡単に片付けて、後から追い着いて来た。
やがて司令室の扉を発見した。
巨大な扉だ。
ドーム球場の3個分もあるメカ鉄獣の内部は充分に広かった。
「開閉装置がある筈だ」
健が言った。
「健!これだ」
ジョーが指差したのは、パスワードを入れる方式の開閉装置だった。
「これを破壊したら却って開かなくなるんじゃねぇのか?」
「そうだな…。ジョー、バーナーで穴を空けてくれ」
「解った!」
ジョーはエアガンのキットをバーナーに切り替えて、早速作業を始めた。
敵は既に気配を感じている事だろう。
何故なら警報装置が鳴り始めたからだ。
ギャラクターの隊員達がわらわらと現われたが、健が「ジョーはその作業に没頭してくれ」と言い、4人で隊員達を引き受けた。
ジョーはその間に作業を進めて行く。
鉄の扉は亀の甲羅のようになかなか頑丈に出来ていて、さすがのジョーも額に汗しながら、必死になった。
仲間達が闘っている間に、何とか穴を空け終えて、ジョーはそこにパンチを入れた。
向こうには待ち構えている隊長らしき男の姿が見えた。
「健、空いたぜ」
ジョーはそう言うと最初に飛び込んだ。
中にいたのは、重そうな亀の甲羅を背負った隊長だった。
これは手強いかもしれない。
あの甲羅が本物なら、相当な重さに耐えられる人物である。
また、そのまま圧し掛かられたら、骨の1本や2本は折れるだろう。
隊長は腕を組んで待っていた。
「やはり来たな、科学忍者隊。一旦は捕らえられていながら、良く此処までやって来たものだ」
驚いたのは、声が嗄(しわが)れていた事だ。
意外と歳を取っているのか、とジョーは思った。
それなのにこの甲羅とは……。
「儂はガキの頃よりこの甲羅を背負って、50年間生きて来た男だよ。
 誰よりも鍛えられている。
 お前達に儂が破れるかな?」
隊長は自信ありげに宣言した。
「健!こいつは俺に任せて、早く操縦席を奪取しろ!」
「ジョー、それなら3人に任せる。俺も此処に残る」
健は既にジュン、甚平、竜の3人にそれを指示していた。
3人は雑魚隊員とやり合いながら、操縦席に向かっていた。
「2人掛かりか。まあ、それもいい。儂は強いからな」
「そうだろうか?」
ジョーは呟いた。
「その自信が仇になるって事もあるぜ。此処にいるガッチャマンはそう簡単にはやられねぇぜ。
 そして、俺も彼と身体能力は伯仲している。
 どっちから闘う?1人ずつにしてやってもいいぜ」
ジョーは誘うような声を掛けた。
「2人共掛かって来いっ!」
敵の隊長が動いた。
重い甲羅を物ともせず、素早い動きで2人に攻撃を仕掛けて来る。
どう考えても先程の言葉からして、60歳以上にはなっている筈だ。
それがベルク・カッツェに命じられて、こんな処にのこのこ出て来るとは。
「ジョー、こいつは本物だ。油断するな」
「解っている」
ジョーに襲い掛かって来た敵のパンチは重く、そして早かった。
信じられないスピードだ。
亀の甲羅を50年背負って生きて来たと言うのは、伊達ではなかったのだ。
しかし、ジョーはそのパンチを軽く横にずれただけで受け流した。
「あ…当たらない?」
隊長が動揺したのが解った。
「動体視力には自信があるんだ」
ジョーは言った。
健はいつでもジョーに変わって闘いに参加出来るように備えながら、それをじっと見守っている。
その時、ガクっと床が動いて、メカ鉄獣が宙に浮いた。
竜が慣れないながらも、何とか操縦をこなしている。
「ようし、いいぞ、竜!」
隊長とは決着を着けなくても良いのだ。
このメカ鉄獣を爆破してしまえるのなら。
しかし、ジョーはそれでは気が済まない自分を感じていた。
メカ鉄獣の浮上に必要以上によろめいた隊長だったが、彼はまたジョーにパンチを見舞って来る。
ジョーはその腕を左腕で持ち上げておいて、その鳩尾に重いパンチを入れた。
「うっ!」
確かに効いた筈だ。
身体の表側には甲羅のような防備がない。
「この小僧、やるな!」
隊長は完全にガッチャマンの事は眼中に無くなったようだ。
健は腕を組んで見ている。
操縦している竜達の事も気にしながら、ジョーと隊長の一騎打ちを見守っている感じだ。
隊長はジョーに足払いを掛けて来た。
転がしておいて、圧し掛かろうと言う作戦である。
しかし、ジョーはそれには掛からなかった。
「圧し掛かって重みで俺を潰そうとしているのは最初から解っているんだよ」
ジョーは言い放った。
「だがな。そうは簡単にさせて溜まるものかよ」
弱いのは身体の前側だ。
それが先程のパンチで良く解った。
ジョーは素早い動きで敵を翻弄しておいて、甲羅の重みで疲れさせてから、エアガンを抜いた。
「その甲羅は最大の武器と防御になるのと同時に、最大の弱点でもあるのさ。
 最初からその事は解っていた」
それを聴くと隊長は甲羅を外した。
背負っているような形になっていたのだ。
「これで五分と五分だ」
「まだ言ってやがる」
ジョーは苦笑した。
「どこか五分と五分なんだ?もう疲れて動けなくなる頃だ。
 あんたはもっと早くに俺達を倒せると高を括っていた」
「小僧!生意気な!」
「だったら、俺に襲い掛かってみろ」
ジョーは誘った。
隊長がまた重いパンチを送り込んで来たが、甲羅がないせいかバランスが上手く取れないようだった。
これもジョーには計算出来た事だ。
ひょいと躱しておいて、ジョーは先程抜いたエアガンを床に転がりながら、敵の腹部に下から撃ち込んだ。
隊長はぐらり、と上から潰されたかのように倒れた。
「甲羅を外しておいて良かったな」
ジョーはニヤリと笑った。
隊長にはそれを聴く意識がもうなかった。
竜の操縦で山間(やまあい)に出たメカ鉄獣は、その間に他の4人が時限爆弾を仕掛けて回って、無事に爆破した。
彼らはマントで地上に舞い降りた。
国連軍の飛行艇がやって来た。
南部博士の手配だろう。
置いて来たメカの処まで送ってくれるらしい。
「人々の被害はどうですか?」
健が一番気になっている事を訊いた。
「生き残っている人を探して、救助している処だ。
 中には奇跡的に無傷の人もいて、我々も救いを感じている」
「それは良かった…」
少しでも、助かる人がいれば、それは多少の救いにはなった。
しかし、犠牲者の多くは家族連れだ。
「また、俺のような子供が……」
ジョーは思わず呟いた。
健がジョーの肩を軽く叩いた。
科学忍者隊にとって、何とも後味の悪い事件であった。




inserted by FC2 system