『悔悟』

ジョー、お前って奴は……。
なぜ勝手な行動をしたんだ。
なぜ俺達に相談してくれなかったんだ。
一言相談して欲しかったぞ。
でも、お前らしいな。
意地っ張りでさ。
病気の事を隠し通して、死んで行ってしまった。
俺は異常に気付いていたのに、何も…何も出来なかった。
殴り合いの喧嘩をしてまで、お前は俺に病気を隠したかったのか。
あの時話してくれていれば……。
俺に話してくれたとしても、結局は南部博士に報告する事になる。
検査をして生命に関わる病気だと解れば、科学忍者隊から外される。
お前はそれが怖かったんだろ?
その時はまだ自分の生命に限りがある事を知ってはいなかったのかもしれない。
それは俺には解らない。
でも、南部博士によると、倒れた後運ばれた病院で医師の博士への電話を聴いて死期を知ったのではないか、と言っていた。
ジョー、今ならお前の気持ちも解るんだ。
俺をお前と置き換えてみると、やはり同じ事をしただろう。
そう思うんだ。
だけど、俺は俺だ。
お前には打ち明けて欲しかった。
水臭いと思っているのさ。
打ち明けられたとしても、お前は病院のベッドに収まっているような奴じゃない事は、俺が一番良く知っている。
だから、全てを承知の上でお前をクロスカラコルムへ連れて行った可能性もあったのに……。
俺達と一緒なら状況も違ったに違いない。
お前が1人捕らえられ、あのような酷い仕打ちを受ける事はなかっただろう、と思う。
そう思うと、打ち明けてくれなかったお前の事を、少し恨みに思うぞ。
俺はお前を置いて行く決断をしなければならなかった。
どんな思いだったか解るか?
死ぬ時は一緒だと誓った友をあんな場所に置き去りにするなんて。
あの時、他の事を決断する事は出来なかったのか。
俺にはそれは出来なかった。
科学忍者隊のリーダーとしては、あれで正しかったと今でも言える。
だけど、1人の鷲尾健に戻った時、お前の屍を拾えなかった事に後悔の念が込み上げて来るんだ。
その気持ちはどうしようもなく膨らんでいる。
せめて、連れ帰りたかったよ。
南部博士の元に……。
そして手厚く葬りたかった。
分子爆弾の装置が停止したのは、後の調べでお前の羽根手裏剣が原因だったと知ったよ。
お前の執念がそれを成し遂げたんだな。
それを知った時、俺は何とも言えない哀しみと、そして安心感に襲われた。
お前はちゃんと本懐を遂げていたんだな。
それだけが救いだよ。
ジョー、お前はそれを知っているのか?
知らないで死んだのなら、俺が伝えに行きたい。
まだお前と話したい事は沢山あったし、これから未来も共に過ごすんだと漠然と思っていたのに。
お前はレーサーとして、もっと上を狙いたかったんだろう?
お前ならきっと大成しただろうに。
病気を治す事が出来たら……。
もっと早かったら、治せたんじゃないのか?
南部博士はNOだと言う。
俺は悔しくてならないよ。
お前ばかりが苦しい思いをして……。
ギャラクターの子であった事、アラン神父の事、そして病気の事。
お前は何一つ、俺に苦しみを打ち明けなかった。
ギャラクターの子だった事を思い出した時のお前は発狂するのではないかと言う程の取り乱しようだったが、その後は落ち着いて見えた。
だが、その内心はどうだったのか?
急に故郷に墓参りに帰った事から考えても、やはり苦しかったんだろう。
俺ではジョーの救けにはならなかったのか?
そんなに頼り甲斐がないリーダーだったのか?
お前は誰にも言わないよな。
その性格は解っているつもりだが、俺は言って欲しかった。聞きたかった。
もう過去の事を言っても仕方がないのは解っている。
戻ってやり直す事など出来ない相談だからな。
でも、お前には俺達仲間に相談して欲しかったんだ。
俺達はそれ程までに薄い仲間だったのか?
違うだろう?
苦楽を共にして来た仲間じゃないか。
お前にとって良いように、きっと知恵を絞って考えた筈なのに……。
心の傷を全く見せないまま、不安を1人で抱えたまま、ふっと逝ってしまった。
みんな何も言わないが、心に傷を抱えている。
お前をみすみす死なせた事にな。
俺は特にそうだ。
気付いていたのに……。
未だに悔やまれてならない。
お前の2回目の命日に、俺はこうしてお前の墓の前でグチグチ言っているが、お前は笑って見ているのかな?
俺は二十歳になったぞ。
本当ならお前も同じ歳になって、晴れて大人として認められている筈だったのに。
平和になって、俺のテストパイロットとしての仕事も順調に入るようになったんだ。
もう航空便のアルバイトなんてしなくても良くなったよ。
お前にも少し借金をしたなぁ。
返したくても返す相手がいないじゃないか。
お前の少しの蓄えは、南部博士が施設に寄付をした。
それで良かったんだよな。
レーシングカーを買ったばかりでそれ程は残っていなかったそうだが……。
お前が賞金で買ったあの黄色いレーシングカーは南部博士が修理費を出して、サーキットに寄付したそうだ。
時々サーキットに行くよ。
G−2号機が走っている姿は見られないが、お前のレーシングカーが誰かの手によって走っている。
俺達はそれを見て、ジョーの姿を思い浮かべるんだ。
ジョーは生きている、そう思いたくなるんだよ。
俺達はお前の遺体を見ていないからな。
どこかで生きていてくれないか、なんて非現実的な事を考えてしまう。
南部博士には、それ程非現実的な事はない、と言われているさ。
ジョーの病状はそこまで悪化していたんだな。
きっと自覚症状が出た時には、既に手遅れだったに違いない、と博士は言っていた。
それでも、お前を医者に診せていれば…、と後悔の念は今も消えない。
もう遅いけれど、今度似たような場面に遭遇する事があったら、俺は2度と同じ失敗をしないと、悔悟したんだ。
お前の時のような思いを2度としたくないからな。
ジョーはもう戻らないけれど、これ以上周りの人々を1人とて失いたくはない。
親父とお前だけでも、こんなに苦しいのに……。
ギャラクターとの闘いで犠牲になった人は多い。
一般市民、国連軍…。他にもいるだろう。
俺達はその人達の分まで生きなければならない。
誇りを持って生きなければならない。
その中には親父やジョーも入っているのさ。
お前の分まで俺は堂々と生きる。
自分の人生を無駄にしないようにな。
お前はレーサーとして大成したかったんだろ?
もし、生まれ変わる事が出来たのなら、きっとその世で実現させてくれ。
俺達はきっとお前の再来だと気づく筈だ。
その時は俺達は中年になっている事だろうがな。
俺はお前と再会出来る日を待っているからな。
もし天界と言う場所があって、お前が俺達を待っていてくれるのなら、それも悪くはない。
また同じ時代に生まれて、同じように今度は普通の青春を送りたいものだ。




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