『闘いの日々』

ジョーは生き生きと闘っていた。
敵兵がわらわらと現われる中、それを物ともせずに。
長い脚を伸ばして、バレエダンサーのように回転すると、敵兵が一気に薙ぎ倒されて行った。
その返す刀で、別の隊員の鳩尾に重い蹴りを与える。
確実な手応えがあって、敵兵は崩れ落ちた。
闘っている時、『生きている』と言う感覚があった。
これはサーキットでレースをしている時と同じ興奮状態だった。
自分はこの為に生まれて来たのだろう、と言う何か確信めいた物がある。
ギャラクターと闘う為に選ばれたのも運命だろう。
自分は過去を精算し、生きる為に闘っているのだ。
両親の仇を討つ為に。
8歳の時に植えつけられた復讐心は消える処かどんどん膨らんで行く。
特にギャラクターの汚いやり口を実際に眼にするようになってから、その気持ちは一段と強くなった。
自分のような子供を出すまい、そう思って活動をしているものの、実際にはそれを許してしまっている状況なのが何とも悔しい。
ジョーは側転して、両足に敵の首を挟んだ。
そのまま脚の力で敵をブン投げ、そのまま体操選手のように綺麗に着地した。
次の瞬間には羽根手裏剣を舞わせている。
ピシュっと音を立てて、凄い勢いで羽根手裏剣が飛んで行く。
狙い違わず何人もの敵兵の手の甲に当たり、マシンガンが取り落とされる。
その間にエアガンの三日月型キットが別の兵士達の顎を打ち砕く。
ジョーは一瞬たりともじっとはしていない。
1人の敵と相対している時、既に次の攻撃目標を定めている。
だから、次の相手に攻撃を仕掛けるのが天才的に早い。
この事は闘いの中では重要な事だった。
彼は天性の勘の持ち主だったのだ。
ジャンプして敵兵の脳天からパンチを入れる。
竹を割られたかのように、敵兵の仮面が半分に割れ、そのまま倒れ込んだ。
ジョーは一瞬片足を着地させ、方向転換をして別の隊員にぶち当たる。
重いパンチを鳩尾に喰い込ませていた。
「ぐぇぇっ!」
敵兵が何とも言えない悲鳴を上げて、後ろへ引っ繰り返った。
ギャラクターは彼にとって決して赦せない存在だった。
両親を眼の前で殺されたのだ。
それだけではない。
自分も殺され掛けた。
そして、これまで見て来た数々の悪行だけでも赦し難い物がある。
どれだけの人が犠牲になり、自然や建物・街が破壊され尽くして来たのか。
それを思っただけで、赦せる筈などなかった。
詳しい統計は出ていないが、地球の人口にも影響がある程の殺戮をギャラクターは繰り返している。
ジョーはその事に胸を痛めていた。
こうしている瞬間にもどこかで自分のような子供が苦しんでいるのではないか、と。
自分のように復讐に燃えて人生を狂わす子供は出て欲しくはない。
自分だけで充分だと思っている。
これ以上、苦しむ子供達を出したくはない。
それが彼の願いだった。
しかし、ギャラクターは相変わらず神出鬼没で、科学忍者隊は後手後手に回るしかない状況だ。
これではジョーの願いは成就されない。
彼はそれを憂えていた。
科学忍者隊はギャラクターの本部を見つける事が任務だった筈。
だが、とてもそこまで及ばない。
ギャラクターが起こす事件に対応して、敵を倒すだけで精一杯なのだ。
この長い闘いはいつまで続くのか?
その事がジョーに焦りを感じさせていた。
ジョーは羽根手裏剣で敵兵を一掃した。
先に向かって走り出す。
彼の行く先々にも敵兵は現われたが、ジョーは適宜倒して行く。
闘う彼は確かに生き生きとしていた。
少しでも、ギャラクターを減らす事に繋がるからだろう。
だが、その一方でギャラクターの誘いに乗って、入隊している一般人がいる筈だ。
でなければ、これ程までに隊員の人数が減らないとは思えない。
ジョーはそれが不安で仕方がなかった。
自分が倒している相手もまた、地球人なのだ。
総裁Xかベルク・カッツェに洗脳でもされているのだとしたら、何とか救えないものか。
しかし、それは科学忍者隊には出来ない相談だ。
出来るだけ殺さないように闘うしかなかった。
彼らの悪行は赦し難い事だったし、それなりの『ワル』がギャラクターに入っているのだろう。
ギャラクターに入った段階で、もう地球人としての自分を捨てているのだ。
奴らにその覚悟があるのなら、こちらも覚悟を決めて、敵兵を倒して行くしかない。
ジョーは心の迷いをそうやって切り捨てた。
「うおりゃあ!」
ジョーは気合を掛けて、ジャンプし、敵兵の上を飛び越えた。
その間に羽根手裏剣をばら撒くかのように大量に放っている。
その指先のほんの僅かな加減で、彼には羽根手裏剣を思い通りに捌く事が出来た。
それも天性のものとしか言いようがなかった。
1度に何本もの羽根手裏剣を放って、正確に敵兵を射抜くのだ。
動体視力に優れている事もあるだろう。
彼の羽根手裏剣と射撃の腕は、誰にも負ける事がなかった。
ジョーは腰からエアガンを抜いて、敵兵の心臓を狙う。
その狙いも確実だった。
しかし、エアガンでは相手が死ぬ事はない。
一時的に気絶させるだけだ。
キットを変えれば、本当の銃のように使う事も出来るが、それをする事はない。
南部博士の親心から来ているのだ。
直接手を下さないようにと言う事だろう。
だが、これからはそれが必要になる事もあるかもしれない。
ジョーはその覚悟だけはしていた。
羽根手裏剣でも生命を奪う事は出来る。
生命の遣り取りをしているから、どうしようもない事もある。
やらなければやられる時、ジョーは敵の喉笛を狙う事があった。
自分の手は既に汚れているのだ。
地獄へ堕ちる覚悟まで出来ていた。
例え悪行を繰り返す者であっても、手に掛けた事は間違いのない事実だ。
その事を悪いとは思えない。
仕方がなかった。
しかし、罪となるだろう、と言う事は解っていた。
小さい頃、両親に連れられて教会に行っていたから、殺生は悪い事だと教えられて来た。
自分はそれをしている。
地獄へ堕ちても仕方がない、と彼は腹を括っていた。
ジョーは科学忍者隊に入らずとも、復讐に手を染めたであろう。
復讐心が芽生えた段階から、その運命は決まっていたのだと自分でも思っていた。
身体を反転させて、ジョーは斜め後方へと跳躍した。
彼をマシンガンで狙っていた敵兵をエアガンの三日月型キットで撃つ。
喉にヒットした。
そのままズルズルと伸びて行くワイヤーに押されるように、敵は壁際まで滑って行き、そこで滑り落ちた。
彼の獅子奮迅の闘いは続く。
果てしない闘いの道。
それは茨の道に違いない。
そうは思っても行かなければならない。
ジョーは生きている限り、闘いの場にいる事になる。
例えギャラクターを斃す日が来たとしても、彼はレーサーとして闘い続けるのだから。
自分の闘争本能を彼は知っている。
闘いの中でしか生きられない。
それは8歳の時に植えつけられてしまった強烈な記憶によって、彼に芽生えたものなのだろう。
本懐を遂げても、彼はまだ闘い続けるのだ。
自分の人生はそれでいい。
ジョーはそう思っている。
考えたくもないが、レースを引退する時まではそうなのだろう。
その後の人生なんて全く考えてもいなかった。
闘いに生きる。
自分の人生は闘いに捧げる。
その覚悟をした上で、ジョーは今日もギャラクターと闘い続けるのである。




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