『爆破(前編)』

「一体何が起こったんだ?」
サーキット帰りの道路で、急に渋滞が起こった。
どうやら何か事故が起こったらしい。
「まさか、ギャラクターじゃあるめぇな!」
しかし、指令は入って来ない。
事件は起こっていないのだ。
救急車や消防車のサイレンが聴こえて来た。
ジョーはG−2号機を路肩に寄せてそれを遣り過ごした。
何やら大きな事故のようだ。
車は一応流れている。
時間は掛かったが、自己現場の横を通り過ぎる瞬間が来た。
車に見覚えがある。
フランツの車だ。
「一体どうしたんですか?その車に乗っていた人は?」
交通整理をしている警察の人間にそう訊くと、「早く行きなさい」と答えるばかりだ。
「知り合いの車なんですよ!」
ジョーが必死で言うと、漸く警官は答えてくれた。
「車が突然爆発したらしい。
 中の人物は重傷だが、生命に別状はない」
「そうですか?家族への連絡は?」
「既に済ませてある」
後方の車からクラクションが鳴らされた。
「早く行け」
「どこの病院に運ばれたんです?」
漸く病院の名前だけを聞き出した。
ジョーはその道路を途中で左に抜けて、病院へと向かう事にした。

フランツが運ばれたのは、郊外にある救急病院だった。
車が爆発したとはどう言う事か?
ISOの情報部員だと言う事がバレて、爆弾でも仕掛けられたのか?
それはこれからの警察の調べで明らかになる事だろう。
ジョーは生命に別状はないと言う言葉に安堵したが、その事が気になってならなかった。
受付でフランツがどこに運び込まれたか、訊いた。
処置室にいると言う。
手術室ではない事に取り敢えずは安心した。
しかし、これから手術を受ける事になるのかもしれない。
幸いにして、フランツ以外に被害にあった者はいなかったようだ。
ジョーはフランツがいると言う処置室に向かった。
まだ家族は到着していなかった。
ジョーが来意を告げると、逢わせてくれると言う。
「逢えるんですか?重傷ではないと言う事ですか?」
「重傷ですが、意識はあります。これから手術を始めますので、話をするのなら手短に」
看護師がそう言った。
「ジョー。どうして此処へ?」
「たまたま通り掛かって…。大丈夫ですか?」
「手足の骨が折れた程度だ。大した爆発ではなかった」
「何か車に仕掛けられたんじゃ?」
「多分そうだろうな」
「どうして?貴方が人に恨まれるとは俺には思えねぇ」
「最近、恐喝を受けていたんだ。事情は説明出来ないがね」
「奥さんと娘さんはそれを?」
「知らん……」
「心配するから黙っていたって事か?」
「まあ、そう言う事だな……」
フランツは痛みに表情を引きつらせた。
「大丈夫か?」
「この位大した怪我ではないさ」
ジョーはその言葉を聴いて、さすがに情報部員だと思った。
だが、彼はその事を知らない事になっている。
「とにかく警察に恐喝の事を話すんだな」
ジョーはそう言った。
看護師達が処置を終えて、手術室に移る準備を始めた。
ジョーは外に出るように言われたので、それに従った。
何が起こっているのか解らなかった。
フランツが恐喝を受けていた。
情報部員だと言う事がバレてギャラクターが狙って来たのだとしたら、もっと確実に殺すだろうし、恐喝などと言う回りくどい方法は採らないに違いない。
恐らくはフランツは活動中に知らなくても良い秘密を知ってしまったのだろう。
それで恐喝されたと思われる。
ジョーはこの事件を自分なりに調べてみようと言う気になっていた。
フランツがどんな事件を追っていたのかについては、南部博士に頼んで調べて貰うしかないと思った。

ジョーは病院を後にする事にした。
フランツに恐喝の内容を訊いても答えはしないだろうし、ジョーがそこまで気にするのもおかしいと言う事になる。
それよりも南部博士の伝手で事件を洗った方が早い。
「『エース』が追っていた事件を?」
南部博士が、ジョーがどうしてそんな事を気にするのだ、と怪訝な表情を見せた。
「実は……。『エース』の正体は俺のサーキット仲間のフランツと言う男です。
 俺はそれに気付いていない事になっているのですが…。
 彼が車を爆破され、重傷を負いました。
 どうやらギャラクター絡みではないようですが、何かを探っている内に見ては行けない物を見てしまった可能性があるのです。
 彼は恐喝を受けていたと言うのです」
「その事件に首を突っ込む気かね?」
「任務に支障がないようにはします。パトロールにも出ます。ですから……」
「解った。君が何を言っても聞かない男だと言う事は良く知っている。
 だが、無理はするな。深追いをして傷を負うような事は許さん」
「解っています」
「では、少し待っていたまえ」
南部博士はアンダーソン長官を通じて、情報部長と連絡を取ってくれた。
内密に『エース』が探っていた内容を教えてくれ、と依頼したのだ。
その結果、『エース』は南ホーキンス地方にあるK国の金塊消失事件絡みの事を調べている事が解った。
ギャラクターの仕業ではなかったのかもしれない……。
ジョーはそれを聴いて思った。
K国に潜り込んでみるか。
そう決めて、彼はG−2号機に乗り込んだ。
『エース』には相棒はいない。
相棒の『ビート』は、任務中に撃たれて死んだ。
それ以来、新しい相棒を受け入れようとはせず、ずっと独りで情報部員としての活動を行なっていた。
こう言う時に相棒が居てくれたら接触するのだが…。
とジョーは思った。
しかし、仕方がない。
自分も単独で事件を調べるより他なかった。
そうすれば何か見えて来る筈だ。
マフィアか何かが絡んでいるのかもしれない。
フランツは『エース』として、その尻尾を掴んでいたのだろうか。
だとすれば、情報部員としてではなく、国際警察の刑事か何かだと思われている可能性もあった。
だが、恐喝されていたと言う事は少なくとも自宅は知られていたと言う事だ。
犯人がギャラクターであると言う可能性も棄て切れないが、マフィアと言う可能性も否定出来ない。
今はその両面で調査してみるより他はなかった。
ただ、ジョーの勘は今回の事件はギャラクターではないと告げていたのである。
こんな事に首を突っ込んでどうするつもりだ、と自分でも思う。
だが他でもないフランツが狙われたのだ。
何とかしてやらなければならない。
フランツは余計な事を、と思うかもしれない。
だから、ジョーは黙ってそれをするつもりだった。
フランツには身体を治す事に専念して貰おう。
情報部員としても、レーサーとしても再起不能にでもなったら、大変な事だ。
彼には家族もいる。
家族に危害が及ばないようにする為にも、ジョーが動く価値はあるのだ。
ジョーは早速、旅行者を装ってK国に潜入した。




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