『改良』

どこかで鶯が優雅に啼いている。
ジョーはトレーラーハウスから外に出て、その姿を探したが、見当たらなかった。
「随分いい声で啼くものだな」
独り言を言うと、いつも吊るしてあるハンモックに飛び乗った。
もう朝食を終え、室内で自主トレも済ませて、任務さえなければ自由な時間だった。
今日は午後からパトロールがあるので、サーキットには行けない。
中途半端な時間をこうして、束の間の休息として味わっているのだ。
木々がさわさわと揺れている。
風が爽やかに彼の頬を撫でる。
緑のハーモニーが彼を楽しませた。
森は一瞬たりとも同じではないのだ。
自分もそうなのかもしれない。
人間は変わらないものだと考えていたが、一瞬一瞬で考えている事も変わる。
細胞も変わる。
1秒前と今の自分は違うのかもしれない。
そんな哲学的な事をふと考えた。
『科学忍者隊の諸君。見せたい物があるので、集合時間より早いが私の処に集まってくれたまえ』
南部博士から通信が入った。
「見せたい物?何か事件ですか?」
『いや、そうではない。集まってくれれば解る』
南部博士は多くの説明を避けた。
ジョーは不審に思いながらも、ハンモックから降りて、G−2号機に乗り込んだ。

三日月珊瑚礁に集まった彼らは、バードスタイルで司令室にいた。
博士は「待たせてすまない」と言いながら、司令室に入って来た。
「俺達に見せたい物って何ですか?」
健が代表して訊いた。
「うむ。これだ」
デスクの上にはジュラルミンケースがあった。
「諸君の武器の試作品だ。先般から作らせていたのが、今朝完成したのだ」
南部博士がケースを開けて見せた。
見掛けは全く変わらない。
「何が違うんです?」
ジョーが訊いた。
「それぞれの機能をパワーアップしてある。
 今日は使えるかどうかテストをして貰いたい」
「完成品ではないんですね」
ジョーは呟くように言った。
「諸君の手に馴染み、パワーアップした部分が上手く機能すれば、その時初めて完成品となる」
「成る程」
健は自分の武器であるブーメランを手に取った。
それを見た仲間達も自分の武器に手を伸ばした。
竜はずんぐりとしたエアガンを持っているが、殆ど武器として使う事はない。
それだからか、それ程気が進まない感じで、武器を手に取った。
ジョーも正直言って、今の機能で文句はなかった。
健のブーメランは、開いて鎖で繋げ、ヌンチャクのような使い方が出来るようになったと言う。
健はその事が気に入ったようだった。
ジョーのエアガンは付け替えられるキットが増えた事と、実弾も出るようにした事だ。
これはどうしても必要な時にだけ使うように、と南部博士の注釈が入った。
ジョーは実弾など必要とは感じなかった。
ただ、相手が人間ではない時には必要性が出て来る事もあるかもしれない。
「それ程出番はないと思いますが、一応射撃テストをしてみましょう」
ジョーはそう言って、仲間達と共に訓練室へと移動した。
訓練室では、警察官が射撃訓練に使うような的があった。
まずはそれで試してみて、その後は動く標的を相手にする。
ジョーは停まっている標的など相手にしても仕方がない、と思っていた。
それはそうだ。
ギャラクターとの闘いの中で、相手がじっとしていてくれる事などない。
南部博士が実弾を出るようにしたのは、人間相手ではなく、例えば車をパンクさせるとか、そう言った場面での使用を考えているに違いない。
それなら理解が出来るし、ジョーもそう言った場面以外で使うつもりはない。
余り機能が多くなり過ぎると、咄嗟の時に操作を誤る可能性もあるので、これを使う事になるのなら、充分に慣れておかなければならない、と思った。
健は早速ヌンチャク様のブーメランを試していた。
「これは使えるぞ」
そう声が弾んでいる。
竜は今まで特別なキットがなかったのが、少し付けられるようになった。
しかし、やはり気が進まないようだ。
多分彼は新しい武器を返す事になるだろう。
持っていても宝の持ち腐れだ。
彼は自分の身体ひとつで闘うのが常だからだ。
ジュンと甚平の武器にもそれぞれ改良が加えられていた。
2人は黙々と新しい機能を試していた。
ジョーは実弾を撃ってみた。
反動が激しい。
彼の腕だから的の中心に弾丸の跡が集中しているが、他の者ならそうは行かないだろう。
次に動く標的を狙った。
撃った時の反動を物ともせず、ジョーは走り回りながら、動く複数の標的を狙った。
全てど真ん中に風穴が空いていた。
「まあ、使えなくはねぇな」
実際の拳銃も訓練で取り扱った事がある。
だから、撃った時に反動が出るのには慣れていたし、それぐらいの事は彼にとっては何でもない。
見掛けは変わらないし、信号弾などが撃てる機能も追加された。
「俺はこれでいいか。特に異を唱える事ぁねぇな。
 健、お前はどうだ?」
「俺も同様だ。新しい機能を使う事もこれからあるだろう。
 今までの機能が使えなくなった訳ではないしな」
「同感だ。今までの機能を残しての改良だからな」
「ジュン達はどうする?」
「私も同様よ」
「おいらも」
「おらは特に新しい機能は要らんのう。普段から余り使っていねぇからな」
「使ってねぇなら、別に持っていてもいいんじゃねぇのか?」
ジョーが言った。
「折角南部博士が改良してくれたんだからよ」
「そうだよ、竜。持っているだけでもいいじゃん。
 何かの役に立つかもしれないよ」
甚平も言った。
「だけんども……。う〜ん……、そうじゃのう」
竜だけは歯切れが悪かったが、結局全員が新しい武器と交換する事にした。
見掛けが変わらないので、腰のホルスターにそのまま収まる。
『パトロールの時間まで、それぞれもう少し使い勝手を研究したまえ』
モニタリングルームから満足そうにそう言った南部博士は、忙しそうに部屋を去って行った。
ジョーはもう少し射撃をしてみる事にした。
仲間達が見守る中、ロボットを相手に闘ってみる。
ジョーはロボットを停めるスイッチを確実に実弾で射抜いた。
10体のロボットを10分もしない内に動きを停めてしまった。
「ジョー、もう充分に使いこなしているじゃないか?」
健が言った。
「ああ、銃弾の補填だけが面倒だがよ。何とかなるな。
 実戦に使うよりも、何かの作戦の時に必要になるかもしれねぇ」
ジョーはくるくるとエアガンを回転させて腰に戻した。
「パトロールまで後45分だ。全員、昼食を摂っておこう」
健がそう言うのを潮に、全員が訓練室を出て、バードスタイルを解いた。
「展望レストランに行こう」
健がイニシアチブを取るのは、リーダーだから当然の事だが、彼に食事をする金があるのだろうか、 と他の4人は同じ事を考えた。
「健、また誰かに借りるつもりか?」
ジョーが訊いた。
「いや、バイト代が入ったんだ」
「じゃあ、ツケを返してくれるね!」
甚平が弾む声で言った。
健はしまった!と言う顔をした。
「ツケを払ったら、今日の食事代は出せない……」
ジョーはその言葉に呆れた。
これが俺達のリーダーか…?
「おめぇ、任務以外では本当に情けねぇな」
容赦のない言葉を浴びせておいて、彼は先頭を切って展望レストランへと向かった。




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