『トップ2会談』

夜の9時を回った頃、トレーラーハウスを訪ねて来たのは健だった。
「折り入って話があるんだが…」
中に招き入れると、早々に健が切り出した。
「何だよ?まさかコレを貸せとか言うんじゃねぇよな?」
ジョーは指で丸を作って見せた。
「いや…。博士の警護の事なんだが。みんながお前に負担が掛かり過ぎていると心配してるんだ」
「へぇ〜…」
ジョーは冷蔵庫からミルクを取り出し乍ら相槌を打つ。
「カフェインを摂ると眠れなくなるだろ?ホットミルクでいいか?」
そう言ってミルクポットを火に掛けた。
「ああ、済まないな…」
健は勧められるまでもなく、当たり前のようにジョーのベッドの片隅に座った。
いつもの事である。
しかし、彼は少し違和感を感じた。
ベッドが生暖かい。
ジョーはこんな時間から横たわっていたと言うのだろうか?
「お前、疲れが溜まってるんじゃないのか?」
「な〜に、そんな事はねぇよ。ぼんやりとゴロゴロしていただけだぜ。
 博士の移動はどうしても車が多いから、俺の出番になるのは当然の事だろ?
 おめぇ達には出る幕はねぇって事よ」
「だが、車ぐらいなら俺や竜にだって…」
「普通の『運転』ならお前達に任せてもいいが、何があるか解らねぇからな。
 健や竜ではギャラクターや訳の解らない連中から襲撃された時の対応に困るだろ?」
健はその言葉に黙って腕を組んだ。
「空の上や海上の移動や、電車移動ならお前や竜、それにジュンや甚平に護衛して貰うさ。
 俺の事を気遣う事なんかねぇぜ」
ミルクが程好く温まった処で、ジョーは固まってしまわない内に火を消して、ミルクポットを鍋敷き代わりにしているカー雑誌の上に置いた。
マグカップを2つ出し、それに注ぐと良い香りが漂った。
「今日、俺が『スナックジュン』に顔を出さなかったんで、心配して来たって訳か?」
「まあ、そんな処だ。ジュンがお前が疲れてるんじゃないか、って言ってな。
 女の身で1人で此処に来るのはマズイだろうし、店もあるし、って事で俺が『派遣』されたのさ」
「やれやれ、健もご苦労なこった。俺の事なら心配すんな、って言っとけよ。
 そんなにやわだったら、科学忍者隊の任務が務まる筈が無かろうよ……」
ジョーがニヒルに笑った。
「それもそうだな…。任務や訓練の時にあれだけ動けてるんだ。俺達の杞憂だったか」
健がミルクを1口飲んで溜息をついた。
「だが、疲れている時は俺達に言えよ。何かの助けにはなる」
「解ってるって。おめぇ達が有能だって事は一番良く知っているつもりさ。
 何も俺1人で全てを抱え込もうってんじゃねぇから、心配するな」
実際、ジョーは自分だけでは手に負えそうもない時には健達を呼び出したりもしている。
「ただな…。前にも言ったかもしれねぇが、俺は子供の時に南部博士に生命を助けて貰っている。
 だからその事を恩義に感じているのは事実だ。
 俺が進んで博士の護衛に就くのには、その事も関係しているのは自分でも否定出来ねぇ…」
「博士に恩義を感じているのは俺も同じさ。親父が行方不明になったのは4歳の時だ…。
 俺には11になるまでお袋がいたから、ずっと博士の所に居た訳ではないけどな」
「4歳の時、初めて逢ったおめぇは可愛い坊やだったが、相当やんちゃで困ったそうだぜ」
ジョーが呟いた。
「おいおい、博士がそんな事までお前に言ったのか?」
「まあ、それは俺の特権だろ?その位の事を聞いたからって、大した話じゃねぇしな。
 実際、お前は俺に比べたら品行方正で、俺は逆らってばかりいたんだからな」
健は危うくミルクを吹き出しそうになった。
「それじゃあ、今と全く変わってないって事じゃないか?」
「そうとも言うな…」
ジョーは狭いトレーラーハウスを見回した。
「だからこんな所で独立して生活し始めたって訳だ」
自嘲的な声で呟いた。
それに対して健が真剣な眼をしてジョーを見つめた。
「だが、そろそろ俺達は博士の近辺で寝食を共にする必要が出て来ているようにも思うんだ」
「最近は物騒になって来たし、確かに俺達が交替で博士の居場所に泊まり込む必要がありそうだな」
「意見が一致した処で、明日全員でそのシフトを組もうじゃないか」
健がミルクを飲み終わって立ち上がった。
彼の用件はこの話が本題だったのだろう。




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