『刑事事件(2)』

夜の間は敵がグランフィールド研究所を襲って来る事はない筈だ。
交替で仮眠を取った。
寝る場所などない。野宿だ。
健とジョーが防犯システムの外で待機していた。
「門に近づいただけでシステムが作動するし、赤外線防犯カメラにも姿が映るな」
「ああ。流石のギャラクターもこんな処を襲ったりはしねぇだろう」
「いや、大胆なギャラクターが敢えてこの時間を選ばずに、日中1人で押し入ると言うのも不思議だと思わないか?」
健が言った。
「そいつは俺もそう思わなくはねぇが、この作戦が極秘裡になされているとしたら、1人でやっている事にも納得出来るだろう。
 例えばカッツェを出し抜くつもりでやっているのだとしたら?」
「誰がそんな事をする?」
「ギャラクターには反対勢力もある筈だぜ。
 カッツェを憎んでいる科学者もいる筈だ」
「その科学者が1人でやっていると言うのか?」
「例えばの話だ。そう言う事も有り得ると思っただけさ」
健はジョーの言葉を聴いて、腕を組んで考え込んだ。
「確かにない線ではないな」
「そうだろ?カッツェの奴の事だ。
 内部で恨みを買っていても不思議じゃねぇ。
 勿論、カッツェの命令で密かに行動していると言う線も捨て切れねぇがな」
「その両面で考えよう。まだ絞り切るのは不可能だ」
「まあ、敵が来てみれば解るこった。作戦を聞き出し、基地に乗り込むまでだ」
「そうだな」
2人はひそひそと話を続けた。
やはり夜中の内に賊が現われる事はなかった。

朝になり、職員達が出勤して来た。
最初に出勤して来たのは、所長自らだった。
彼が防犯システムを解除しなければ、職員が入る事が出来ないからだ。
防犯システムを解除する事が出来るのは、彼と副所長だけだった。
いつもは副所長がするのだが、今日は休暇なのだ。
細菌の研究所は毎日変化を研究しなければならないので、土日に関係なく、シフト制で出勤するようになっていた。
門は一箇所しかなく、裏口などは存在しなかった。
職員がどんどん出勤して来る。
小さな研究所だから、10数人と言った処か。
「あれで全部か?博士に貰った内部の図面によると、研究室が一部屋と保管庫があるだけのシンプルな作りだ。
 これは襲われた全部の研究所に共通している。
 ISOの末端施設なんだ」
健が言った。
「此処で最近発見された細菌は、『シルバーエックス』と言うらしいぜ。
 顕微鏡で見ると、シルバーのXが無数に並んでいるように見えるんだとよ」
ジョーはそんな細菌があるのか、と驚いたような顔つきでそう言った。
「その細菌を奪って何を企んでいるんだろう?」
甚平が不思議そうに言った。
「大方、細菌兵器を作ろうとしているんだろうぜ。
 サイバーテロと言ってもいい」
ジョーは眉を顰めた。
「そんな恐ろしい事をするなんて…」
「しかし、ギャラクターも次から次へといろんな事を考えるのう」
ジュンと竜も言った。
「いつ来るか解らん。みんな気を抜くな」
「ラジャー」
健の指示に全員が答えた。
敵は今日来るとは限らなかった。
1ヶ月半程前から6件の事件があった。
それぐらいの頻度なのだ。
マカランが拘束されたのは、昨日の事だ。
6件目の事件が昨日起こったばかりで、昨日の今日と行くとは限らない。
他の事件は1つとして、2日続けて起きた事件はないのである。
しかし、何日続こうとも此処を張り込むしかなかった。
『シルバーエックス』と言う新種の細菌が発見された事が解っている以上、此処にだけ来ないと言う事は有り得なかった。

そうして、毎日張り込んで日々が過ぎて行った。
数日が経った。
科学忍者隊は、敵が建物に侵入する前に抑える必要があった。
でなければ、職員達に被害が出てしまう。
「正門から入るとは限らない。全員バラけるんだ」
健が言い、彼以外が別の場所に散った。
ジョーは建物の裏側に回った。
木の上に隠れて見張りを続ける。
高い鉄製の塀に閉ざされているが、賊はこれを簡単に乗り越えるのだろう。
やがて、黒尽くめの男がやって来た。
マスクをし、サングラスを掛けて、ニット帽を被り、顔と髪型を隠している。
如何にも怪しい風体だった。
ジョーは警戒する。
その男のこの場所の気候にはそぐわないショート丈のダウンジャケットの、ポケットが異常に膨らんでいた。
男は周辺を見回し、ポケットから黒く丸い物を2つ取り出した。
それは取っ手の付いた吸盤のようになっていた。
磁石だ!
ジョーはすぐに気づいた。
鉄製の塀をそれを使って乗り越えるのだ。
「健。裏側の塀から侵入しようとしている奴がいるぜ。
 敷地に侵入するまで待つか?」
『そうだな。敷地内に入った処で抑えよう』
「解った。俺に任せておけ」
ジョーはそのまま見守った。
丸い吸盤のような磁石を使いながら、賊は塀を器用に登って行く。
まるで忍者のようだ。
しかし、腕力があれば、誰にでも出来る事だった。
「ようし、侵入したぜ」
ジョーはブレスレットに言うが早いか、自分も軽々と塀を飛び越えた。
建物の裏で窓を破ろうとしていた賊を羽交い締めにする。
賊は何事が起こったのか解らないようだった。
その間に健達もこちらに回って来た。
「健。ポケットを攫ってみろ」
健がそのようにすると、硫酸が入った蓋付きの瓶が出て来た。
「決まりだな」
ジョーがニヤリと笑った。
「これがマカラン元少佐の無実の罪も晴れたって訳だ」
ジョーはそのまま男の前側に回り、襟首を掴み上げた。
「どう言うつもりだ?細菌を使ってどうするつもりだった?」
男は科学者風の余り屈強ではない人物だった。
ギャラクターが寄越すのなら、一般隊員かチーフ級の隊員を送り込むだろう。
やはり、カッツェの反対勢力か?
「おめぇは戦闘員じゃねぇな。カッツェにでも逆らうつもりだったか?」
「違う。対抗しようと思ったのだ」
「じゃあ、やはりカッツェの反対勢力だな。
 しかし、おめぇ1人で孤軍奮闘するとは、仲間は1人も集められなかったのか?」
「仲間など必要ない。私がギャラクターで一番優れた科学者だと証明出来れば良かっただけだ」
「ふん。その為に研究員に硫酸を掛けて、細菌を奪ったのか?
 奪った細菌はどこにやった?何に使うつもりだった?」
ジョーは首を締め上げた。
「言う…。言うから離してくれ……」
科学者は意外に従順だった。
暴力的な事には慣れていないのだ。
だから硫酸を使って研究者を脅した。
ジョーは手を緩めた。
逃げる事はないだろう。
男ははぁはぁと荒い呼吸を繰り返してから言った。
「細菌兵器をメカ鉄獣に埋め込む作戦だった。
 これを開発すれば、私はギャラクターの科学者としてトップに躍り出る事が出来、首領にもなる事が出来た筈だ」
「カッツェに取って変わろうとしたって事か?」
「そうだ。私にはそれが出来た」
「基地はどこだ?」
ジョーは基地の位置を聞き出してから、軽く鳩尾にパンチを入れた。
男は伸びた。
「健。早い処、国際警察に引き渡そうぜ」
「ああ。南部博士に連絡済みだ。すぐに来るだろう。
 引き渡したら、基地に行くぞ。
 この男が1人で企んだ事なら、まだ細菌は悪用されていないと思うがな」
ジョーは健の言葉を聴きながら、男の内ポケットを探った。
IDカードがあった。
「KENICHIRO,OHKOSHI。大越ってぇのがこいつの名前か…」
ジョーは吐き捨てるように呟いた。




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