『刑事事件(3)』

南部博士からマカランが無事に釈放されたと言う報せが入った。
科学忍者隊はホッとしていた。
これから『大越』が吐いた基地へと潜入する処だ。
基地はとある山脈の地下にあった。
隊員達が出入りするその場を逃さず、5人は敵を倒しながら、潜入して行った。
山肌の中は鉄筋コンクリートになっていた。
どうやら科学者用の研究棟が並んでいた。
ジョーは1人の隊員を捕まえて、「大越の研究室は何処だ?」と訊いた。
締め上げると場所を吐いた。
ジョーはその男に手刀を与えておき、指し示された方向に向かった。
健達も続く。
バーンと銃口を尖兵に扉を開けると、そこには誰もいなかった。
「ジョー!」
健が顎で示す方向を見ると、奪われた細菌の瓶詰めが6つ、棚に並んでいた。
「間違いねぇな」
化学式を示す文字が黒板にびっしりと書かれている。
これらの細菌を元に細菌兵器を作り出そうとしていたのだと言う事が解る。
「貴重な細菌だ。博士からは持って帰るようにとの指示が出ている。
 竜、頼めるか?」
「また、おらかえ?」
竜は一旦不服を申し立てたが、黙ってその細菌の瓶を集めた。
それを部屋にあった砂袋に入れて、腰に下げた。
恐らくはこの袋は『大越』が細菌を奪った時に使った袋だ。
竜はそのままゴッドフェニックスまで退避する事になった。
「メカ鉄獣が現われる可能性もある。そのまま待機していてくれ」
「ラジャー」
健の指示に従って、竜は脱出した。
ゴッドフェニックスまでの距離はそれ程でもなかった。
「この部屋は万が一の為にも爆破しておいた方がいいな。
 この化学式を見たらカッツェが悪用するかもしれない」
健が言った。
「ちょっと待て。博士の後学の為に、写真でも撮っておいたらどうだ?」
ジョーが提案した。
「おいらに任せといて」
甚平が小型カメラを持っていた。
黒板にびっしりと書かれた文字は、裏側にもあった。
それを全てフィルムに収めた。
「よし。ジュン、爆破するんだ」
「OK」
「他の科学者もいるだろう。この部屋だけを爆破する程度にな」
「心配しないで」
ジュンは火薬の量を調節して、上手くこの部屋だけが爆発するように設定した。
「1分後に爆発するわよ」
その言葉に全員がこの部屋から退避した。
ドカーン!と軽めの音がして、大越の研究室だけが粉々になった。
何事かと他の研究室から科学者が覗く。
「科学忍者隊だ!」
大騒ぎになった。
戦闘員達もわらわらと現われて来た。
研究棟を出て、広場のような場所に彼らは群がった。
科学忍者隊4人はそれぞれが距離を取って、彼らと闘い始めた。
ジョーは左足を軸にして、バレエダンサーのようにぐるりと勢い良く回転する。
脚力が強い。
右足1本で敵を1度に薙ぎ倒した。
敵が折り重なるようにして倒れて行く。
羽根手裏剣で敵の腕や手の甲を撃って行く。
狙いは外さない。
いつでも正確だった。
敵はマシンガンを取り落として、痛みにのたうち回っている。
落とされたマシンガンが勝手に咆哮する。
また混乱が起こる。
いつもの事なので、ジョーは何一つ気には止めなかった。
次の標的を狙うのみだ。
腰からエアガンを取り出した。
遠くからマシンガンで自分を狙っている敵に向かって発砲する。
狙い違わず心臓に当たり、敵はリノリウムの床に倒れ込む。
そのままエアガンを別の敵に向け、ジョーは三日月型キットを繰り出した。
綺麗に並んでマシンガンを抱えた敵の顎を打ち砕いて行く。
悲鳴が上がった。
次の瞬間には、ジョーは別手の敵に喰らいつき、膝蹴りを与えていた。
そして、その後方にいた敵兵に華麗な回し蹴りを披露した。
それで何人かが巻き込まれて倒れて行った。
ジョーの動きは本人はそう思っていないだろうが、華麗で無駄が全くなかった。
彼が動けば、誰かが倒れる。
この数式は変わらないらしい。
いつでも安定感のある闘いを見せてくれた。
だからいつも全体を俯瞰している健も、ジョーについては安心していたようだ。
共に闘う時も安心してその背中を任せてくれる。
2人は対立する事もあったが、お互いに相手の力は認め合っていた。
健もブーメランで、その肉体で闘っている。
彼もまた無駄な動きがなく、スッキリと計算された動きをしている。
ジョーはそれを見てニヤリと笑いながら、また回し蹴りをした。
敵兵が面白いように薙ぎ倒されて行く。
ジョーの膂力は健よりも勝っていた。
体格はジョーが5cm背が高いだけで殆ど変わらないのだが、力はジョーの方があった。
『イブクロン』の中で竜を助けた時の事を思い起こせば、その事はすぐに解る。
ジョーは敵の鳩尾に重いパンチを浴びせ、倒した。
広場を見ると大方の敵は倒されている。
残りは僅かだ。
加勢が来る様子は今の処、ない。
「健。この基地は科学者の研究用に建てられたようだな」
「ああ。どうやらそのようだ。しかし、もっと奥まで探ってみる必要はあるぞ」
「メカ鉄獣が建設されている可能性はあるからな」
2人の意見は一致していた。
この奥に行く為の通路もある。
そこを進む事になった。

ゴッドフェニックスに戻った竜を除く4人は、その通路をひた走った。
ジョーが「停まれ!」と言った。
全員が足を停める。
「耳を澄ませてみろ」
ジョーは何かの音を聞き取ったのだ。
「工場だ。工場がある。メカ鉄獣を建造しているのかもしれねぇ」
「うん。何かを造っている音だ」
健も頷いた。
「もしかしたら、『大越』の細菌兵器を積み込む為のメカ鉄獣かもしれねぇぜ」
ジョーが言った。
「その可能性はあるわね」
ジュンも賛同した。
「一体どこから聴こえて来るんだろう?」
甚平が更に耳を澄ませ集中した。
ジョーは床に耳を付けた。
実際にはヘルメットを通してだが、その方が音は伝わりやすかった。
「……地下だな」
ジョーはぼそりと呟いた。
「よし、地下へ降りよう。どこかに階段がある筈だ。探すんだ」
「ラジャー」
健の指示に全員が答え、手分けをして下に降りる階段を探し始めた。
ジョーは通路に異常を感じていた。
取っ手が付いた蓋がある。
そっとそれを引っ張ってみた。
鍵が着いている。
ジョーはそれをエアガンで撃った。
鍵が壊れた。
大きな蓋を開けてみると、そこから下への階段が繋がっていた。
下を覗くと、間違いなく大きなメカ鉄獣が造られている処だった。
「健!此処だ!」
ジョーの声に全員が揃った。




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