『刑事事件(4)』

ジョーが見つけた床の扉からは直接階段が取り付けられていた。
健を先頭に降りて行く。
ジョー、ジュン、甚平と3人が続いた。
中ではまだメカ鉄獣の建造が行なわれている最中だった。
激しい音が響いていて、科学忍者隊の侵入に気づいた者はいない。
顔に片手で防御マスクを当て、火花を散らして一心不乱にメカ鉄獣を造っている。
鬼型のメカ鉄獣だ。
口に特徴があり、鬼のように大きな口を持っていた。
そこから細菌兵器を吐き出すのだろう。
まだそこに組み込まれるべき細菌は、揃っていなかったし、先程竜が全てを持ち帰った。
大越が国際警察に逮捕され、身柄を拘束されている事など知る由もない。
此処にいるギャラクターの隊員達は、此処で科学者が生み出すメカ鉄獣を実体化するのが仕事のようだ。
大越は設計図を完成させていたのだろう。
ベルク・カッツェを出し抜く為に、このメカ鉄獣で成功を収め、総裁Xに取り入るつもりだったのだ。
自分が次期首領になる事を目論んでいた。
恐ろしい科学者だ。
その能力の使い道を間違えている。
ジョーはそう思った。
正しい道に使ってこそ、科学者の能力は生きるのに……。
南部博士を見ているから良く解る。
大越はギャラクターに取り込まれた時点でその道を誤ったのだ。
階段を降りると、流石にギャラクターの隊員達も気付いて色めき立った。
「科学忍者隊だぞっ!」
道具を放り投げて、それをマシンガンに持ち替える。
ギャラクターの隊員達は何でもありなのだ。
そうでなくては務まらない。
「ジュンと甚平はこいつを爆破させる手筈をしてくれ。
 此処は俺とジョーが!」
「ラジャー」
ジュンと甚平が散った。
健とジョーは背中合わせになった。
「よし、行くぜ、ジョー!」
「おうっ!」
2人はパッと散ると、華々しく闘い始めた。
ジョーは羽根手裏剣を挨拶代わりに放った。
ピシュシュシュっと小気味の良い音を立て、敵の手の甲に命中して行く。
マシンガンが取り落とされた。
暴発した弾丸に当たって倒れる者も続出した。
ジョーはそれを気にせずにジャンプして、敵兵に膝蹴りを喰らわす。
見事に決まった。
敵はどうっと音を立てて、床に倒れ込んだ。
ジョーはそのまま綺麗に着地し、半回転して、右足で蹴りをお見舞いする。
3人の敵兵が1度に倒れた。
彼の脚力は大したものだった。
腰からエアガンを取り出すと、シューティングして行く。
面白いように敵が倒れて行く。
ジョーの射撃の腕は馬鹿には出来ない。
誰よりも正確に狙いを定め、それを逃さない。
弾道を読む力に優れているのだろう。
それは羽根手裏剣を取り扱うのに際しても同じ事が言える。
特別な才能があるとしか思えなかった。
その才能は天性のものであり、努力の賜物でもある。
天性の才能を、自身の努力で更に開花させたのだ。
ジョーはエアガンの三日月型キットを繰り出し、敵兵の首筋にヒットさせた。
そのままずるずると壁際に押し込まれた敵兵は、「ぐうっ」と唸って、壁にしな垂れ込んだ。
ジョーはじっとなどしていない。
次の瞬間には、敵兵の上空にいた。
頭に手刀を与える。
悲鳴を上げる間もなく、敵兵は崩れ落ちた。
『健、ジョー。爆弾を仕掛けたわ。1分後に爆発するわよ』
「解った」
4人は敵兵をそこそこに退避を始めた。
細菌を持ち去り、このメカ鉄獣も破壊する事で、一応危機は乗り越えた筈だ。
後はこの基地を爆破すればいい。
しかし、残った科学者達をどうしたら良いのか、健達には判断が付かなかった。
「南部博士。科学者達は逃がすべきでしょうか?」
メカ鉄獣の爆破が成功した後、健がブレスレットで訊いた。
『うむ。優秀な頭脳だ。死なせるには惜しい』
「でも、ギャラクターに戻ったら、俺達にとって驚異になるかもしれません」
『それは解っている…。説得してギャラクターから離れる者が少しでもいると良いのだが……。
 諸君の説得では聞くまい』
「では、全員を捕らえて、博士の処に連れて行きましょうか?」
『そうしてくれるかね?』
「解りました。ただ、もう逃げた者もいるかもしれません」
『それは仕方があるまい』
そう言う遣り取りがあり、科学忍者隊はまずは研究棟へと戻った。
科学者達は1人残らず、逃げ去った後だった。
『大越』の研究室が爆破されたのだ。
危険を察知して、自分の研究を持ち去っていた。
「博士。研究者は全員逃げた後でした」
『うむ。そうか…。仕方がない。後は基地を破壊して脱出してくれたまえ』
「ラジャー」
こうして科学忍者隊は、司令室と動力室を破壊する為に、二手に別れた。
ジュンと甚平は動力室を探しに向かった。
「ジョー。此処の司令室に誰かいると思うか?」
「さあな。科学者の研究棟が主な使い道だったようだからな」
「だが、誰もいない事はあるまい」
「隊長さんぐれぇはいるんじゃねぇのか?」
「そうだな」
「カッツェは今頃、『大越』が反旗を翻して勝手な行動をした事に気付いて、さぞかし怒り狂っているだろうな。
 たまにはいい気味だぜ」
「ああ。内部にも敵がいると改めて知った事だろう」
2人は通路をひた走る。
ドアと言うドアを開けて行くが、隊員達の控え室しか見当たらない。
恐らくは司令室は一番奥にある。
今までの経験から行くとそうだったが、1つの部屋も見逃す事は出来ない。
何かあるかもしれないからだ。
「ジョー、あれじゃないか?」
T字路になっている突き当たりに大きなドアが見えた。
「どうやらそうらしいな…」
2人は走って行き、ドアに体当たりをする。
やはり簡単には突き破れない。
スイッチ類を探した。
手を翳す方式の自動ドアシステムがあった。
ジョーがいる側にあったので、彼が手を翳す。
すると扉が自動的に開いた。
「ジョー、行くぞ!」
健が飛び込んだ。
ジョーも遅れじと飛び込んだが、そこで、足を止めた。
大越のメカ鉄獣を小さくしたような人型ロボットが2体、そこに立っていたのだ。
身長は3m程か。
此処にこのメカがあると言う事は、隊長自ら大越の案を買っていた事になる。
(この隊長もカッツェに造反するつもりだったのか!)
とジョーは思った。
隊長は普通のチーフとそれ程変わらない姿だった。
顔にマスクを付けているだけだ。
そのマスクは鬼のようだった。
大越のメカ鉄獣も鬼を模していた。
コンセプトが揃っている。
「お前も大越研究員とグルだったのか?」
健が訊いた。
「その通りだ。ギャラクターにも反対勢力はある。
 だが、だからと言ってお前達に協力するつもりはないぞ」
それは言われなくても解っている。
カッツェの反対勢力だからと言って、科学忍者隊にとっては、敵に違いなかった。




inserted by FC2 system