『刑事事件(5)/終章』

ロボットは鬼のような角を2本ずつ持っていた。
「健。あの角はミサイルになっているぜ」
「ああ、それもかなり強力だ」
健も油断がならない、と言った風に答えた。
「使わせちまえばいいのさ。まさかまた生えて来たりはしまい」
ジョーは不敵に笑った。
「そうだといいがな」
健は危機感を隠せなかった。
「あのミサイルにやられたら一溜まりもないからな。
 充分気をつけろよ」
「解ってるって!」
ジョーはそう言うと、攻撃に出た。
敵の角に向かって、エアガンのワイヤーを伸ばして、それに絡めたのだ。
「どうだ?!ミサイルは使えねぇだろ?」
しかし、ロボットは頭を下げた。
「ジョー!危ないっ!」
健の声が飛んだが、ジョーは計算済みの事だった。
敵のロボットは彼がワイヤーで絡めた反対側の角をミサイルとして使ったのだ。
ジョーはエアガンを手から離して、飛び退いた。
エアガンでそれまで固定されていた分、敵は狙いを定めにくかったので、ミサイルは床に撃ち込まれた。
「これで1本は使わせたぞ」
ジョーはエアガンを取り戻し、バーナーのキットに切り替えた。
敵の懐に入る。
そうすれば敵はミサイルでジョーを狙う事は出来ない。
そうしておいて、ミサイルをバーナーで焼いてしまおうと言う作戦だった。
それは功を奏した。
ジョーの考えは間違いではなかったのだ。
しかし、ロボットにギュッと抱き竦められた。
「ぐっ!」
ジョーは呻き声を上げた。
ロボットの腹部には、剣山のような刃が隠されていたのだ。
「健…。こいつの腹に注意しろ……」
ジョーは胸部を無数の刃で刺された。
その衝撃で血を喀いた。
「ジョー、しっかりしろ!」
「大丈夫さ……。やられはしたが、バードスーツが大分歯止めになってくれた……」
しかし、軽い怪我ではない。
ジョーは一旦よろりとしたが、体勢を取り直した。
羽根手裏剣を使って、ロボットの両眼を射った。
それは狙い違わずに見事に命中した。
ロボットは眼を失った。
そこでジョーはペンシル型爆弾を何本も投げつけた。
ロボットは間もなくして爆ぜた。
「やった、ぜ……」
ジョーは肩で息をしていた。
その間に健も敵の背中に踵から外した爆弾を取り付け、倒していた。
「ジョー、しっかりしろ!」
「大丈夫だ…。まだ、隊長がいるぜ……」
「隊長は俺に任せろ」
健が言った。
ジョーの胸の辺りからは出血が続いている。
時々血も喀いていた。
「何のこれしき。この程度で、引っ込んでいたんじゃ、男が、廃るぜ…」
「ジョー、意地を張るな」
「ふふふ。片方は手負いかい?元気な方から相手をしてやろうじゃないか。
 俺は意外にフェアなんだぞ」
隊長が言った。
「どうして、大越のやっている事を知った?」
ジョーが訊いた。
「休みの度に出て行くなんて事は、あいつにはなかったからな。
 急に出掛けるようになったんで、不審に思って部下に尾行させたって訳だ」
「それで、事件を知って……、カッツェを出し抜く為に利用しよう、とした、か……」
「その通り。隊長の間では彼の事を良く言わない奴らも居るんだ」
「なる程な…」
「ジョー、もう喋るな。傷に障る」
「大丈夫だって!こんな傷、大した事ぁねぇ!
 それで、大越を利用したが、奴が国際警察に、逮捕されたのは、知っているか?」
「何だと?」
「俺が、捕まえて、引き渡したから、間違いねぇ…」
「知らなかったようだな」
健が言った。
「後は最後の細菌を持ち込むのを待つばかりだったのだ。
 そうすれば細菌兵器は完成する筈だった……」
「残念、だったな…」
ジョーはそう言うと、羽根手裏剣を2枚飛ばした。
隊長の鬼の仮面を剥がそうとしたのだ。
上手く、行った。
普通の強面のおじさんが出て来た。
髭面だ。
頭は禿げているらしく、全部つるつるに剃ってあった。
ジョーは休む事なく、羽根手裏剣を男の眼に飛ばした。
「ううっ!」
羽根手裏剣で眼を潰された隊長はよろめいた。
「健。後は任せる…」
ジョーはそう言って、壁にしな垂れ掛かった。
もう、限界だったのだ。
「任せておけ!」
健は隊長に回し蹴りを喰らわせた。
眼が見えない相手だ。
気配を感じる事なく、どうっと倒れた。
しかし、打たれ強いのか起き上がって来た。
健の気配を探ろうとしている。
健は隊長の後方に音もなく回り、首筋に手刀を与えた。
眼が見えない相手に、余り酷い事をしたくはなかった。
健はフェアな人間なのである。
「ジョー、爆弾を仕掛けるぞ。待っていてくれ」
「ああ…。大丈夫だ……」
「あんまり大丈夫には見えないぞ。お前の爆弾も貸してくれ」
「ああ」
ジョーは苦労して踵から爆弾を取り出した。
傷に響いた。
だが、そう言った事は言わずに、健に爆弾を渡した。
健はそれを即座に中枢コンピューターに仕掛けた。
「よし、脱出するぞ。動力室もそろそろ爆破される頃だろう」
ジョーは健の言葉を合図に自力で立ち上がった。
「走れるか?」
「おう」
ジョーは胸部の出血を手で抑えながら走った。
こうして任務は終了した。

ジョーはISO付属病院に入院して、加療していた。
そこにレニック中佐が現われた。
「マカランが来たがったんだが、君の正体を告げる訳には行かなかったんでね」
「それは賢明です」
ジョーはベッドをリクライニングして、半身起き上がっていた。
「起き上がったりして大丈夫なのかね?」
「寝たきりでは鍛えられませんからね。身体が弱ってしまう」
「ふふふ、君らしいな。これはマカランからのケーキだ。
 皆で食べると良いだろう」
「それはどうも」
「厄介事を持ち込んで済まなかったな」
「でも、ギャラクターの野望をひとつ潰えさせる事が出来たんだ。
 気にしない事ですよ」
ジョーは笑って見せた。
「どうやら傷の経過は良好なようだね」
レニックは安心したような素振りを見せた。
「俺はそんなにやわじゃねぇんですよ」
「良く解ったよ」
レニックがニヤリと笑った。
「とにかく、今回の事には礼を言う。私は立場上動けなかったのだからな」
「部下思いなんですね」
ジョーの言葉にはレニックが照れた。
「じゃあ、失礼するよ」
レニックは早々に病室を辞してしまった。
「あの人も悪い人ではねぇんだよな……」
ジョーは1人、呟いていた。




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