『コインランドリー』

季節外れの台風が行き、台風一過の青空が広がっていた。
今日はコインランドリーに行こうと決めてあった。
トレーラーハウスに洗濯機はない。
いつも纏めてコインランドリーに持って行って洗濯をしていた。
ジョーは綺麗好きでマメに洗濯を行なっていた。
清潔感溢れる真っ白いタオルで身体を拭くのが好きだった。
コインランドリーで待つ間に読むカー雑誌を買い込んで、ジョーは出掛けた。
洗濯と乾燥に結構時間が掛かるのだ。
特に乾燥は、乾燥が終わった後のクールダウンも入れると、随分待たされる。
完全に乾くまでにも結構時間が掛かるし、雑誌1冊ぐらいはないと、退屈してしまう。
放っておいて街に出てもいいのだが、特にする事と言えば食料の買い出しぐらいしかない。
それも中途半端な時間だ。
だから、コインランドリー内で待つ事にしていた。
ユートランド市内で、大きなコインランドリーは2つあった。
待ち時間が少ないので、ジョーは大きなコインランドリーを利用した。
小さな処では、洗濯乾燥機が空いていない事もある。
いつも住まっている森から近い方に、ジョーは行った。
コインを入れ、まずは洗濯機に洗濯物を入れる。
待ち時間はすすぎを入れて、優に30分以上ある。
ジョーは隅っこのスペースに座り、雑誌を読み耽り始めた。
F1の特集が組まれている。
ジョーにはいつかF1に上がりたいと言う夢がある。
だから、これには眼を惹かれた。
誰もいないコインランドリーに洗濯機や乾燥機の音だけが響いている。
他の客は洗濯物を放置してどこかに行っているらしい。
こんなに早い時間に洗濯をしに来ている人間はそうはいない。
ジョーは朝食を食べてすぐにやって来たのだ。
勿論、後でサーキットに行く時間を作る為だ。
今日はパトロールもなく、休日となっていた。
溜まった洗濯物を片付け、サーキットで走るには丁度良い日だった。
昨日は台風の中、出動があり、大変だったのだ。
ギャラクターは台風などお構いなしにやって来る。
ゴッドフェニックスも台風に弄ばれながら、無事に火の鳥になり、敵を撃破する事が出来た。
ジョーはF1の記事に熱中した。
スポンサー企業の特集が組まれていた。
どんなチューンナップをしているのか、詳しい事までは書かれていないが、スタッフの苦労が書かれていた。
そう言った物には興味がある。
いつか自分が飛び込もうとしている世界だ。
勿論、F1に上がるにはまだ道が長い。
ストックカーレースに出ているようでは駄目だ。
レーシングカーでトップに出る事。
だから、黄色いレーシングカーも手に入れた。
これからはG−2号機だけではなく、レーシングカーでもレースに挑戦して行くつもりだ。
先の事を考えるとわくわくする。
ギャラクターを斃さなければ、その『先』はない事が解っていても、いつかはその日が来ると信じていた。
また、彼の力量ならそれが出来た。
自分自身でもそう思ったし、そう言ってくれる者もいた。
特集を読み終え、レーシングカーの性能などのページに入った時に、洗濯機が止まって、ピーっと音を鳴らした。
ジョーは雑誌を伏せて設えられている台に置き、洗濯物を今度は乾燥機に移動し始めた。
30分ぐらいはやらないと乾かない。
それは経験上解っている。
だから最初から30分で仕掛ける。
クールダウンの時間を含めて、まだ40分ぐらいは掛かるだろう。
ジョーは作業を終えると、また雑誌に戻った。
レーシングカーのカタログのようなページになっていて、その性能が細かく表示されていた。
興味がある。
レーシングカーを買ったばかりのジョーでも、新しい車が出ると気になるのだ。
眼をキラキラと輝かせて読み耽った。
「ジョー」
聴き慣れた声が彼に掛かった。
「何だ、健じゃないか」
「早いな〜」
「ああ、この後、サーキットに行くつもりだからな」
「なる程。俺はちょっと寝坊してしまった」
「別に休みの日ぐらい寝坊したっていいんじゃねぇのか?」
「まあ、そうなんだが」
健はそう言って、洗濯機の方にコインを入れた。
お金が余りないので、相当溜め込んでいるようだ。
洗濯物の数も最低限にしている様子だった。
「おめぇも苦労してるな」
ジョーは苦笑いした。
「洗濯しない訳には行かないしな。バイト代が入るとやっと洗濯が出来る」
「甚平にツケを支払えって言われるぜ」
「ああ、しょうがないな。少しは払えるだろう。
 またすぐにオケラに逆戻りだが……」
「もっとテストパイロットの仕事があればいいんだが、ギャラクターがこう出張って来るんじゃ、南部博士もそれどころじゃねぇな」
「そうなんだよ…。だから金が入らなくて困っているんだ」
「まあ、早くギャラクターを斃す事だな」
ジョーの方の乾燥機がピピっと鳴り、仕事を終えた事を報せた。
ジョーは蓋を開け、1枚1枚畳みながら、スポーツバッグに収納して行く。
「ちゃんと畳むんだ」
健の言葉にジョーはビックリした。
「おめぇは畳まねぇのか!?」
「そのままだ」
「そのままじゃ皺になるじゃねぇか?」
「皺は伸ばすけど……」
健は頭を掻いた。
「任務となるとしゃんとするんだがな…」
ジョーは呆れながら、洗濯物を畳み続けた。
そう言う処はきちんとしていた。
子供の頃からそうだった。
両親が不在がちだったので、料理だけではなく、家事もそこそこ仕込まれていた。
だから、当然の事のようにそれをしていた。
(洗濯物を畳まずにどうやってクローゼットや箪笥にしまうんだ!?)
ジョーはそう思いながら、片付けを終えた。
読んでいたカー雑誌も一緒にスポーツバッグの中に入れ込む。
「じゃあな。俺はもう行かなきゃならん」
「走るにはいい天気だな」
「台風でコースが荒れているかもしれねぇがな。
 そう言う日に走るのも乙なものだ」
「そう言うものかね?」
健は気のない返事を返した。
「じゃあな。行くぜ」
「ああ、楽しんで来るといい」
「勿論だ」
ジョーはスポーツバッグを持って、外に出た。
G−2号機のナビゲートシートにバッグを置き、スタートする。
ひと仕事を終えて、爽快な気分だった。
これから走れば、もっと爽快になれるのは解り切っていた。
今日は良い1日になるだろう。
ジョーはアクセルを踏み込んだ。




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