『狙われた高速道路(2)』

「使われた毒ガスは、VXガスだ。琥珀色をした油状の液体から揮発するものだ。
 致死量を超えて吸ってしまうと死に至る。
 甚平は早めに脱出出来たので、助かった。
 健、君の指示が良かったのだ」
南部博士がそう言った。
後悔し続けていた健には慰めになった。
「どうして毒ガスなんかがあの穴から出て来たのでしょうね?」
ジョーが訊ねた。
「ううむ。それはまだ解らない。あのトンネルの地下にどんな秘密があるかもだ」
「何か地下資源が眠っているのでは?」
ジョーは最初からそれを疑っていた。
「その可能性はあるが、まだそう言った情報は入っていない」
その時、アンダーソン長官から通信があった。
『南部博士。あのトンネルの地下にはとんでもない物が眠っていた。
 私達が気づかない物を、ギャラクターは知っていたのだ』
「一体何なのですか?」
『ウランだ。それも相当深い処に眠っている』
「だからあのメカ鉄獣は深く潜って行ったのですな。
 G−4号をVXガスで退散させておいて……」
『どうやらそう言う事らしい』
「解りました。後はこちらで対処します」
『頼んだぞ、南部博士』
アンダーソン長官の姿がスクリーンから消えた。
「国連軍に空から監視して貰っているが、メカ鉄獣は未だに外に出てはいない。
 地下からどこかに移動したのかもしれない。
 それは何故かと言えば、あの地域からある地域に向かって地震が頻発していると言う事だ」
「成る程。既に移動している可能性が高いですね」
健が言った。
「G−2号機で穴を追跡してみましょう。充分入れます」
ジョーはやる気満々だった。
「だが、VXガスはまだ残っている物と思われる。
 恐らくは追跡を予期して、ずっとVXガスを撒いて行ったに違いあるまい」
「危険だとしても、行かねぇ訳には行きません」
ジョーは喰い下がった。
「G−3号機でジュンと俺も行きます」
健の言葉には南部博士が敏感に反応した。
「それはジョー以上に許可出来ん。G−3号機では身体が剥き出しではないか」
「では、ジョー1人に行かせる事になるのですか?」
「私は行かせたくないのだが……」
「でも、誰かが行かなきゃならねぇ」
ジョーは言った。
「ジョー、ガスマスクを着けて、コックピットは絶対に開かない事だ。
 致死量を超える量を吸ったら、大変な事になる。
 機密性のあるG−2号機なら君を守ってくれる筈だが……」
「それなら問題はない筈です。敵の基地を発見しなければなりません。
 またウランを採りに来る可能性もありますし、放置しておく訳には行かないですよ。
 一般市民だって、いつまでも避難生活を強いられているのは、辛いでしょうし……」
「解った。ジョー、慎重にやってくれたまえ」
「ラジャー」
こうして、ジョーは単独でメカ鉄獣の軌跡を追う事となった。

甚平も復帰して、ゴッドフェニックスには5人が揃っていた。
「ジョーの兄貴。気を付けた方がいいよ。
 G−4号機よりは機密性が高そうだけどさ……」
「解ってらぁ。コックピットを開けなければ大丈夫な筈だ」
「ジョー、俺達も行ければいいんだが…」
「メカの性能の問題で無理だろう。ガスがなければ別の話だがな」
「基地に到着しても、G−2号機からは出るな。
 ガスが残っている可能性が高い。VXガスは揮発性は弱いそうだ」
「自分達の基地にまでガスは撒かねぇと思うがな。
 まあ、注意しておくぜ。じゃあ、俺は行くぜ」
ジョーはノーズコーンに格納されているG−2号機に移動した。
「竜、下ろしてくれ」
『ラジャー』
G−2号機はゴッドフェニックスから分離した。
早速件のトンネルに入る。
ドリルで空けたような巨大な穴が残っていた。
「成る程、先頭の部分がドリルになるんだな」
ジョーは躊躇わずに穴の中へとG−2号機を滑り込ませた。
殆ど垂直に下へと降りる穴が続いている。
確かにこう言った場所はG−4号機が適任だ。
しかし、ジョーは滑るように穴を下って行った。
スリル溢れるレースをしているようで、殆ど『落ちている』感覚だった。
それでも悪路走行性に優れているG−2号機だからこそ、墜落せずに済んでいるのだ。
ドリルで空けられた穴を走ると、ガタガタと機体が揺れた。
随分と長い間落ちていたが、やがて、道が緩やかに曲がった。
そして、水平になった。
その場所でウランの採掘が行なわれたのは、間違いのない事だった。
かなり地下に降りて来たので、G−2号機に乗っていても、暑い。
そんな中、流石に採掘作業だけはクレーン車を使ったらしい跡がある。
隊員達は暑くて堪らなかったに違いない。
広い範囲で採掘作業は行なわれたようだ。
隊員達はガスマスクを着け、防御服を着て作業を行なったのだろう。
さぞかし暑かった筈だ。
だとすれば、作業はこれで全て終わりだとは限らない。
あのメカ鉄獣にどの位の隊員達が乗り組んでいたのかは知らないが、交替で作業したとしても、全てのウランを運び出せたとは思えなかった。
「また来るな……」
ジョーはそう直感した。
それまでの事を健達や南部博士に通信する。
「これから軌跡を追って、基地まで行ってみます」
『くれぐれも気をつけるようにな』
南部博士の声が、心配げだった。
「ラジャー」
ジョーは答えると、アクセルを踏んだ。
琥珀色のVXガスが、進路となっているメカ鉄獣の軌跡に撒かれているのが解る。
(G−2号機は後で高圧洗浄して貰う必要がありそうだ…。
 特にタイヤは交換だな)
ジョーはそう思いながら、進み始めた。
相変わらず道はガタガタとしている。
ドリルで掘り進められた道なのだから、仕方がない。
G−2号機は問題なく、進んだ。
これぐらいの道は何て事はない。
もっと酷い道なき道を走った事もあるぐらいだ。
それも最大時速1000kmを出して……。
だからジョーの腕では、この位の道は大した物ではなかった。
変わり映えのない道を延々と進んだ。
軌跡は時折曲がったりしていた。
基地の位置への方向転換だろう。
ジョーはひたすら走り続けた。

その頃、健達は地震のデータを追って、ある地域にまで飛んでいた。
ジョーが追跡している地下通路と恐らくは合致している事だろう。
スクリーンにはジョーの移動する点滅が映っていた。
「やはりこっちに向かっているな」
健が言った。
「じゃあ、この辺りに基地があるのね」
ジュンがジョーの軌跡の点滅を見つめながら言った。
「多分な……。確定的な事はジョーが基地に到達してからだ」
ゴッドフェニックスは山脈の間の盆地に降りていた。
「また敵が出動する可能性もある。しっかりレーダーを見張っていてくれ」
「ラジャー」
ジュンと甚平が同時に答えた。
「こちらG−1号。ジョー、応答してくれ」
『こちらG−2号、どうぞ』
「ジョー。地震のデータを追って、俺達はある地点に到達している。
 今の処、お前はこちらに向かって移動しているようだ」
『成る程な。そう言う追い掛け方もあったって事か……』
「だが、基地の場所までは解らない。ジョー、頼んだぞ」
『任せておけ』
ジョーは自信たっぷりに答えた。




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