『狙われた高速道路(5)/終章』

ゴッドフェニックスは上昇して身構えた。
メカ鉄獣を良く見ると、基本は電車系だ。
ただ、蛇のようにくねくねとうねる事が可能なので、蛇にも見えていたのだろう。
連結した各車両が、それぞれうねっている。
ジョーの最初の印象は『電車』だったが、外れではなかったのだ。
「バードミサイルで全車両を攻撃してやる」
ジョーは勇躍赤いボタンの前に立ったが、健に止められた。
「待て。まずは敵の出方を見よう」
「何だって?早くしねぇと、VXガスの餌食になるぜ」
「それにしたって、敵のいる位置が低過ぎる。
 このままじゃ山脈毎傷つける事になるぞ」
健は自然破壊を気にしていたのだった。
「解ったよ。竜、奴を上に誘い出せ」
「ラジャー」
竜は低空飛行して、敵の前にゴッドフェニックスの姿を現わした。
そうして誘うように上空へと上がった。
「まさか敵は飛べないんじゃないだろうねぇ?」
甚平が呟いた。
すると、電車の頭の部分が龍のように持ち上がった。
「へへっ、飛べるようだぜ」
ジョーはニヤリと笑った。
そう、メカ鉄獣は空高く舞い上がったのだ。
中では電車の運転士のような隊長が指揮を採っていた。
「ゴッドフェニックスにVXガス攻撃をしてやれいっ!」
そう指示をしたのだ。
メカ鉄獣の尻尾と言うべき部分から液体が噴射された。
これがVXガスだ。
サリンガスのように液体なのだ。
「竜!」
健が叫んだ。
竜は見事な操縦でそれを躱した。
「あれに当たると、ゴッドフェニックスの中にも入り込んで来るぞ!
 火の鳥で行こう。あの尻尾から頭まで突き破るんだ」
健が言った。
「この山脈には人がいねぇ。バードミサイルでまずは尻尾の部分を撃っちまえばいいんじゃねぇのか?」
ジョーが喰い下がった。
「いや。VXガスが山脈に撒かれる事になる。
 人はいないが、何か生き物がいるかもしれないぞ」
健の言う事は尤もだった。
確かに生き物はいるかもしれない。
VXガスが飛散する事によって、山の生態系が変わってしまう可能性もある。
「それもそうだな。解ったぜ、健」
ジョーは納得した。
健と軋轢がある事もあったが、大概はこうしてどちらかが折れる。
それで今まで上手くやって来た。
目的は同じなのだ。
どちらがその目的に対して良い提案をしているか、それが重要なのであって、お互いに意地を張る必要はない。
その事はジョーも心得ている。
「よし、全員シートに着席しろ」
健が指示を出した。
「ああ、火の鳥かぁ〜」
甚平が溜息を吐いて、ジュンに窘められていた。
彼は特に火の鳥が負担に思うようだ。
身体が小さいせいもあるのかもしれない。
「甚平。メカ鉄獣との闘いが一瞬で終わるんだ。有難く思え」
メカ鉄獣の中に入って、闘いを繰り広げる場合もある。
今回はそれがないだけ有難いと思え、ジョーはそう言っているのである。
「科学忍法〜」
健が号令を掛けようとした瞬間、またVXガスが襲って来た。
竜が華麗な操縦でそれを避けた。
「竜、頭側に回れっ!」
ジョーが叫んだ。
尻尾側ではなく、頭から行けば良いのだ。
頭の方からはミサイルが出るだけだ。
それを躱しながら火の鳥になればいい。
ゴッドフェニックスは反転して、長い車両の反対側に滑り込んだ。
「今だ!科学忍法火の鳥!」
機内温度が急上昇し始めた。
全員が歯を喰い縛ってそれに耐える。
一体感のある攻撃法だと言えた。
火の鳥は敵のメカ鉄獣の頭から尻尾までを火の中に飲み込んだ。
VXガスもまた飲み込まれた。
機内には衝撃が走っている。
全員が焦げそうな熱さと闘っていた。
バードスーツがある程度は保護をしてくれたが、それでも、苦しい事には変わりなかった。
ジョーは一瞬で終わると言ったが、それは例えだ。
今回の火の鳥は長く感じた。
敵のメカ鉄獣は10両編成だったが、普通の電車よりも巨大だった。
高速道路の幅を全部喰ってしまう程の大きさがあったのだ。
そのせいだろうか?
火の鳥はなかなか解けなかった。
漸く解けた時には、全員が失神していた。
それ程までに激しい火の鳥だった。
ジョーはハッと眼を覚ました。
レーダーには何も映っていない。
それでも、スクリーンの処まで走る。
メカ鉄獣の姿は見当たらなかった。
「やったのか?!」
その声で健が意識を取り戻した。
健もスクリーンを見ていた。
「どうやら辛うじてやったらしいな……」
「随分時間が掛かったな」
「VXガスを焼くのに手間取ったのかもしれないな」
「その可能性はねぇとは言えねぇな…」
他のメンバーも順に意識を取り戻した。
「おっと!」
竜が操縦桿を引いた。
「やったな、みんな!」
健が言った。
「ああ、基地も破壊出来たし、メカ鉄獣もやっつけた」
ジョーが言った時、上部のスクリーンに南部博士の姿が現われた。
『諸君、良くやってくれた。メカ鉄獣は消滅した』
「火の鳥でも手古摺りましたが、何とか倒す事が出来たようです」
メインスクリーンには、地上が映っていた。
バラバラになった『電車』の破片が落ちていた。
火の鳥に部品を焼かれて、チラチラと燃える炎も見える。
改めて自分達はやったのだ、と言う意識が芽生えた。
苦しい火の鳥だった。
それを全員で乗り越えたからこそ、メカ鉄獣は破壊されたのだ。
達成感と、少しの疲労感があった。
「さあ、諸君。基地へ帰還したまえ」
「ラジャー」
全員が声を合わせた。
ホッとした空気がゴッドフェニックス内を支配した。
こうして、また1つのギャラクターの野望を打ち砕いた。
その充実感は、科学忍者隊1人1人の、またの機会に備えようと言うエネルギーになるのだ。
「おら、腹減ったわ」
「おいらも!」
「そう言えば、俺も……」
珍しく健までがそう言った。
残されたジョーとジュンはそれを聴いて笑った。
平和を守り切った後のコックピットには、平和な空気が流れていた。




inserted by FC2 system