『雨の雫』

「雨か……」
トレーラーハウスで目覚めたジョーは、屋根を叩く雨音に気づいた。
雨の雫が窓にも流れている。
それ程酷い雨ではなく、しとしとと降っている感じがした。
水音が音楽を奏でるかのようにピチャっと跳ねる。
ジョーはサーっと言う雨音を静かに聴いていた。
雨は余り好きではない。
サーキットに行く事も出来ないし、買物に行くのも不便だ。
「今日は籠城を決め込むか…」
彼はそう呟いた。
まずはベッドから降りて、朝食の準備に掛かる事にした。
その前にトレーラーハウスの扉を開けてみる。
森の緑が生き生きとしていた。
葉っぱに雨水が溜まって、ポタリと落ちる。
その水音は雨音に隠れて聴こえないが、ジョーには聴こえたような気がした。
緑の匂いがより一層深まって、ジョーの鼻腔を刺激する。
森にとっては、まさしく恵みの雨だ。
雨が降らなければ、森は枯れて行ってしまう。
ジョーはそれを実感した。
今、乾いた土が雨を吸収して行くのと同じように、森は雨の雫を欲しがっているのだ、と思った。
自分が嫌いだろうが何だろうが、雨は森にとっては必要なものだ。
ジョーはそれを実感しながら、湿気が入って来るのも厭わずに、扉を開けっ放しにした。
ベッドから外が見える。
雨が吹き込まない限り、1日そうしていようと思ったのだ。
朝食はパンとミルクで摂った。
パンには薄く切ったハムを挟んだ。
それだけで充分だった。
食器を片付け終わると、ジョーはベッドに横たわった。
少し食休みをしたら、腹筋運動でもしようと思っている。
こう言った日にはそうして過ごすより他ない。
このベッドはトレーラーハウスに元々設えられている物だが、とても頑丈に出来ていた。
腹筋をした位ではびくともしない。
ジョーは寝心地が良い事もそうだが、その事の方が気に入っていた。
腹筋運動も腕立て伏せも、このベッドの上で出来てしまうのだ。
こう言った外に出ない日は、そうやって身体を鍛えていた。
一通りの運動が終わると、外を眺めた。
森が深呼吸しているような気がした。
「恵みの雨か……」
思わず呟いていた。
森が生き返って行くような、そんな感じがした。
緑が雨の雫を吸って生き生きと輝いているような気がする。
時には雨も必要なのだ。
ジョーは森の様子を観察していた。
木々がさわさわと動きながら、雨のシャワーを嬉々として浴びているようだ。
森だって生物なのだ。
ジョーはそれを眺めながら、腹筋運動と腕立て伏せをもう1セット行ない、背筋運動も加えた。
そう言った事に没頭している内に、昼が来た。
まだ空腹感はないので、オレンジを絞ってジュースにし、バナナを1本食べて、それで終わりにした。
室内でかなりの運動をこなしていたが、ギャラクターと闘う事を考えたら比ではない。
空腹感がないのもそのせいだろう。
トレーラーハウスに篭もりっきりでいるのだから。
ジョーはそう思って、またコップを片付けた。
ベッドに戻って、外を見る。
雨は上がりつつあるようだ。
まだパラパラと降ってはいるが、少し日差しが差して来た。
雨の雫は葉っぱの上を元気良く跳ねなくなって来たようだ。
元々しとしととした雨だったが、もう勢いが無くなっている。
湿気が大分入って来ていたので、晴れ上がるまでこのままドアを開けておこうと思った。
やがて雨は止み、キラキラとして雨上がりの太陽が燦々と注いで来た。
森の木々は元気にその太陽を見上げている。
日差しはどんどん強くなり、その内、土までも乾かしてしまいそうだった。
ジョーはベッドから起き出した。
「サーキットにでも行くか!」
そう決めたら行動は早かった。
G−2号機とトレーラーハウスの接続を切り離して、ジョーは乗り込んだ。
サーキットの方も雨が止んだとは限らなかったが、行ってみようと思った。
朝は、トレーラーハウスで籠城を決め込もうと思ったものだが、雨が止めばやはり行きたくなるのは人情だ。
ジョーは颯爽とサーキットに向かった。
サーキットに着くと、まだしとしとと雨が降り続けていた。
地域差があるので、仕方がない。
しかし、このまま走る分には身体が濡れる事はないので、ジョーはそのままコースに入った。
コースはすっかり雨で満たされている。
スリップには気をつけなければならなかった。
先客も何台かいたし、それらの動向にも気をつけながら、ジョーは走った。
雨の中でも『走る』と言う行為は爽快その物だった。
G−2号機のフロントガラスを雨の雫が流れて行く。
高速で走っているから、横に流れたり不規則になっている。
ワイパーでそれを消しながら、ジョーは走る。
雨の雫がどんどん落ちて来て、フロントガラスに模様を作って行く。
それに気を取られていては危険運転になるので、ジョーには囚われている暇はなかった。
コースを30周して、外の溜まりに出た。
その頃になって漸くこちらも雨が止みそうな気配になって来た。
今日は雨に追い掛けられたような気がする。
しかし、走ってしまえば、そんな事も気にはならない。
「さて、帰るか…」
トレーラーハウスに直行しようか、『スナックジュン』に行こうかと悩んだ。
結局帰る事にした。
戻ればパスタの材料もある。
たまには仲間と逢わない日があってもいいだろう。
良い仲間達だが、ジョーは少し距離を置く事もあった。
だが、人付き合いが悪い訳ではない。
仲間達とは普段でも共にいる事が多かった。
今日はトレーラーハウスに戻りたい気分だった。
あのキラキラとした森を夕陽が沈む前に見たい。
雨上がりの森は生き返ったように輝いている筈だ。
雨の雫が齎したちょっとした何気ない1日が過ぎて行った。




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