『襲撃』

ジョーは今日もサーキットで優勝を攫った。
賞金とトロフィー、花束を受け取って、取り巻きの女性連中を躱しながら、G−2号機でサーキットを飛び出した。
ジュンの店に花束を届けてやろうと道を選んだが、ふと、怪しいジープが何台も眼に入った。
(ギャラクターか……?)
ジョーの勘がそう告げていた。
(ギャラクターが何故俺を尾ける?)
ジョーは嫌な予感がした。
正体がバレた訳ではあるまい。
賞金を奪う為でもない。
だとすれば、ジョーの腕を見込んで何かやらせようと言うのだろう。
彼を誘拐するつもりだ。
「おい、健!どうやらギャラクターは俺を誘拐するつもりらしいぜ」
先程まで応援席にいて、先に帰った健にジョーはブレスレットで通信した。
『何だって?正体がバレたのか!?』
「いや、違う。レーサーとしての俺を利用しようとしているに違いねぇ」
『解った。すぐに応援に行く』
「ああ、頼んだぜ。ちょっと人数が多過ぎる」
ジョーが珍しく健に応援を頼んだのは、そう言った理由からだった。
彼は山道に入り込んだ。
ヘリコプターまでが彼の眼前に現われた。
「全く大掛かりだな」
ヘリコプターには、狙撃手が乗っている。
ジョーを撃つつもりはない筈だ。
G−2号機のタイヤをパンクさせようとしているのだ。
「残念だが、このタイヤはパンクしねぇぜ」
ジョーはそう言ってステアリングを切った。
銃弾がキュンキュンと音を立てながら土に吸い込まれて行く。
間一髪で当たらせていない。
ジョーは羽根手裏剣を取り出し、ヘリの操縦士を狙った。
狙い違わず操縦士の右腕を射抜き、ヘリコプターはバランスを失って後方に去って行った。
後方の山に落ちたと見えて、地面を揺るがし、爆発音が炸裂した。
後はジープの連中だ。
これが人数が多い。
ジープは10台以上連なっている。
そこに4人ずつ乗っていた。
生身で闘うには、人数が多過ぎると踏んだのだ。
だから、健を応援に呼んだ。
ジョーはG−2号機を停め、徐ろにそこに降りた。
ジープは彼を遠巻きにするように、周りを囲んで停まった。
そこから隊員達が降りて来た。
じわじわと迫って来る。
ジョーの事をただのレーサーと思っているから、甘く見ている事だろう。
隊員達はニヤニヤ笑いながら、近づいて来る。
「俺みたいなレーサーにこんなに大勢で、一体何の用だ?」
ジョーは低い声で訊いた。
「その腕が欲しいんだそうだ。メカ鉄獣の操縦にな」
「メカ鉄獣?何だそりゃ?俺は車しか運転出来ねぇぜ」
「いや、レーサーなら出来るらしいぜ」
そう言った隊員はニヤリと笑って、ジョーの腹部に拳を繰り込もうとした。
しかし、ジョーはシュッと姿を消して、逆にその男の鳩尾に重いパンチを入れた。
男は身体をくの字に曲げて、崩れ落ちた。
「残念だが、俺は喧嘩っ早くってな。掛かって来やがれ!」
ジョーは挑発した。
身を沈めて、ジャンプをしたと思ったら、眼にも見えないスピードで、敵兵に蹴りを入れていた。
どうっと敵兵が倒れた。
「やっちまえ!」
敵兵のチーフ格の男が叫び、砂糖に集(たか)る蟻のようにギャラクターがジョーに押し寄せた。
その山からどんどん放り出されて行く、ギャラクターの隊員達。
ジョーは長い脚を回転させて、敵兵に重厚なキックを浴びせた。
そして、羽根手裏剣で敵の両手の甲を撃って行った。
ジーンズの隠しポケットからエアガンも取り出した。
三日月型キットを使って、敵の顎を打ち砕いて行く。
闘い方は、変身している時と変わらない。
防御力と飛翔能力が落ちているだけだ。
まさか変身する訳には行かないので、このまま闘うしかなかった。
そこに健がバイクで現われた。
バイクで敵兵を跳ねながら、G−2号機の横に停まった。
「健、手を掛けて済まねぇな」
「いや。でも、もう殆ど片付いているじゃないか?」
「ああ、何とかな……」
「ええいっ!引けっ!」
加勢が来たと見て、ギャラクターは去って行った。
「お前を利用しようとしていたって?」
「ああ。メカ鉄獣の操縦に必要だと言っていた。
 フォーミュラカー型のメカなのかもしれねぇな」
「ギャラクターも次から次へと……」
「本当だ」
「ジョー、また狙われるかもしれないぞ。気を付けた方がいい」
「解っている」
「出来たらサーキットには暫く近づかない方がいいな」
「仕方がねぇな」
「それから尾行に気をつけろ」
「まだ此処に仲間が残っているかもしれねぇな。
 今日はジュンの店に行くのは遠慮しておく。
 この花束を届けてくれねぇか?」
「それは構わないが、1人で大丈夫か?」
「また何かあったら連絡するさ」
「解った。無茶はするなよ」
そう言って、健は花束を持ってバイクに跨った。
「花が散らないといいんだが……。剥き出しだからな」
「仕方がねぇな」
ジョーは健に頷いて見せた。
「頼んだぜ」
「ああ。じゃあ、気を付けてな」
健は先に現場を去って行った。
ジョーもG−2号機に乗り込んだ。
ジュンの店に寄った後、南部博士の別荘にトロフィーを置きに行くつもりだったが、それは止めておく事にした。
トレーラーハウスに戻ろう。
ジョーは周囲に気を配った。
誰かの『気』を感じる事はなかった。
尾行して来るとしたら車か飛行物体しか有り得ない。
空を見渡したが、それらしき飛行物体はなかったし、見通しの良い山道では、車の姿ももう見当たらなかった。
多分また襲って来るとしたら、サーキットに違いない。
来るなら来い。
ジョーはそう思った。
また叩きのめしてやるのみだ。
ああ、次は捕まった振りをして、ギャラクターの基地へ潜入してやってもいいな。
ジョーはそんな事を考えながら、車をスタートさせた。




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