『王宮警護(1)』

『科学忍者隊の諸君。至急私の処へ集まってくれたまえ』
南部博士から指令が来たのは、もう夕刻に入り、食事を摂ってすぐの事だった。
「G−2号、ラジャー」
ジョーは片付けもそこそこにトレーラーハウスを飛び出した。
竜と連絡を取り、全員がゴッドフェニックスに合体してから基地へと向かった。
司令室に着くと、南部博士が浮かない顔で立っていた。
「どうしたんですか?博士?」
ジョーは訊いた。
博士は黙りこくって資料を捲っていた。
「至急の招集だったのでは?」
健も訊いた。
「そうなのだ。国際警察からの依頼なのだが……」
「国際警察が我々に何を?」
健はいつになく口が重い南部博士から根気良く話を聴き出そうとした。
「イタリス王国の王宮の警備だ」
「それはギャラクターと絡んでいるのですか?」
「解らん」
「ははあ、それで博士は浮かない顔をしているんですね?」
ジョーが言った。
「まあ、その通りだ。ギャラクターか解らない案件に、科学忍者隊を出動させて良いものなのか……」
「でも、国際警察は何と言って来ているんですか?」
「イタリス王国で、皇族の方々の暗殺未遂が続いている。
 ところが、とうとう死者が出たのだ。
 国際警察は勿論、警護をしていたし、王宮内には軍隊も入っていた」
「それなのに、王宮内で殺されたと?」
ジョーが片眉を吊り上げた。
「そうなのだ。だから、ギャラクターが絡んで何かを企んでいるのではないか、と言うのだ。
 王宮内には、沢山の金銀財宝が眠っていると言う噂だからね」
「でも、イタリス王国では、国民をかつてない飢饉が襲っているのでは?」
再びジョーが言った。
「その通りだ。王宮にそれだけの財宝があるのなら、国民に分け与えればいい。
 それをしないのは何故だ?私は腑に落ちない」
南部博士が浮かない顔をしていた理由が解った。
「ギャラクターが王宮内に入り込んで、既に皇族達を支配している可能性もありますね」
健が言った。
「確かにその可能性は否定は出来ない」
「殺されたのは誰です?」
「国民に財宝を分け与えようとした王子だよ」
南部博士は苦虫を噛み潰したような表情になった。
「ギャラクターが入り込んでいるとしたら、それは内部での犯行ですね。
 しかし、そうじゃないとしたら、俺達が行くのは内政干渉に当たる。
 だから南部博士は迷っている……」
ジョーが呟くように言った。
「まさにその通りだ。しかし、国際警察の藪原警視からの頼みだ。
 これは無視出来ないだろう」
「藪原警視?」
ジョーが訊き返した。
彼がそう言うのなら、ギャラクターが一枚噛んでいる可能性が高い。
「藪原警視は今、別の事件に当たっていて、手が出せないそうだ。
 しかし、部下の報告を聴いている限り、ギャラクターが絡んでいるとしか思えない、そう言っている」
「行きましょう。イタリス王国へ」
ジョーが言った。
「彼の観察眼は間違いありません。俺はそう確信しています」
「ジョーがそう言うなら、間違いないでしょう。一緒に行動した事がありますから」
健もそう言った。
南部博士はそれでも暫く逡巡していたが、
「……では、出動してくれたまえ。国際警察は王宮の中まで入れないそうだ。
 諸君は何とか夜半に潜り込んで、侍従にでも変装するのだ。
 それについては、イタリス王国の首相と話が着いている」
「解りました」
健が代表して答えた。

イタリス王国は今、夕刻だった。
「まずは俺とジョーとジュンで潜り込む。甚平と竜は待機していてくれ」
首相官邸の中に降りたゴッドフェニックスの中で健が言った。
2人共侍従として入り込むには、目立ち過ぎる体型だからだ。
甚平は小さいし、竜は太り気味だ。
バードスタイルのまま、3人は首相と会見した。
「南部博士から話は聴きました。侍従の衣装は用意してあります。
 何とか宜しくお願いします」
首相が健の手を取った。
「王国は危機に瀕しています。こうしている間にも、餓死している国民が出ているのです。
 王宮が財宝を放出してくれれば、国策として、国民を救う事が出来るのです。
 それを進めようとしていたビジュー王子が殺されてしまいました」
「解りました。我々がどこまでやれるかは解りませんが、ギャラクターが入り込んでいるのであれば、一掃して来ます」
健が答えた。
「頼みましたぞ」
「それでは」
3人は首相の前から掻き消えた。
首相がその素早さに驚いていた。
ゴッドフェニックスに再び全員が揃った。
「さて、どうやって潜り込むかな?」
健が言った。
「国際警察は今回は仲間だ。表から堂々と塀を乗り越えてやろうじゃねぇか」
ジョーは不敵に笑った。
「中には軍隊の護衛がいるわ」
ジュンが言った。
「軍隊には私達が行く事は伝わっていないんでしょ?」
「軍隊は上手く躱すしかないだろう。何としても建物内に侵入しないと」
健が腕を組んだ。
「出たとこ勝負だな」
ジョーが言った。
「誰かが王宮に出入りする時に、スっと入り込むしかねぇ。夜半に侵入して夜明けを待とう」
「それしかないな」
「これが王宮の上空からの空撮写真だ。南部博士が急遽用意してくれた」
「此処に林があるな。この中に潜んでいられねぇだろうか?」
「それしかあるまい。軍隊はそこにも巡回して来る事だろう。
 木の上に潜んでいるしかないな」
「そうと決まったら、夜更けを待って侵入しようぜ」
ジョーはやる気満々だった。
「ジョー、随分張り切っているな」
「国民に同情しているだけさ。早く王宮が施しをしねぇと、バタバタと死んで行くぜ」
「そうだな。ギャラクターが入り込んでいるとすれば、財宝を囲い込んでいるだろうからな」
「それを解放してやらねぇと大変な事になるぜ」
「本当だわ」
「おら達は此処で待機って、何をしたらいいんかいのう?」
「戦闘になったら連絡をする。その時、王宮の中に入って来てくれ」
「おいら達も出番はあるんだね?」
「勿論だ。科学忍者隊は5人なんだからな」
健が言った。
「とにかく何か食事を摂ろう。首相がディナーに招待してくれている」
「この格好じゃ窮屈だな」
甚平がぼやいた。
「おら、美味い飯にありつけるだけでも有難いわ」
「7時に、と言われているからそろそろ行こうか」
「ラジャー」
「甚平と竜は行儀に気をつけろよ」
ジョーが短く釘を刺した。




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