『王宮警護(2)』

国民が飢饉に襲われている状態なので、首相が招待してくれたディナーも質素な物だった。
「今の状態ではこれぐらいしかおもてなしが出来ません。
 心苦しいのですが、お許し下さい」
「いえ、危機に瀕している国民の方々に分けて上げたいぐらいです。
 我々はいざとなったら保存食を保管していますから。
 国民の皆さんに分ける程は持っていないのが残念です」
健はそう答えた。
ディナーの後、すぐに王宮に出発した。
王宮の外を警護しているのは国際警察だった。
藪原の部下が指揮を執っていた。
「この場所が一番国の軍隊の警護が薄い場所です」
示されたのは、幸いにして林がある区間だった。
「藪原が宜しくと申しております」
と彼は敬礼して言った。
「こちらからも宜しくお伝え下さい」
健がそう答え、「では」と言ってジョーとジュンと共に跳躍して軽々と塀を乗り越えた。
警報装置は鳴らなかった。
藪原の部下がスイッチを切っておいてくれたのだ。
「警護が薄いと言っても巡回がある筈だ。心して掛かれ」
健が含み声で言った。
「おう。解っているさ」
「私も覚悟を決めてるわ」
3人は手頃な木を探して、それぞれ散った。
木の上で夜明けを待つ事になる。
誰かが王宮に出入りする瞬間を狙うのだ。
早朝には御用達の業者が出入りするに違いない。
首相がそう言っていた。
その荷物の中に紛れ込んで、検閲の前に抜け出す作戦だった。
そして素顔に戻って侍従の制服を着る。
そう言った手筈を積んで中に潜入する。
ジュンの衣装はメイド服だった。
粗相をしないかジョーは心配したが、目的は内部を探る事だ。
気にする事もないだろう。
朝が来た。
王宮は皇族が起き出す遥か前から動き出している。
最初は健が行った。
変身を解いて荷車に乗り込んだのだ。
「ん?何だか重くなったような気がするが、私も疲れているのかのう?」
「そうだろう?もう爺さんだからな」
荷物は野菜だった。
こうしていろいろな食料品が朝早くに納入されるのだろう。
ジョーが入り込んだ荷車は肉だったし、ジュンが入り込んだのはフルーツだった。
(こんなにも沢山の食料を1日に使い切るって言うのか?
 随分贅沢だな……。ある処にはあるんじゃねぇか)
ジョーは怒りに震えた。
国民が飢饉で苦しんでいると言うのに、皇族達はこんなに贅沢な食事をしている。
金に物を言わせ、輸入品を使っているのだろう。
その資産を国民に分けようとしてビジュー王子は密かに暗殺された。
酷い話だ。
絶対にギャラクターが絡んでいるに決まっている。
それでなければイタリス王国は腐っている。
ジョーはそう思った。
ギャラクターが入り込んで、国王に成りすましている可能性は高かった。
多分ベルク・カッツェだろう。
奴なら変装はお手の物だ。
だとしたら、国王も殺されていて、地下室にでも隠されているかもしれない。
ビジュー王子は絶望した事だろう。
国民の危機に全く手を貸そうとしない父・国王に対して。
まさかギャラクターの首領と入れ替わっているとは気付かなかったに違いない。
だから、ゲリラ的に財宝を持ち出そうとして殺されたのだ。
それがジョーが考え出したストーリーだ。
十中八九間違っていない気がする。
侍従の制服は黒を基調とし、白いワイシャツがインナーとして使われていた。
そして黒い蝶ネクタイを着けた。
健もジョーも良く似合っている。
メイド服のジュンも違和感なく決まっていた。
「おう、見ない顔だな。新入りか?まだ若いじゃないか」
声が掛かって振り向くと、ちょっと品が悪い感じの侍従が立っていた。
ジョーはこれがギャラクターだと直感した。
侍従の中にまで入り込んでいやがったのか!?
ジョーは健とジュンにそっと目配せをした。
2人もジョーが考えている事を察したらしい。
「1ヶ月前に入ったばかりでまだ解らない事ばかりなので、宜しくお願いします」
健はそう言って頭を下げた。
ジョーとジュンもそうした。
「ほう、もう1ヶ月前からいたのか。気付かなかったな」
男はそう言い、離れて行った。
健達はホッとする。
侍従が全てギャラクターと言う訳ではなさそうだ。
殆どが普通の侍従だろう。
その中に数ヶ月前から入り込んだギャラクターの隊員が紛れ込んでいる。
史上稀なる飢饉が起こってもう2ヶ月になる。
国民の食糧はとうに尽きている。
国王に近づくのは難しそうだ。
今のように声を掛けられてしまうだろう。
とにかく見よう見まねで食卓の準備の手伝いをした。
これから豪華な朝食だ。
皇族達は豊かな食生活を送っている。
全員が揃うのを見るチャンスだとジョーは思った。
しかし、その席に国王は出て来なかった。
自室に運んで行くようだ。
他の皇族達だけが、一堂に会して静かに食事をしている。
この中にはギャラクターはいないのか?
ジョーは注意深くそれを見た。
特に怪しい者はいないと思われた。
私語は謹んでいるようだった。
本当なら殺されたビジュー王子の事や、国民を苦しめている飢饉の事など、話題は沢山あった筈だった。
侍従を呼ぶ時だけ小さく声を上げる。
飲み物を、と言ったり、ハムをもう一切れ、とねだる者もいる。
それ以外は全く会話がなかった。
侍従達に声を聴かせる事は、出来るだけ憚っているようだった。
何とも堅苦しい生活だ。
自由なジョーなら耐えられない。
食事を共にしない国王が、一番怪しい。
もしかしたら、此処にいない可能性もあった。
ベルク・カッツェがそうそうずっとこの王宮にいられるとは思えない。
自由に外出しているとすれば、どこかに秘密の出入り口でも作ってあるのだろう。
「とにかく夜中に地下を探してみるしかねぇな」
ジョーは隣に立っている健に耳打ちした。
「お前、国王の遺体を探すつもりか?」
「それと秘密の出入り口がギャラクターの基地に繋がっていないかどうかもな」
「なる程。カッツェならやりそうだ」
「そうだろ?」
2人は他の侍従達に聴こえないように含み声で話した。
「確かに日中は動きがとれまい」
健も言った。
「精々侍従として働いておくしかねぇぜ」
「ああ、怪しまれないようにな」
「ジュンが心配だ。粗相をしなければいいんだが」
「いや、料理さえする事がなければ大丈夫だろう。
 こう言った処には決まった料理番がいる筈だ」
「そうか。なる程ね」
ジョーは健の言葉に納得した。
ジュンは器用だし、店もやっている。
そう言う事なら大丈夫だろう、と安心した。




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