『7年の時間(とき)が過ぎて』

あれから7年が過ぎて、健は25歳になっていた。
『これが俺の生き方だったのさ…』
今でもジョーの事を思い出すし、彼の気配をふと感じる事がある。
(あの言葉は10代の少年が言う台詞じゃないぜ、ジョー……)
科学忍者隊としての表立った活動は殆ど無くなったが、それでも戦闘訓練は続けている。
彼はそのお陰で未だに10代の頃と変わらぬ身体能力を持っていた。
ISO内で内勤に就いたり、ISOの要人警護に駆られる事がその任務の殆どだった。
しかし、今でも左手首にはブレスレットがある。
科学忍者隊のリーダーである事は今でも変わらないのだ。
そして、G−2号は補充されないまま、4人で活動していた。
南部博士は引退したアンダーソン長官に代わり、国際科学技術庁長官職に就いていた。
博士の護衛にはジョーが良く付いていたが、今はその彼もいない。
(この部屋に来ると、お前の事を思い出さずにはいられない…)
訓練室でバードスタイルになると、健はいつもジョーの事を思う。
(いつだってストイックで、身体が鈍る事を極端に嫌っていたな…)
健は制御室で訓練プログラムを設定して、5分後に攻撃が始まるようにセットしていた。
4人のメンバーが共に訓練をしたり、顔を合わせる事は月に2〜3日となっていた。
Gメカでの出動も減ったが、それぞれが思い思いに整備を続けていたし、メカニック担当の技術者も点検を怠らなかった。
G−2号機もそのまま整備されて残っており、今でも出動が必要であれば、いつでも科学忍者隊は出動する事が出来る体制にある。
ジュンとは時間を作っては逢っていた。
ジョーが死の間際に望んだように、2人は普通の恋愛を始めていた。
(ジョー、俺が守るべきものが、『地球』と言う大きなものからジュンに変わって来ている…。
 これでいいんだよな?1人の人間を守れなくては男じゃない、ってお前の声が聞こえて来そうだ)
訓練室で攻撃機能が動き出す直前の数分間に、健はジョーに思いを馳せた。
(この部屋にはお前の気配がいつまでも残っているな…)
闘いだけが人生の全てだったジョー。
自分の身体を極限まで苛め抜いて、その限界をも超えるような鍛え方を彼は常に行なっていた。
(お前が生きていてくれたら、今でも良い好敵手だったろうに……)
まだ若い甚平はともかく、年長の3人は後どの位科学忍者隊として活動が出来るのだろうか?と思う事がある。
スポーツ選手と同様に、いつかは体力の限界が来るのだろう。
ジョーが居たならば、その時期を遅らせる事が出来るのではないか、と言う気がした。
(お前も良く言っていたが、機械的なパターン攻撃では、本当の訓練にはならない。
 俺は…俺達は、実戦から離れ過ぎた…)
それはそれでいいのだ、と長官になった南部博士は言う。
地球に平和が齎されたのだから、と。
(俺達はそれに甘んじていて良いのだろうか?ジョーならノーと答えるだろうな…)
ビーム砲の第1撃が襲って来て、健の思考は中断した。
とにかく身体を動かす事あるのみ。
訓練室の中で攻撃が始まれば、何も考える必要はない。
ただ、身体に沁み込んでいる戦闘能力を呼び覚まし、衰えないように努める事。
今、彼に課された生き方はそう言う事なのだろう、と健は解釈していた。

ジョーが生きていたら恐らくは科学忍者隊に籍を置きながらもISOからは距離を置き、レーサーとしての生き方を選んでいたかもしれない。
たまに4人揃う事があると良くそんな話をする。
ジョーの話が出ない事はない。
「ジョーの兄貴が本腰を入れてレーサーをやってたら、F1レーサーになれたかな?」
甚平はもうあの時のジョーの年齢になっている。
背も竜より少し高くなった。
「おいら、この前ついにジョーの兄貴の年に追い付いちまったよ。
 ジョーみたいに生きられてるのかな?」
甚平も、ジュンも竜も健と同様にISOの内勤職に就いているが、今も科学忍者隊のメンバーとして必要な時には呼び出しに応じている。
科学忍者隊であると言う事実は周りの職員に知らせてはいないが、南部長官直属の特殊任務に就いている事は皆が知っており、仕事を離れる事を許されている。
ギャラクターは滅びても、人間と言う生き物は大きな『悪事』を生み出す事がある。
それに対処するのは科学忍者隊ではなく、警察で充分な筈なのだが、手に負えないような時には彼らに召集が掛かる。
そして、長官になった南部が彼らを解散させないと言う事は、何よりも第二のギャラクターが現われた時の事を憂えての事なのだろう。
「甚平、貴方の生き方をジョーと比べる事は出来ないのよ。甚平には甚平の生き方があるの」
かなり大人びて女性らしさを増したジュンが甚平の肩に手を置いた。
「そうだ。俺達はジョーの生き方を否定はしないが、同じ生き方をする必要はない。
 あいつはあれで自分の人生を全うしたのだろうが、生き残った俺達には俺達の生き方がある。
 ジョーの分まで生き抜かなければ、あいつの死を無駄にする事になる」
「もうすぐジョーの命日じゃのう…。みんなで揃って墓参りに行けるといいがなぁ」
竜が首の後ろで手を組みながら、いつもの口調で言った。
「その日は日曜日よ。何とかなるのではないかしら?」
「さすがはジュンだな。既にチェック済みか」
健は彼女と微笑みを交わした。




inserted by FC2 system