『王宮警護(3)』

夜中になって侍従達も寝静まる頃、3人は集まった。
「王宮の中には軍隊も入れない。無防備だな…」
健が言った。
「本当だ。これでは好きなだけ殺してくれ、と言わんばかりじゃねぇか」
「でも、財宝を放出しようと行動したのは、ビジュー王子だけでしょ?」
「他の皇族達は、ビジュー王子が殺された事で、行動が取れねぇのかもしれねぇな」
「ともかく。国王の正体を暴かなくてはならん。
 まずは地下室から探すか」
「ああ、地下通路もな」
3人は地下へ向かう階段を音も立てずに素早く降りた。
「地下は3階まであるぞ」
懐中電灯で照らしながら、進んで行った。
「蜘蛛の巣だらけだ。地下は殆ど使われていねぇようだな」
「それが狙い目ね」
ジュンも言った。
地下3階に着いた。
「ん!」
ジョーが鼻と口を抑えた。
「異臭がするぜ」
「ジョー、これは腐乱死体の臭いだぞ」
健も手で抑えながらくぐもった声でそう言った。
「こんな処に隠して置くなんて……」
ジュンも言いながら、果敢にも前に進んで行く。
「この部屋だな」
ジョーが言った部屋には鍵が掛かっていた。
「ジュン、ヘアピンを寄越せ」
「ええ」
ジュンは髪をアップにするのに、ヘアピンを使っていた。
ジョーはそれを受け取ると、鍵穴をいじり始めた。
ピッキングで開けようと言うのだ。
暫くして手応えがあった。
「開けるぜ。ジュン、気絶するなよ」
「大丈夫よ」
ジョーはドアを引っ張った。
臭気が尚更強くなった。
「やっぱりな……」
ジョーは鼻と口を手で抑えたまま言った。
国王の衣装を着た人物が倒れていたが、既に一部は白骨化している。
それだけではない。
他にも側近と見られる人物の遺体が数体あった。
「良くこんな処に隠して発見されなかったものだ」
健が言った。
「これでとにかく国王が偽物である事がハッキリしたな」
ジョーはドアを閉めながら言った。
3人は階段を上がって行った。
「国王に扮しているのは、間違いなくベルク・カッツェさ。
 狙いはこの王国の金銀財宝。
 飢饉が起こったのは、計画外の事だった。そんな処だろうぜ。
 健、どう思う?」
「その通りだろうぜ。飢饉はたまたま起きた事だ。
 王子には気の毒な事をしたな」
「俺達にはどうにもならなかった話だ」
「そうね。これからどうするの?」
「何とかして国王の部屋に近づく必要がある。
 恐らく側近達はギャラクターが占めているに違いない。
 難しい仕事だぞ」
「いっその事、バードスタイルで乗り込んだ方がいいんじゃねぇのか?」
「そうだな。カッツェが確実にいる時にしたい。軽挙妄動は慎もう」
「そうね」
「解ったぜ」
「とにかく今日は床に就こう。長くなるかもしれないからな。
 地下通路を探すのは、カッツェの部屋に乗り込んでからだ」
健がそう言って、侍従達の控え部屋に戻る事になった。
健とジョーは同室。
ジュンは2人部屋だが、たまたま相手がおらず、1人で部屋を使っていた。
その事が今夜の活動に幸いした。
交替でシャワーを使い、落ち着くともう深夜の2時だった。
侍従達は5時には起きなければならない。
「この部屋には目覚まし時計がねぇな」
侍従達の部屋は王宮とは離れた場所にあった。
「誰かが音でも鳴らすんじゃないか?サイレンとか」
健が言った。
「なる程な」
ジョーはベッドサイドの灯りを消した。

翌朝、ドラの音で眼を覚ました。
「王宮には聴こえねぇのだろうか?」
ジョーはぼんやりとそんな事を言った。
5時半までには通用口から王宮の中に入る事になっていた。
急いで洗面を済ませ、いつものTシャツとジーンズの上から例の侍従服に袖を通した。
2人共良く似合っている。
「さあて。今日はベルク・カッツェがいやがるといいな」
「まあな。側近達もギャラクターの変装だから気を付けないとな」
「全くだ」
ジョーは答えて、居室のドアを開けた。
眠そうな侍従達が廊下を歩いて行く。
仕事がキツいので、寝る時間が遅く、起きる時間が早いと言う状態なのだ。
王宮の皇族達を支えるのが彼らの仕事だ。
夜昼構わずに奔走しなければならないのである。
「交替制勤務にすればいいのにな」
「仕方がねぇんだろ?信頼の置ける奴しか使えねぇだろうしよ」
侍従達の集まりの中で、今日は国王陛下が自室で食事を召し上がる、と言う話が侍従長からあった。
「カッツェが朝からやって来ているようだな」
ジョーは健にそっと囁いた。
「チャンスだぜ」
「ああ。国王の部屋は3階だったな」
ジュンも近づいて来た。
「ついにカッツェが来たわね」
「今日、強行するつもりだ。タイミングは俺の指示を待て」
健が短く言った。
ジュンは頷いて離れて行った。
メイド服と侍従服が一緒にいるのは不自然だからだ。
まずは忙しい朝の食卓の支度が始まった。
テーブルに掛かっている豪華なテーブルクロスは毎日交換するらしい。
掃除も丁寧に行なわれた。
それらをメイドと侍従が手分けをして行なう。
主に力仕事が男性の侍従達に回って来た。
昨日も体験した事だから、特に戸惑いはない。
今日、カッツェの部屋に突っ込む。
ジョーの頭にはその事しかなかった。
どんな事が待っているのか?
全く想像は付かないが、ジョーは少しでも早く乗り込みたかった。
国民が飢饉で苦しんでいるのだ。
他の皇族達が行動を起こせるように…。
その為にもジョー達は活躍しなければならない。
ビジュー王子のような皇族が他にもいれば良いのだが……。
聴いた処によると、ビジュー王子にはまだ幼いが弟がいるらしい。
国王の死が確認された以上、彼に王位を継いで貰い、国民に救いの手を差し伸べて貰うしかないだろう。
それは内政干渉に当たる事だから、科学忍者隊がどうこう言える事ではなかったが……。
そうなる事を期待して任務に当たるしかなかった。




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