『王宮警護(5)』

「今、こうしている間にも餓死している国民がいるんだぞ!」
ジョーは回転して長い脚でカッツェに蹴りを入れた。
カッツェは「ぐうっ」と唸った。
「それを私利私欲の為に財宝を奪おうなんて考えやがって!
 その為に国王と王子を殺しやがって!」
顔にパンチ。
ジョーはそれだけでは飽き足らず、カッツェを背負って回転し、投げ飛ばした。
カッツェはよろよろと立ち上がろうとしたが、立つ事が出来なかった。
「許せねぇ!この国の財宝はこの国の国民の物だ。
 そう思って、財宝を国民の為に使おうとしたビジュー王子を殺すとはひでぇ奴らだ!」
「ふん。ギャラクターの大志を完遂させる為には財力が必要なのだ。
 いくらあっても足りん」
カッツェは切れた唇でそう言った。
「強奪する事しか考えねぇ奴らに、地球を征服させる訳には行かねぇんだよ!」
「ジョー、そのぐらいにしておけ。カッツェは捕らえて連れ帰る」
健が止めた。
その時、一体どう言う技を使ったのか、カッツェが突然衣装だけになった。
身体が掻き消えたのだ。
「どう言う事だ!?確かに身体の感触があったぜ!」
「ああ、俺も確認している。此処だな。地下へ行く秘密のエレベーターだ」
健が指差したのは、カッツェの紫色の衣装を退けた場所だった。
床に丸く穴が空いていた跡があった。
「また上手い事逃げ出しやがって!逃げ足だけは早い奴だ」
「ジョー、いきり立つな。これから追い掛けて基地へ行く。
 間違いなく、この王宮から基地へと道がある筈だ」
「それならこのエレベーターに乗ったら?」
「これはカッツェ専用らしい。ほら、俺が乗っても動かないだろう?」
健が言った。
「地下を探すしかねぇな。軍の方は上手くやったのかな?」
ジョーは財宝の事が気になっていた。
此処で奪われてしまっては敵わない。
国民の為に使わなければならないのだ。
勿論、皇族達の了解は必要だが……。
そこへ軍隊の責任者が入って来た。
「財宝の一部は持って行かれたようだが、残りは無事だ」
そう言った。
「それは良かった!もう来る事はないかと思いますが、厳重に管理して下さい」
健がそう言い、他の4人に声を掛ける。
「これから基地へと侵入し、奪われた財宝を取り戻すぞ!」
「ラジャー!」
そうして5人は地下へとやって来た。
「有り得るとしたら、この地下からの出入り口がある筈だ」
健が言った。
腐臭が激しく、5人は顔を顰(しか)めたが、それでも行軍を進めた。
「健!この部屋が怪しいぞ。こんな臭ぇ部屋には誰も入ろうとするめぇよ」
ジョーがそう言い、自ら遺体のある部屋に入って行った。
「やっぱりだ!見ろ!此処に出入り口がある」
ジョーが指差した先には、確かに不自然な場所に、小さな扉があった。
床側に正方形の形をした扉が造られており、大人1人がやっと通れるぐらいの大きさだった。
「おら、通れるかいのう?」
竜が不安を示した。
「開けてみよう」
健が言い、ジョーが扉の取っ手を引っ張った。
ギリギリと音を立て、扉が開いた。
ジョーが滑り込む。
「思った通りだ。通路があるぜ」
次に健が入り込む。
ジュンと甚平も続いた。
竜は躊躇しながらも潜り込んだ。
案の定、お腹が遣えて入れない。
「一旦戻りやがれ」
ジョーがそう言い、竜が戻った後に自分も部屋の中に戻った。
「押してやる。健達はそっちから引っ張ってやってくれ」
ジョーは張りのある声でそう言った。
竜が再チャレンジする。
ジョーは竜の尻を押し、向こう側では健達が彼の腕を引っ張っている。
「うんしょ、うんしょ」
と言いながら、竜は必死にお腹を引っ込めながら何とかその穴を通る事が出来た。
「ダイエットしろって日頃から言ってるだろ?」
ジョーがはあはあ、と息を荒くしながら言った。
「済まねぇ……」
竜は意気消沈した。
「さあ、行こう。一刻も早く行かなくてはならない」
健が言い、5人は走り始めた。
通路には複数の足跡があったので、基地への方角は間違ってはいない筈だった。
やがて煉瓦造りの通路が、鉄製の物に変わった。
基地への通路である事に間違いはない。
通路が切り替わった途端に、鉄格子が行く手を阻んだ。
「どこかにこれを開くスイッチがある筈だ。探せ!」
健の指示で全員がスイッチを探し始める。
「あった!」
さっきの雪辱を果たしたかのように、竜が意気揚々と叫んだ。
「これじゃ!」
手前の煉瓦造りの通路の煉瓦の一部の色が違っていた。
そこに竜が手を翳すと、ゆっくりと鉄格子が上に上がって行った。
「竜、いいぞ!」
健はそう言い、鉄格子が上がり切るのを待たずに潜(くぐ)り抜けた。
ジョーもすぐに続いた。
また走り始める。
こんなに広い基地を大胆にも王宮の地下から近い処に作っていたとは。
全くギャラクターには恐れ入る。
「手分けをして奪われた財宝を探そう。それ程多くはないだろう」
「取り敢えず財宝を置くには、この近くに部屋を確保しているに違いねぇぜ」
ジョーが言った。
「そうだな。みんな、頼んだぞ」
健は率先して探し始めたので、他の4人も財宝探しに没頭した。
ジョーは銃口を尖兵にある部屋に飛び込んだ。
「健!あったぜ」
ニヤリと笑う。
大きな箱が8つ積んであった。
「これは軍隊に頼んで運び出して貰おう。俺達はこのままカッツェを探すぞ」
「ラジャー!」
5人は勇躍、基地の中を走り始めた。
憎っくきベルク・カッツェを逃がす訳には行かない。
これ程の犯罪をどれだけ犯しているのか?
様々な国に変装して出入りしている筈である。
これ以上、カッツェに悪業を重ねさせない為には、是非とも生きて捕らえてしまわなければならない。
今現在進行中の悪事についても吐かせなければならないからだ。
同時進行でいろいろと画策しているに違いなかった。
でなければ準備不足になる筈だからだ。
作戦はかなり前から練られている。
ギャラクターの組織力は大したものだ。
これを潰えさせる為には、ベルク・カッツェを捕らえる以外に道はない。
科学忍者隊の5人は全員一致でそう思っていた。




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