『王宮警護(6)』

「この基地を爆破すると王宮にも被害が出るかもしれねぇな…」
走りながらジョーが呟いた。
「中枢のコンピューターを破壊するしかないな」
健も答えた。
「決定的打撃を与えれば、基地としては使えまい。
 それに軍隊に財宝を引き上げて貰わなければならないからな」
「そうだな…。カッツェの野郎は許せねぇ。俺の手で……」
「ジョー。気持ちは俺も同じだ。お互いにカッツェは親の仇だからな。
 でも、此処は捕らえて余罪を吐かせなければならない」
「解っているさ。でも、吐かねぇ。俺はそう思う」
「しかし、やるしかあるまい」
「それも解っている」
ジョーは苦り切った顔つきでそう言った。
「これからどうする?闇雲に走っていても仕方がねぇぜ。
 此処で別れたらどうだ?」
健とつと立ち止まった。
「そうだな。ジュンと甚平は一緒に行動してくれ。全員別れて中枢部を突き止めよう。
 カッツェもまだ此処にいるのなら、中枢部の司令室にいる筈だ」
「多分、逃げている。そんな気がする……」
ジョーがまた呟いた。
「とにかく行こう」
「ラジャー!」
5人は方々に散った。
ジョーはカッツェがこの基地に残っているメリットを考えたのだ。
正体がバレて、財宝も奪えなかった以上、残っている意味は何もない。
そう考えるとあのカッツェが大人しくこの基地に収まっているとは思えなかった。
隊員は残しているかもしれないが、自分は忽然と姿を消しているに違いない。
そう思った時、わらわらと敵兵がジョーの眼前に現われた。
「行くぜ!」
ジョーは左足を軸に回転し、右足で蹴り技を繰り広げた。
何人もの敵が1度に倒れて行く。
そして、得意の羽根手裏剣。
マシンガンを持っているその手の甲に正確に当てて行く。
敵が呻きながら、マシンガンを取り落とす。
マシンガンは勝手に咆哮して、犠牲者が出る。
いつもの事だった。
ジョーは構わずに敵の懐に入って、鳩尾に重いパンチを捻じ入れ、次の瞬間には別の敵に向かって、長い脚で首に向かってキックを入れていた。
首と言う場所だけにかなりの衝撃がある筈だ。
敵は簡単に崩れ落ちた。
そしてエアガンを抜くと、自由自在に操って、敵の心臓を狙って撃って行く。
死にはしない。
ショックで一時意識を失うだけだ。
ジョーはエアガンの三日月型キットを使って、敵の顎を打ち砕いて行く。
闘い方は基本通りだ。
彼が思い通りに動けば、敵がバタバタと倒れて行くのはいつもの事だった。
ジョーが床に沈んだかと思うと、突然跳躍して、離れた処にいた敵にパンチを喰らわせた。
マシンガンで彼を狙っていたのである。
敵は顎に一撃を受けて、仰向けに倒れた。
ジョーは先へ進む事にした。
此処でこいつらを相手していても埓が明かない、そう思ったのだ。
敵兵を切り拓きながら、ジョーは前へと進む。
そこに何があるかは解らない。
しかし、行かなければならない。
何があろうともこの基地は破壊しなければならないし、カッツェがいるのなら、捕らえなければならない。
ジョーは居ないと踏んでいるが、想定外の展開が待ち受けていないとは限らない。
その点は冷静に判断する必要があった。
生命賭けの任務だ。
決して気を抜く事は出来ない。
ジョーは油断のない眼をあちらこちらに配りながら進んで行った。
通路が途切れて、広い部屋に出た。
司令室ではなさそうだ。
何かある……。
ジョーは不吉な物を感じ取って足を止めた。
すると部屋自体が不規則に歪み始めた。
眼の錯覚を起こしたのかと思ったが、そうではない。
この部屋その物が侵入者を攻撃する罠なのだろう。
床から何かがちぎれて飛び出した。
それは砲弾だった。
ジョーは辛くもそれを避けた。
「何だ、これは?」
この部屋はどうやらGメカが変身と同時に変化するような仕掛けを使って、自由自在に侵入者を攻撃出来るように造られているようだ。
砲弾が次から次へと襲って来た。
部屋から退散する事も出来たが、先へ進むにはこの部屋を攻略しなければならない。
「足元がゆらゆらして定まらねぇぜ」
ジョーは天井を見上げた。
部屋中で揺れているような感覚の中、天井だけは動いていないようだ。
彼は天井の配管に向かって跳躍した。
配管に掴まると一息付けたが、その配管からガスが噴き出して来た。
ジョーは真っ逆様に落ちた。
そこを砲弾が狙って来た。
砲弾が背中に当たった。
「ぐっ!」
砲弾は5cmぐらいの直径がある。
マントが緩衝材になったが、それでもジョーの身体に打撃を与えるのには充分だった。
背中から血が流れ落ち、ジョーは床にそのまま落ちた。
砲弾も血に塗れながら、床にバウンドして、そのまま床と同化した。
部屋はジョーを仕留めたと判断したのか、急に静かになった。
しかし、ジョーはやられた訳ではなかった。
重傷だったが、床を這って移動して行くだけの力は残していた。
この部屋を必死になって這い出た。
別の通路に出た処で、壁に寄り掛かり、一息ついた。
傷が痛む。
よりによって背中だ。
だが、このままでいる訳には行かない。
ジョーは力を込めて立ち上がった。
彼が寄り掛かった壁にはべっとりと血が着いていて、立ち上がった瞬間にはボトボトと音を立てて、大量の血が床に流れ落ちた。
意識が遠くなる。
「こんな事じゃ駄目だ。しっかりしやがれ」
ジョーは自分自身を叱咤激励してよろよろと前へと進んだ。
まだ倒れる訳には行かない。
イタリス王国を苦しめたこの基地は2度と使えないように破壊しておかなければならない。
彼は意志の力で歩き続けた。
通路に点々と血の跡が続いた。
それはふらふらと歩いている事を表わしていた。
それでも、ジョーは前に進んだ。
ビジュー王子の無念を晴らす為に、カッツェの野望を潰えさせる為に。
この国が変わる為に……。
此処は自分にとっての頑張り時なのだと、発破を掛けて、彼は黙々と進んだ。
突然マシンガンが襲って来た。
ジョーはよろりと避けて、素早く羽根手裏剣で敵の喉笛を突いた。
生命が賭かっている時だ。
仕方がなかった。




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