『王宮警護(7)』

歩くと傷口が痛み、血がボタボタと床に落ちた。
しかし、歩みを止める訳には行かなかった。
それは戦線を離脱する事に繋がるからだ。
仲間達も心配だった。
手酷い歓迎を受けているかもしれない。
『ジョー。ジュンと甚平がおかしな部屋に阻まれて進めなくなったらしい。
 お前はどうだ?』
「あの…部屋を通り抜けなかったのは、賢明、だぜ……」
『ジョー、まさかお前!?』
「俺は…通り抜けた……」
『傷を負っているのか?』
「へっ、大した事ぁねぇ、さ……」
『砲弾が飛んで来る部屋だと聴いている。お前、それにやられたんじゃ?』
「どうやら、部屋の作りは同じ、だったらしいな……」
『ジョー、ゴッドフェニックスに戻って待機していろ』
「また、あの部屋を通って、か?」
健が言葉に詰まった。
『どこをやられた?』
「背中だ」
『動けるのか?』
「何とか、な……」
『バードスクランブルを発信しろ。竜に助けに行かせる』
「駄目だ。俺の為に戦力を割かせる、事は出来ねぇ……。
 それよりもそっちはどうなんだ?司令室は見つかったのか?」
『俺と竜はそのおかしな部屋に行き当たっていない。
 可能性としては、ジョー。お前が向かっている方向にあると見ていい』
「なる程。あの部屋は、司令室に…行かせねぇ為の、策だった、と……」
ジョーは意識が朦朧とし始めたが、意志の力でそれを保った。
『ジョー。大丈夫か?』
「大丈夫だ……」
『そう言う訳だから、バードスクランブルを発信して欲しいんだ』
「解った。切り替えるぞ」
ジョーはそう言って、ブレスレットを強く押し、バードスクランブルを発信した。
これで健達が駆けつけてくれる筈だ。
自分よりも先に司令室を見つけてくれるかもしれない。
ジョーはホッとすると、意識を手放してしまった。
その場に倒れ込んだ。

「ジョー!しっかりしろっ!」
気が付くと、健に抱き起こされていた。
「おかしな部屋に進軍を阻まれなかったか?」
「俺達は幸いにしてそこを通らずに済んだ」
健と竜がいた。
ジュンと甚平はまだこちらに来られないらしい。
「ジュンと甚平は他のルートを当たっている。俺達が来たルートから此処に辿り着くだろう。
 それよりも、ジョー。これは重傷だぞ」
「解っている。だが、まだ動く事は出来る」
「無理はするな」
「これから司令室に飛び込もうって言うのに……、俺は足手纏いにはなりたくねぇ。
 俺の事は気にせずに闘ってくれ」
「健!」
ジュンと甚平が駆け付けて来た。
「司令室らしき部屋を見つけたわ。あっちよ」
それはこれからジョーが進もうとしていた方角だった。
「ジョー、大丈夫?」
「ジョーの兄貴ぃ……」
「例の部屋を通り抜けたらしい」
健が苦笑いをした。
「あの部屋を通り抜けただなんて、ジョーの兄貴、やるぅ!」
「やるぅ!じゃないわよ。こんな重傷を負って……」
ジュンが心配そうにジョーを見た。
顔色は真っ青だった。
失血が酷いのだ。
「引けと言ったんだが、聞かないのさ」
健が呆れたように言った。
「ジョーも意地っ張りじゃからのう…」
竜は諦めの境地に達していた。
やるだけやらせるしかないだろう。
それで意識を失えば自分が担いで脱出するのみだ。
彼はそう思っている。
「行って早い処、中枢コンピューターを破壊しようぜ」
ジョーは言った。
その言葉を合図に科学忍者隊の5人は動き出した。
ジョーは少し遅れたが、それでも、しっかりとした足取りで彼らに着いて来た。
健は感心した。
こんな時でも、ジョーは自分を失わない。
かなりの深手だと言うのに、自分の意志を曲げたりはしない。
その時、ジョーがエアガンを眼にも見えないスピードで抜き、科学忍者隊の眼前に潜んでいた敵を撃った。
決して油断はしない。
奇襲攻撃を掛けるつもりだった敵兵が、5人も次から次へと撃たれて、天井から落ちて来た。
「これで全部、だぜ……」
ジョーは肩で息をしながら、呟いた。
エアガンと羽根手裏剣での攻撃なら、身体への負担が小さい。
こうして、まだ働ける事を仲間達に示したのだ。
「さあ、中へ入って、コンピューターを破壊してしまおう」
健が言って、入口のドアの前に立った。
「ドアを開けるスイッチはどれじゃ?」
竜が叫ぶように言った。
「スイッチがねぇのなら、穴を空けるしかねぇさ……」
ジョーはエアガンのキットをバーナーに切り替えた。
「いいえ、此処は爆弾を使いましょう。ジョーは無理をして体力を失う事はないわ」
ジュンがそう言い、必要最低限の爆弾を用意した。
「みんな、下がって!」
ドカーンと小さな爆発が起きた。
シャッターのように、ドアが下だけ半分開いた。
「どっこらしょ」
それを竜が上まで上げた。
「何だ何だ!」
室内にいた敵兵がわらわらと現われた。
カッツェの姿は見当たらない。
殆どがこの基地から引き上げているようだった。
残っていたのは、コンピューターでの残務処理を行なっていた平隊員ばかりだった。
「ジョー、下がっていろ。お前が手を煩わす必要はない。リーダー命令だ」
健はリーダーの立場を持ち出した。
「解ったよ……」
ジョーは自棄っぱちに返事を返したが、何かあれば動くつもりは満々で、エアガンを手に持ったまま、壁に寄り掛かって立っていた。
座り込めば楽になるものを、そうはしなかった。
それはまだ闘いに参加するぞ、と言う意志表示に他ならなかった。




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