『王宮警護(8)/終章』

壁に寄り掛かった満身創痍のジョーが見守る中、科学忍者隊は雑魚兵達と闘っていた。
ジョーは隊長かチーフクラスの者が潜んでいないかと危惧していた。
残務処理の為には指揮者が要る筈だ。
健達は闘いに夢中になり、メインコンピューターを爆破する事だけに集中しているようだったので、ジョーは慎重に周囲に眼を配った。
傷が痛む。
失血が酷く、足がガクっと崩れそうになる事がある。
それでも、意志の力で自分の身体を立て直した。
そんな折、コンピューターの陰からバズーカ砲の先端を発見したジョーは突然走り始めた。
身体に負担が掛かるがそんな事は言っていられなかった。
ジョーは右手に持ったままのエアガンを敵のチーフに向けた。
赤い色違いの隊服を着たチーフがコンピューターの陰から躍り出て来て、ジョーをバズーカ砲で狙った。
しかし、狙いを付けるスピードは軽いエアガンの方が遥かに早かった。
勿論、ジョーが射撃の名手である事もある。
ジョーはその事を咄嗟に計算して、飛び出して来たのだ。
そして、エアガンで素早く敵のチーフの両眼を撃った。
その腕は相変わらず確かだ。
これにはチーフは悲鳴を上げながら藻掻くしかなかった。
彼はこれで失明するかもしれない。
しかし、一番効果的で一瞬で終わる攻撃方法だった。
「ジョー!無理をするな、と言った筈だ」
健が叫んだ。
「だが、こいつに気づいていたか?」
ジョーはニヤリと笑った。
健は黙った。
「大丈夫さ。後は見物させて貰う」
ジョーは先程の壁際に戻った。
自分が流した血で酷い事になっている。
そこに胡座を掻いて座り込んだ。
今度こそ、本当に『見物』を決め込むと言う意志表示だった。
ジュンが中心となり、王宮に被害が及ばないように、メインコンピューターだけを爆破する事にした。
彼女の計算通り上手く行き、漸く科学忍者隊は引き上げる事になった。
「ジョー、しっかりして!ゴッドフェニックスに戻って、早く止血をしましょう」
ジュンがそう言い、王宮の庭に放置してあるゴッドフェニックスの中で、太い包帯で彼女が手当をしてくれた。
「科学忍者隊の皆さん。有難うございました。
 これでこの国はきっと救われます」
「俺達に出来る事は此処までです。
 王宮から盗まれた財宝が見つかったので、後で軍隊にでも回収して貰って下さい」
「有難う、有難う……」
首相は健の両手を握って何度も礼を言った。
「すみません。負傷者がいるので、この辺で失礼させて下さい」
健がそう言い、やっと解放して貰った。
ジョーは決して良い状態ではなかった。
ゴッドフェニックスの自席に座っている事はもう出来ず、毛布を敷いてその上に側臥位になって休んだ。
そうしている内にフッと意識がなくなってしまった。
「ジョーが意識を失ったわ……」
ジョーの様子を観察していたジュンが言った。
「竜、一刻も早く基地へ戻るんだ」
「解っとるわい!」
竜は機首を西に向けた。
機内は血の臭いが充満していた。
それだけ出血が酷いと言う事に違いなかった。

こうして事件は解決した。
ジョーも傷の手術を受けて回復して来た頃、イタリス王国の噂が流れて来た。
皇族達は協議の上、財宝の半分を国民に開放したと言う。
その結果、飢饉に苦しんでいた人々に食べ物が行き渡った。
その内に国連からの救助品も届くようになり、餓死する人々が皆無になった。
病室でそれを聴いたジョーは事の外喜んだ。
「それで、王室はどうなるんだろうな?」
「ビジュー王子には、7歳になる弟君がおられた。
 彼が王として即位し、国民投票で今の首相が後見人として選ばれたそうだよ」
見舞いに来ていた健が言った。
「なる程な。これで全て解決か…」
「そうだな。ギャラクターが奪った財宝も軍隊に引き上げて貰ったし、俺達の任務は恙無く終わった」
「ホッとしたぜ」
「俺達は心配したんだぞ。どれだけ心配したか解るか?
 お前は重傷の癖に動きたがるし……」
「ギャラクターには死んでも死に切れねぇ恨みがあるからな」
「みんな意地っ張りのジョーには呆れているんだぞ」
「そうだろうな。構わねぇさ。これが俺なんだ」
「無事に助かってくれて良かったよ。お前が抜けたら戦力ダウンもいい処だ」
「そう言ってくれるのは有難てぇな」
「当たり前じゃないか。5人の内、誰が欠けても科学忍者隊ではないんだ。
 ジョーも少しはその事を頭に入れておけ」
「解ったよ……」
「しかし、例の部屋を攻略したのはかなりの物だ。ジュンが驚いていた」
「だがよ、天井に逃れたつもりがガス攻撃だ。間抜けなもんだぜ。
 あれがなかったら負傷する事もなかっただろうよ」
「さすがのジョーも油断したか…」
「今となっては油断した、と言うしかねぇな」
「ちょっとの油断が負傷に繋がる。普段から用心深いお前がこうなった事で、皆認識を新たにした処だ」
「そう言うこったな…」
「ジョー、傷はまだ痛むか?」
健にそう言われたジョーは初めて顔を顰(しか)めた。
「正直に言うと、まだ痛みがある。本来なら今夜辺りから…」
「ストップ!リーダー命令だ。訓練は禁止する」
「解ってるぜ。まだ無理だって事ぐれぇはな」
「珍しいな。気持ちが悪いぜ」
健は笑った。
「俺だって自分の身体と相談して動くんだよ。より傷を悪化させるような馬鹿はしねぇ」
「それなら良かった」
「とにかく、イタリス王国の飢饉が救われて、俺は心底ホッとしているぜ。
 私利私欲を満たそうとするカッツェの野郎をギャフンと言わせただろうしな」
「皇族達も王様に従っていただけだったんだな。
 本当は国民の事を憂慮していたらしい」
「そいつは良かった。皇族達が今の贅沢から脱する事が出来なかったら、国民は救われなかった訳だからな」
「自分達だけが贅沢をして暮らしていた事に引け目を感じていたらしい。
 まあ、全会一致で、とは行かなかったそうだがな」
「首相から南部博士に報告があったのか?」
「ああ。中には自分の事しか考えていない皇族もいるって言う事だ」
「仕方がねぇな。いろいろな考え方の持ち主がいるのは、どの世界でも同じだ」
「そうだな。……ちょっと長居し過ぎたようだ。病人の枕元で喋り過ぎたな」
「俺は別に病人じゃねぇさ。ちょっとした掠り傷さ。それにこれは俺が聴きたかった話だからな」
「俺はこれで帰るが、とにかく無茶はするなよ」
「ああ、念を押さなくても今夜は大丈夫だ」
「回復次第ではやるつもりだな?」
「まあな。任務復帰に差し支えるような事はしねぇ。心配するな。身体が鈍るのが心配なだけだ」
「じゃあ、負傷しないように精々気をつけるんだな」
健はそう言って病室を出て行った。




inserted by FC2 system