『一発当て屋(1)』

科学忍者隊に招集命令が出された。
彼らは速やかに三日月基地へと集まった。
南部博士は渋い表情を浮かせて待っていた。
「諸君。実はある男がウランを掘り当てたと言って、ISOに鑑定を持ち込んで来た」
「ウランを?」
健が訊いた。
「左様。男は『一発当て屋』だと名乗っている。何とブルドーザーを使って掘削したらしい」
「そんな危険な事を……」
ジョーは思わず呆れて呟いた。
「専門家ではないらしい。だが、困った事にISOとギャラクターの双方に売りつけようと企んでいるらしいのだ」
「汚い奴ですね。何が一発当て屋だ!」
今度はジョーも声を荒げた。
「で、男の正体はまだ掴めないのですか?」
健が話を進めた。
「ISOの情報部員によると、マネックスと言う石油商がその正体らしい。
 仲間達と連合を組んでいる。
 その持ち込んだウランはかなり純度が高い物だった。
 ギャラクターも喉から手が出る程欲しいものだろう」
「それは阻止しなければなりませんね」
「その通りだ。だが、非常に高額な金額を要求して来ている。
 ギャラクターにも吹っ掛けた事で、更にこちらの出す金を高く吊り上げようと企んでいるのだ」
「なる程、こいつは相当な悪ですね」
ジョーが腕を組んだ。
「それで俺達への指令は、この男を見つけて取引すると言う事ですか?」
さすがに健は一歩先を考えている。
「そうだ。私と通信しながら、話を進めて欲しいのだ」
「ギャラクターが出て来ますね」
ジョーが言った。
「それがあるからISOの職員には任せられないのだ」
「かなり特殊な任務ですが……、やってみましょう」
健が請け負った。
「まだ時と場所は指定して来ていない。連絡があり次第、諸君には出動して貰う」
「解りました。それまでに作戦を練っておく必要がありますね。
 マネックスと言う男の詳細データはありませんか?」
「それがまだなのだ」
「俺達で探ってみたらどうだい?」
ジョーが提案を出した。
「10代の餓鬼が近づいても、怪しんだりはしねぇだろ?」
「確かに『一発当て屋』さんは私達なんか眼中にないでしょうからね」
ジュンも賛同した。
「解っているのは、顔と名前、そして凡その拠点だけだ」
南部博士はスクリーンに写真を映し出した。
「マネックス・マホーン。歳は40歳だそうだ。アラビアのサンクス地方を拠点としている。
 普段は石油商をしているようだが……」
「ウランにはたまたまぶち当たったのでしょうかね?」
健が訊いた。
「恐らくはそうだろう。そして金の成る木を掴んだと思ったに違いない」
「解りました。今解っている情報はそれだけですね?」
「残念ながらその通りだ」
「情報部員も大した事ねぇな」
「ジョー、そんな事を言うもんじゃないぞ」
「とにかく、私達でそれを探りに行くには情報が少な過ぎるわね」
「アラビアのサンクス地方と言うだけじゃのう」
「石油商なら取引所があるんじゃねぇのか?」
「ジョー、その通りだ。それをすぐに調べさせよう」
南部博士が動き始めた。

情報部員の調べによって、石油の取引所が確定された。
顔は解っている。
マネックスは40歳にしては若そうに見える。
褐色の肌に、鼻がドーンと顔の中央に居座っていた。
特徴のある顔だと言える。
科学忍者隊の全員がその顔を覚え込んだ。
「さて、取引所に忍び込んで所在を確認するのはいいが、問題はその後だな。
 国際科学技術庁に連絡を取る処を抑えて、彼が本当にウランを保管しているのかを確認する事から始めるか」
健が計画を立てた。
「まあ、そんな処だな」
ジョーも異論はなかった。
「バードスタイルになる必要もないだろう。
 万が一見つかった時に科学忍者隊が潜り込んでいるとなったら、マネックスが警戒するだろうからな」
健の意見に全員が頷いた。
「では、明日乗り込むとしよう。今夜は安ホテルを見つけて宿泊する」
「ゴッドフェニックスに戻るのかと思った〜」
甚平が言った。
戻るには距離があり過ぎた。
健はそれを考えている。
費用は南部博士から預かっていた。
「とにかく飯を喰おうや。おら、腹が減ったぞい」
「あ、賛成!」
甚平が即座に答え、ホテル探しの前にレストランを探す事になった。
レストランは当然のようにアラビア料理が並ぶ店で、彼らにとっては珍しい食事内容だった。
「美味しいね」
甚平がニコニコとしているのを見て、ジュンが窘めた。
「私達は遊びに来ている訳ではないのよ」
「解ってらぁい!」
小さな身体のお腹を一杯に膨らませて、甚平は満足げだった。
彼らはまるで異邦人だ。
周りはアラビア特有の衣装に身を包む人物ばかりだった。
子供の旅行に見えるだろうか?
とジョーは考えた。
大人が引率していないのが少し不思議に思われているかもしれないが、意外にもジョーが大人びている為に、そう言った事はなかったようだ。
「早くホテルを探さねぇと一夜の宿も取れなくなるぜ」
まだ食欲を見せている甚平と竜を急かすように彼は言った。
「そうだ。もう行こうじゃないか」
健もそれに同意した。
5人が手分けをして探すと、如何にも安ホテル、と言った感じのホテルが見つかった。
素泊まりで、上下に寝床が広がっているだけの、本当の簡易ホテルだ。
シャワールームが5室設置されていた。
「この簡易宿泊所で仕方あるまい」
「まあ、一夜の寝床を確保出来たと思えばいいじゃねぇか。野宿よりはマシだぜ」
ジョーも言った。
「ちょっと南部博士と連絡を取って来る」
健が1人で外に出た。
中にはもう既に寝ている者がいたからだ。
健はすぐに戻って来た。
「マネックスを探っていた情報部員が撃たれたらしい。
 生命には別状ないと言う事だが、マネックスは相当に警戒しているぞ」
「じゃあ、新しい情報は解らず終いか」
「そう言う事になるな」
「俺達だけで探らなけりゃならねぇな」
「何とかするしかないだろう」
「マネックスだなんて、金に汚そうな名前だぜ」
ジョーは吐き捨てるように言った。




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