『いつか見る光に向けて』

ジョーは長い間、暗闇の中で生きて来たように感じていた。
その『暗闇の今生』が自分の意志に関わらず、まさに今終わろうとしている事を知った時、それならば出来る限り敵兵を道連れにしてやる、と決意を固め、仲間達に告げずに1人で敵基地へと乗り込んだのだった。
思いっ切り暴れたかったが、傍目には八面六臂の活躍と見えても、やはり弱り切った身体には限界があった。
ブレスレットを破壊されて、バードスタイルを解かれてからも、彼は必死で闘った。
持っている武器はエアガンと羽根手裏剣。
そして、最強なのは自分自身の鍛え抜かれた肉体だ。
彼は敵兵の銃弾を交わしつつ、病気で弱っている事を感じさせない動きを見せ乍ら的確に仕留めて行った。
時には回転し、スピード感溢れる肉弾戦を演じた。
キックやパンチが面白いように決まって行ったが、やはり余命少ない身体では無理があった。
敵の隊長と対峙した時に激しい眩暈と頭痛に襲われ、その時出来たほんの僅かな隙に付け入れられてしまった結果、ついに無数のマシンガンの弾丸(たま)を被弾した。
辛うじて隊長を羽根手裏剣で斃したものの、ジョーはこの上もなく疲れ果てていた。
「疲れたぜ…」
思わず呟いた時、また新手の敵がわらわらと現われた。

ジョーはギャラクターの捕虜にされ、憎っくきベルク・カッツェに病んで傷付いた身体をどこまでも痛め付けられた。
彼の身体が普通の身体であれば、このような屈辱を味わう事は無かっただろう。
しかし、最後に辿り着いたこの地が、ギャラクターの本部であったとは…、ジョーは自分の幸運を神に感謝したい気持ちだった。
(どうにかして健達にこの場所を知らせなければ…)
ゴッドフェニックスが来ている事を知った時は天命だと思った。
彼は必死に本部の入口を目指し、漸く逢えた仲間達にその場所を告げた。
リーダーである健は自分をその場に残して、全員で突入する事を選択した。
(それでいいんだ…。俺を見捨てたなんて決して思うな!)
ジョーは声も出せなくなった状態の中、ひたすら仲間達の勝利を信じた。
(俺は今まで暗闇の真っ只中で生きて来た。
 しかし、この先、死んだら明るい場所へ行けるのかもしれねぇな……。
 輪廻転生と言う物が本当にあるのなら、俺はまた俺に生まれて来てぇが、その時は明るい光を真っ直ぐに見てみてぇぜ…)

彼は自分がベルク・カッツェを狙って放った羽根手裏剣が、結果地球を救った事を知らずに逝ったが、その人生を後悔したりはしていなかった。
生命を賭けて闘い抜いた短い一生だった。
例え彼の人生が暗闇の中に在ったとしても、仲間達と共に闘った日々は、彼なりに人生の中で一縷の明るい光となったと思う。
それは最期の瞬間が来た時に、漸くジョーにもハッキリと解った。
(俺は暗闇の中でいつも暗中模索していて、いつか光を見たいと思って生きて来た…。
 だが、俺にとっての『光』はあいつらだったんだ…。今更気付くなんてお笑いもんだぜ…)
ジョーは瞳を閉じた。
既に力尽き、思考する事も出来なくなっていた。
そのまま暗闇に攫われそうになった時、身体が暖かい光に包まれて浮いたような気がした。




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