『一発当て屋(4)』

ジョーは黒服の男が気になった。
拳銃を構えてはいたが、彼を襲って来る事はなく、紳士的に話をしただけだ。
マネックスの手の者にしては、大人し過ぎる気がした。
そこで平服姿に戻ってG−2号機まで戻り、防御服を脱いで男が出て来るのを待った。
男は黒塗りの車で去って行った。
国連軍が遠目に警護しているのが解った。
ギャラクターが現われた時もすぐに行動は起こさなかった。
まあ、ジョーが居たからだが、任せておいて大丈夫なのかと少し心配になった。
しかし、黒服の男はその場を離れた。
国連軍に任せるつもりなのだろう。
国連軍がウランを盗掘するなどとは考えてもいないらしい。
まあ、実際に国連軍にそのような指示は出ていなかったのだが。
取引まで24時間に迫った。
ジョーは黒服の男を尾行して、街中に入った。
男は誰かと接触するつもりらしかった。
どうやらマネックスの『連合』の仲間と言うのが、彼の正体らしい、とジョーは気づいた。
マネックスの手の者と言う訳ではないのだ。
この大きな取引に手を貸すとは、若い割にはマネックスに見込まれた男らしい。
その男がでっぷりと太った男と接触した。
食事を共にすると言った感じだったが、ジョーは近くに自分の席を取って、適当に注文を済ませた。
話し声は低かったが、ジョーには聴こえた。
黒服の男は太った男と共に、マネックスを裏切っていたのだ。
2人は共謀し、取引の際に手に入った金を奪おうと目論んでいた。
(ふん、そんな事だろうと思ったぜ……)
ジョーは心の中で呟いた。
「ギャラクターが盗掘に現われた。それを科学忍者隊が防いでくれたぜ」
「ほう〜。科学忍者隊はISO側だろう。ISOは汚い手を使わないと言う事だな」
「そうだ。ギャラクターが盗掘に来る程、欲しがっていると知ったら、ISOはもっと金を出すかもしれない」
「法外な値段を吹っ掛けるように、マネックスを刺激してやろう」
「『一発当て屋』も今度ばかりは俺達の操り人形だな。ハハハハハ…」
若い黒服の男が笑った。
しかし、その眼は笑っていなかった。
ジョーはチラリとその表情を見て、背筋が凍る思いをした。
この黒服の男、若いが只者じゃない、と見抜いたのだ。
まさかとは思うが、ベルク・カッツェの変装ではあるまいな、と思った。
その可能性は否定出来ない。
ウランを盗掘させて置きながら、裏では金を奪う手筈までしている。
カッツェならやりそうな事ではないか。
ジョーは2人が別れた後も黒服の男を尾行したが、どう言う訳か途中で撒かれてしまった。

健と連絡を取り、仲間達と合流して今日の成果を話し合った。
マネックス一味は、1日石油商の本業に力を入れていたらしい。
一部の人間が洞穴を見張っていたらしいが、それがあの黒服の男であった。
その男から国連軍が警護に就いたと連絡が来た事も解っている。
そして、太った男の方から電話が来ていた。
ギャラクターの盗掘をネタに取引の値段をISOに吹っ掛けるようにと提案して来たのだ。
マネックスはそれに乗った。
国際科学技術庁に電話をして、値段の釣り上げ交渉をしたのだ。
交渉は当然乍ら決裂し、取引当日に持ち越される事となった。
「俺の方は興味が持てる人物と出逢ったぜ」
ジョーは今日の事を全て話した。
「それがベルク・カッツェの変装だと言うのか?」
「可能性はある、と言っているのさ」
「確かに可能性はあると私も思うわ」
ジュンが同意した。
「とにかく、マネックスには反対勢力がいるって言う事だ。
 俺達はそいつらにも注意を払わなければならねぇ」
「そうだな。取引は明日の18時。南部博士と通信をしながら取引を進める事になっている。
 勿論、現場に現金は用意しない」
「それは当然だぜ。あんな奴らに払う金なんてどこにもねぇのさ」
「その通りだ。どのように取引が進むのか、とても想像が出来ない。
 こんな任務は初めての事だからな」
健が苦しそうに言った。
此処はアラビア料理の店の中である。
ジョーは先程食事を済ませたので、コーヒーだけを注文している。
アラビア特有の衣装の人々に囲まれて、日本人観光客が楽しげに会話をしているように見えるように心掛けた。
甚平と竜は相変わらず食べる事に集中している。
「相変わらず凄い食欲だな」
ジョーは呆れて見せた。
「それで、取引現場については何か言って来たのか?」
ジョーが訊いた。
「まだだ。時間しか連絡がないらしい。場所については当日の直前になって知らせて来るのではないか、と南部博士が言っている」
「マネックスはギャラクターとも連絡を取っている。
 どうやってギャラクターとの遣り取りをする糸口を掴んだのだろうか…?」
ジョーは疑問に思っていた事を口にした。
「裏社会に生きる人物だからな。『一発当て屋』だか何だか知らんが、随分危ない橋を渡っているようだぞ」
健が眉を顰めた。
「エジソン川で人が殺された事件。あれは取引が拗れてマネックスがやらせた物らしいと言う噂がある」
「ほう〜。殺人にも手を染めているのか」
ジョーは顎に手を当てて考え込んだ。
「やっぱりなかなかの悪党じゃねぇか」
「まあ、そう言う事だ」
「科学忍者隊がこの任務に宛てられたのもそう言う事か」
ジョーは納得した。
「とにかく明日に備えて、今日は休む事にしよう。昨日の簡易宿泊所でいいか」
健が言った。
「ゴッドフェニックスまで戻って寝るのとどっちがいいか?と訊かれたら、おいらは昨日の安ホテルでいいや」
「おらも。早く眠りたいわい」
「楽な方に走る奴らだな」
ジョーが苦笑いをした。
「明日の取引の時間までには随分あるわ。作戦を練っておかないと」
ジュンが言った。
「そうだ。宿泊所に行く前に此処で作戦を練って行こう」
「ええ〜?まだ寝られないの?」
甚平はそう言ったが、まだ夜の9時だった。
その時、健のブレスレットが鳴った。
健は1人レストランを出て行った。
戻って来た時、彼は材料を持っていた。
「取引の場所を知らせて来たそうだ。ナンデス山脈の北西15kmの地点。
 一旦ゴッドフェニックスに戻ってその場所を確認する必要がある」
「それなら決まりだな。今夜は簡易宿泊所じゃなくて、ゴッドフェニックスに戻ろうぜ」
ジョーが言った。
「そうしよう。全員Gメカに分乗して戻るぞ」
「ラジャー」
そうして食事の時は終わった。




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